青森《八戸市美術館》
100年後の八戸市を創る美術館
近年、続々とアートスポットが誕生している青森県。1986年に開館した八戸市美術館が11月3日(水・祝)にリニューアルオープンした。新館長に日本大学理工学部建築学科教授で建築家の佐藤慎也氏を迎え、「種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する美術館」をテーマに、作物が実るようにファームのような美術館を目指す。開館記念「ギフト、ギフト、」では、計11組のアーティストやコレクションが参加。写真家・浅田政志氏、田附勝氏をはじめ、八戸市に滞在して制作した作品が多数展示される。
八戸市美術館
1986年11月21日、八戸市の中心市街地である番町に八戸市美術館は開館。青森県内で最初の博物館法に基づく美術館であり、八戸市博物館の分館として設置された。それは、もともと八戸税務署だった建築を美術館に改修したもの。2017年4月2日に閉館するまでの約30年の間に、数多くの展覧会を開催した。そのほか、教育普及にも力を入れ、ギャラリートークはもちろんのこと、子どもから大人まで楽しめる創作講座を開催。
出会いと学びのアートファーム
八戸市美術館は、アートを通した出会いが人を育み、人の成長がまちを創る「出会いと学びのアートファーム」をコンセプトとしている。従来の「もの」としての美術品展示が中心だった美術館とは異なり、「ひと」が活動する空間を大きく確保することで、「もの」や「こと」を生み出す新しいかたちの美術館として、新たな文化創造と八戸市全体の活性化を図ることを目指している。
誰もが気軽にアートに触れられる機会を提供する「展覧会」と、市民とともにアートを介して出会いや学びを誘発するさまざまな「プロジェクト」を展開していく。また、八戸の美術を中心とした「コレクション」を未来へと引き継ぎ、従来の立場や枠組みを超えて、アートと人との出会いの輪が広がり、そこから得た学びが栄養となって人々の感性や創造力が育まれ、まちや暮らしをより豊かなものにする美術館を実現する。
そのために、美術館活動に主体的に関わる市民を、アートでコミュニティを耕して育む「アートファーマー」と呼び、アーティストや専門家、美術館スタッフなどとともに学び合いながら、さまざまな経験ができる環境をつくり出す。また、美術館活動を一緒に行う「共創パートナー」たちと、地域の新しい価値を生み出していく。
さらに「学校連携」として、子どもたちの力を伸ばして自ら新しい価値をつくり出せる人を育むために、教育委員会や小中高校との連携を図り、美術館から学校へと広がっていくプログラムを行うとともに、市内の大学・高専が有する専門性と連携して、経済や福祉、まちづくりなど、アートの力を他業種や他分野と融合させるプログラムを行う。
互いに学び合い、多様な活動を支える2種類の空間
@阿野 太一
八戸には地域の風俗や民俗に根ざした深い文化があり、特異で美しい風景がある。新しい美術館は、これらの文化資源を種として拾い上げ、調査研究することで実らせ、新しく価値付けすることで育て、そして誰でもアクセスできる形に収穫=展示・収蔵することが目指されている。
ここでは誰もが何かについての専門家であるという認識のもと、市民や美術館スタッフ、アーティストが立場を入れ替えながらさまざまな活動が生まれていくことが期待されている。八戸市美術館は、誰もが互いに学び合い、そのことが何かをつくり出すことのきっかけになったり、作品になったりするような活動が生まれるためには、2種類の空間が必要だと考えた。教える人と学ぶ人が同じ場を共有でき、可動間仕切りや家具で自在に場所をつくることであらゆる活動を可能とする「ジャイアントルーム」と、専門的に深く学び、違う専門性に出会うことができる、展示や制作といったさまざまな機能に特化した「個室群」。
これらの自由な組み合わせによって、つくったり考えたり集まったり、出会ったり発見したり気づいたりといった豊かな機会が生まれることが、新しい美術館に必要だ。
建築家
西澤徹夫(にしざわ・てつお)
