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《北海道フードイノベーションサミット2025》
「観光」が地域の食と農を変える!
佐賀県嬉野市と北海道余市町が成功した理由とは?

2025.7.28
<small>《北海道フードイノベーションサミット2025》</small><br>「観光」が地域の食と農を変える!<br><small>佐賀県嬉野市と北海道余市町が成功した理由とは?</small>

「食と農」の可能性をUNLOCK(解放)して新産業の創造を目指す「UnlocX」は、2025年5月29日、「北海道フードイノベーションサミット2025―食農と街の未来を考える」を開催。北海道をはじめ日本全国で先進的な取り組みを進める50人のスペシャリストを登壇者に迎え、熱い議論を交わした。

日本最大の食料基地、北海道で
フードイノベーションサミットを初開催

会場は、日本ハムファイターズの新球場「エスコンフィールドHOKKAIDO」を擁する「北海道ボールパークFビレッジ」

北海道は、食料自給率218%(カロリーベース)を誇る“日本の食料供給基地”であると同時に、歴史的に培ってきた技や食文化、食農を探究する企業や専門家が集結する食農の最先端地域でもある。そんな北海道を会場とした同サミットは、「Food-X Project」を進める「三菱UFJ銀行」と、北海道を拠点に新しいまちづくりに取り組む「ファイターズ スポーツ&エンターテイメント」をコアパートナーとして初開催した。

「試合がない日も足を運びたくなる街」を目指し、多様な企業・団体・行政・学校などが協業し賑わいを創出している

参加者は、農業・酪農・水産業にかかわる事業者のほかにも食品や製造装置のメーカー、小売や外食など飲食産業、金融、不動産、メディア、有識者などの多様なステークホルダーたち。それぞれセッションでの議論に耳を傾けるだけでなく、グループディスカッションやネットワーキングディナーを通じて、共創のアイデアや新プロジェクトの種を発見し、生み出していく場となった。

「観光は地域の食農をどう変えるのか」
地域創生を牽引するトップランナー達が登壇

第2部「北海道から食農領域の未来を語る」のセッションで、コーディネーターを務める小誌編集長の髙橋俊宏

当日のセッションは、午前は第1部として「北海道フードイノベーションサミットの目指すところと北海道の可能性」をテーマとして開催。午後の第2部では会場をふたつに分けて「北海道から食農領域の未来を語る」と「食農×まちづくり」のセッションを開いた。

中でも、佐賀県嬉野市で温泉旅館「和多屋別荘」を経営する小原嘉元よしもとさんと北海道余市町長の齊藤啓輔さん、そして小誌編集長の髙橋俊宏がコーディネーターとして登壇した、「観光は地域の食農をどう変えるのか」をテーマにしたセッションは、サミット唯一の“観光”を切り口とした食農産業の可能性を探るセッションとなり注目を集めた。

小原さんは、温泉、茶、焼物などの伝統文化を新しい切り口で表現した「ティーツーリズム」を新しい旅のスタイルとして提案

はじめにマイクを握った小原さんは、「嬉野市には、1300年前から湧出する嬉野温泉があり、500年前に栽培がはじまった嬉野茶、400年前から続く肥前吉田焼という伝統文化があります。いわば『地域OS』が揃っているのです」と説明。

2016年より小原さんと茶農家や肥前吉田焼窯元の若手メンバーが取り組んできた「嬉野茶時ちゃどき」プロジェクトでは、街を望む高台の茶畑に設けた「天茶台」で茶を楽しんだり、旅館で料理とのティーペアリングを堪能したりなど、一杯のお茶を求めて旅をする「ティーツーリズム」の概念を地域に根付かせた。

「伝統文化などの文化資本は目には見えにくいものです。その文化資本の可視化に取り組むことによって嬉野茶の高付加価値化に成功し、茶農家の世帯収入もアップしました」と小原さんは胸を張る。

トップ次第で地域は変わることができる、と話す余市町長の齊藤さん。自らも学び、国内外のワインの資格を有する

一方、余市町長の齊藤さんは「人口減少・少子高齢化の中でも地域の所得を安定的に確保するためにはどうすればよいか? を考え、マーケティングとブランディングの観点からワインで一点突破の政策を打ち出しました」と紹介。

約40年前から欧州系ワイン用ブドウの栽培がはじまった余市町には、20のワイナリーと50以上のブドウ農家がある。齊藤町長は、北欧にあるトップレストランに輝いたことのある「nomaノーマ」に余市のワインをオンリストしたり、老舗ワイングラスメーカー「リーデル・ジャパン」や仏ブルゴーニュの銘醸地ジュヴレ・シャンベルタン村と協定を締結したりと、「ワインの町・YOICHI」ブランドの確立を導いてきた。

齊藤さんは「産業としてすでに存在していたブドウやワイナリー、つまり『地域OS』を強固で唯一のものにするべく取り組みを進めてきました。ワイン産業は裾野が広く、ワインを飲むための飲食店やコンドミニアム、宿泊施設などツーリズムの充実にもつながっていますし、今後も誘致を進めたい」と意欲的に話した。

「観光はその地域を知るための『入り口だ』」と話す髙橋。地域OSを可視化、再構築することで新たな価値が生まれる

二人の話を受けた高橋は、「数百年の歴史あるお茶に着目した嬉野のティーツーリズムと、剃刀の刃のようなマーケティングによってワインで地方創生を実現している余市には共通点がある」と話した。

それは、茶葉もブドウも嗜好品である農産物ということだ。
「自然資本によってもたらされる茶やブドウという農産物があり、そこから人の営みによって茶道やワインという文化資本が生まれる。それを可視化、再構築することで新たな価値を見出したのが、トップランナーであるこちらのお二人なのです」と髙橋。

農産物の収穫体験などの農業にかかわることが旅の目的となるなど、いま、「食べる」だけではない食と農のツーリズムに関心が集まっている。生産現場での体験が地域社会にもよい変化を与える――。そんな地域が増えていく未来に期待したい。

農業の最先端に触れるツアーや
参加企業によるブースなども充実

参加企業や団体の活動を紹介するブース。小誌『Discover Japan』のブースでは、バックナンバーを展示
最先端のアグリテックがどのように農業の課題を解決するかを実際の作物を通して体感できる「KUBOTA AGRI FRONTツアー」
ファイターズガールがエスコンフィールドの見どころを解説する「スタジアムツアー」も

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問い合わせ|Unlocx

画像提供: 北海道フードイノベーションサミット2025
Text: Tomoko Honma

 


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