佐賀《カレーのアキンボ》
東京→佐賀へのUターンでかなえた夢。
土地の恵みを表現するスパイスガストロノミー
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佐賀市にある「カレーのアキンボ」は、完全予約制・コースのみという営業スタイルで全国のカレーフリークを魅了するガストロノミーだ。東京で名を馳せながら故郷にUターンした店主・川岸真人さんに話をうかがった。
川岸さん、何に惹かれて佐賀へ移住?
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佐賀県出身。日本大学芸術学部油絵科卒業。2010年、東京・錦糸町に「カレーのアキンボ」をオープン。2015年にUターン移住し、完全予約制・コースのみの営業にリニューアル
カリっと歯応えのあるカリフラワー、シャキシャキのレンコン、ほっくりしたサツマイモ……。それぞれの食感が輪郭を帯びながら、スパイスで引き出された味わいが口の中でじんわり広がる。
「スパイスはあくまで補助。うちの料理の主役は野菜なんです。それは佐賀の食材があるからこそ。お客さまに『美味しいですよね』って無意識に言ってしまうこともあります」
そう柔和に笑う川岸真人さんは、東京の美大を卒業後、寿司店で働くかたわらカレーに開眼。独学でその世界を探求し、2010年に東京・錦糸町で「カレーのアキンボ」をオープンした。細分化が進むカレー業界の中で名を馳せたが、5年後に地元・佐賀にUターン移住し、リニューアルした。
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「東京では、お客さまの回転率を上げる必要もあり、やりたかったことができなかったのが大きいです」
理想は、ゆったりした時間が流れる中、カレーを味わうお客と会話も楽しめる空間。それを実現したのが、完全予約制、昼・夜各最大4名限定のコースで提供する現在のスタイルだという。全7皿の料理は、何よりその日の素材ありきだ。動物性の油は極力使用せず、主張させ過ぎないスパイスや野菜の出汁で、旨みや香り、味わいを繊細に引き出す。その独創的なスパイスコースは、県外からわざわざ訪れるカレーフリークやフーディたちを魅了している。
「佐賀に戻ってから明らかに料理がレベルアップしたのを実感しています」
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土地の旬を“そのまま”味わう
スパイスのフルコース
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それは、100種類以上の野菜を自然のまま育てる「古閑ベリー園」や赤身肉専門店「TOMMY BEEF」など、県内生産者との出会いが大きいという。
「重要なのは、誰がつくっているか。顔の見える方々からいただく食材の中でアイデアを絞ってつくるのが本当におもしろい。こうした食材や人はもちろん、日々の暮らしの中で気づかされる自然の美しさといった佐賀の魅力を、料理や会話を通して伝えていくのも自分の役割だと思っています」
そう話す川岸さんが信頼を置く酪農家兼チーズ専門店が、嬉野市の「ナカシマファーム」だ。Uターン移住して家業を受け継いだ3代目・中島大貴さんは、持続可能な循環システムで酪農を実践。日本ではじめて製品化したブラウンチーズや酪農家によるミルクブリューコーヒー専門店をオープンするなど、イノベーティブな活動で佐賀に新しい風景をデザインし、地域の雇用も創出している。
「佐賀にはおもしろいつくり手やお店が多く、そうした出合いも楽しんでほしいです」と中島さん。
今春、カレーのアキンボを起点に、佐賀の個性あふれる食、人、そして新しいカルチャーに触れる旅に出掛けてみてはいかがだろうか。
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九州名産のつぼみ菜とヤリイカのスパイス漬け。つぼみ菜のピリッとした辛みとイカの甘み、ニンニクとスパイスに和えたニンジンの葉の香りが一体となり初春の訪れを感じさせてくれる
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冬に咲いた菜の花としめじ、原木しいたけ、原木なめこを、ドライハーブのカスリメティを加えた野菜の出汁で軽やかなスープ仕立てに。散らしたユズの皮が爽やかに香る
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クミンやコリアンダーなど7種のスパイスとヨーグルトに漬け込み、ローストした鶏もも肉は軟らかさと香りが素晴らしい。酢漬けの赤らっきょうとチーズが酸味とコクを加える
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山椒とニンニクのオイルで和えた甘みのある焼き野菜に、苦みのある葉野菜を合わせた味のコントラストが楽しめるひと皿。焼きミカンとすりおろした生姜を合わせたペーストでいただく
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TOMMY BEEFから仕入れる白石町のブランド牛「しろいし牛」のキーマカレー。挽き肉ではない粗切り肉の食べ応えを際立たせ、鹿島市で採れるサフランで炊いたヒノヒカリと合わせた
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強火で炒めた野菜はスパイスで香りが調和しながら、それぞれの食感が際立っている。添えたのはスリランカ料理のパリップをイメージしたレンズ豆とニンジンとスパイスで炊いたご飯
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デザートは5種類の柑橘のアイスクリーム。香りが濃厚なブッシュカンはインド原産の珍しい柑橘。牛乳を煮る際に忍ばせたコリアンダーやローズマリー、ショウガがほのかに香る
カレーのアキンボ
住所|佐賀県佐賀市大和町川上475
Tel|080-6426-4170(完全予約制)
営業時間|12:30~、19:00~
定休日|木・金曜
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食材そのものだけじゃない。
“つくり手”も、佐賀の魅力です。
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セミハードタイプの「水田のチーズ(ゴーダ)」。できたてのモッツァレラチーズなどのオリジナルチーズは牧場併設のショップで購入可
自社水田で育てた稲を乳牛に与えて乳を搾る。その牛が出すフンから堆肥をつくり、水田の肥料とする持続可能な循環システムを実践。搾りたての温かいミルクでつくる「牛の体温をすてない」独自製法でつくるチーズは世界的な賞を受賞。人と街、牧場をつなげる活動で酪農の魅力を発信。
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ナカシマファーム
住所|佐賀県嬉野市塩田町真崎1488
Tel|090-5293-8680
営業時間|11:00~16:00、土・日曜10:00~
定休日|月・火曜
佐賀のヒト、モノ、コトをもっと知りたい方へ。
テレワークから移住まで、いろんな入り口揃っています!
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玄界灘と有明海に面し、広大な佐賀平野や脊振山(せふりさん)といった美しい自然の原風景が広がる佐賀県は、佐賀−博多間が最短40分と通勤・通学圏にあり「自然と都市のいいとこ取り」をできるのが魅力。さらに、一年を通して穏やかな気候で自然災害や犯罪件数も少ないことから、都市部からの移住先として注目を集めている。お試しでのテレワークから本格的な移住まで各種支援金が充実している。
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いまの仕事をテレワークで続けながら移住をしたい方には「お試しテレワーク移住補助金」がおすすめ。宿泊代や交通費、コワーキングスペース利用料、レンタカー代など県内での費用を最大15万円補助してもらえる(15日〜3カ月以内)
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本格的に移住を考えている方は、移住支援金をチェック。東京圏からの移住だけでなく佐賀県独自に対象を全国へ拡大。県外から移住された方が対象で単身は60 万円、世帯は100万円の支援が受けられる。詳しい条件は「サガスマイル」ウェブサイトへ
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問|佐賀県 地域交流部 さが創生推進課 移住支援室
Tel|0952-25-7393
Mail|sagaiju@pref.saga.lg.jp
text: Ryosuke Fujitani photo: Kenji Okazaki
Discover Japan 2023年3月号「移住のチカラ!/移住マニュアル2023」