1974年京都府生まれ。2000年東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。青木淳建築計画事務所にて「青森県立美術館」、「ルイヴィトン銀座店」担当。2007年西澤徹夫建築事務所開設。主な作品に「東京国立近代美術館所蔵品ギャラリーリニューアル」(2012年)、「京都市京セラ美術館」(2019年)。「映画をめぐる美術──マルセル・ブロータースから始める」展(2014年)、「Re: play 1972/2015―「映像表現 ’72」展、再演」展(2015年)(以上東京国立近代美術館)、「今和次郎 採集講義」展(2009年、パナソニック汐留ミュージアム、青森県立美術館)、「シンコペーション:世紀の巨匠たちと現代アート」展(2019年、ポーラ美術館)、ほか展覧会会場デザイン多数。2020年京都建築賞、AACA最優秀賞、第62回毎日芸術賞、優秀建築選2020JIA日本建築大賞、2021年日本建築学会賞(作品)受賞。
建築家/編集者
浅子佳英(あさこ・よしひで)
1972年神戸市生まれ。2010年東浩紀とともにコンテクチュアズ(現ゲンロン)設立、2012年退社。2007年タカバンスタジオ設立。2021年出版機能を追加し株式会社PRINT AND BUILD創立。第一弾として『デザインの現在 コンテンポラリーデザイン・インタビューズ』(土田貴宏著)出版。建築作品に「gray」(2015年)など。主な論考に「コム・デ・ギャルソンのインテリアデザイン」『思想地図β Vol.1』(2010年)。共著に『レム・コールハースは何を変えたのか』(2014年)など。商業空間を通した都市のリサーチとデザインを得意とし、街中のショップをリサーチする「TOKYOインテリアツアー」、都市をリサーチした展覧会「TOKYOデザインテン」、公共空間のリサーチ「パブリック・トイレのゆくえ」(2017年~)の企画監修などを行う。
建築家
森純平(もり・じゅんぺい)
1985年生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科建築専攻修了。2013年より千葉県松戸を拠点にアーティスト・イン・レジデンス「PARADISE AIR」を設立。世界のアーティストが街に滞在している。主な活動に遠野オフキャンパス(2015年〜)、東京藝術大学美術学部建築科助教(2017年~)。「たいけん美じゅつ場VIVA」 設計/ディレクター(2019年〜)。
市民とともに八戸の未来を支える
「八戸市美術館」のシンボルマーク
このシンボルマークは、美術館機能の特徴である「ジャイアントルーム」からの発想。大きなスケール感を表す歪み。その上に現れる大きな円形の「余白」。このシンボルによって支えられた余白を「八戸の未来」とすると、ジャイアントルームを表したシンボル自体が、それを支える土台に見えてくる。
ジャイアントルームを通して市民とともに生み出されたものごとが、未来の余白に次々と描かれていく──このシンボルマークはそのような姿をイメージ。デザインを担当した加藤賢策さんは、「八戸市美術館がこれからの八戸の未来を描き続けるための「大きな土台」になってほしいと願っています。」と語る。
アートディレクター/グラフィックデザイナー
加藤賢策(かとう・けんさく)
1975年生まれ。株式会社ラボラトリーズ代表。武蔵野美術大学大学院視覚伝達デザインコース修了。武蔵野美術大学、横浜国立大学非常勤講師。美術館や展覧会の広報物、カタログ、サイン計画のほか、エディトリアルデザインやウェブデザインなどを数多く手がける。
種を蒔き、人を育み、100年後の八戸を創造する「八戸市美術館」。八戸三社大祭を切り口に、八戸ならではの“ギフト”の精神をさまざまな視点から探っていく姿に注目だ。
八戸市美術館
住所|青森県八戸市大字番町10-4
Tel|0178-45-8338(代表)
開館時間|10:00~19:00
定休日|火曜(祝日の場合は翌日休)12月31日、1月1日
入館料|展覧会により異なる
https://hachinohe-art-museum.jp