富山県砺波市「楽土庵(らくどあん)」
美しい農村風景に佇むアートホテルで、リトリートからリジェネラティブな滞在へ。
美しい農村景観が広がる富山県砺波市。この地に宿とレストランを併設したアートホテル「楽土庵」が2022年10月に誕生する。旅によって自分を癒すだけではなく、その旅が地域も癒し、再生へと向かうことに寄与する新たな旅スタイル「リジェネラティブ(再生)・トラベル」を提案する、新施設をひも解こう。
"人と自然"を回復・再生へ導き、
地域に還元する旅を。
富山県西部に位置する砺波市。ここには田園の中に家屋が分散する稲作農村形態「散居村」があり、中でも砺波平野の散居村は、扇状地に日本最大であるおよそ220㎢にわたって広がる。その姿は小島が大海原に浮かぶ姿にも似て美しく、日本の農村の原風景のひとつであるとも言われている。水張りをした一面に夕陽が反射して幻想的な情景をつくる春から、雪景色の冬まで、四季折々に美しい表情を見せてくれる。
この地域には、民藝運動の創始者である柳宗悦が名付けたとされる、「土徳(どとく)」という言葉がある。厳しくも豊かな環境の中で、恵みに感謝しながら、土地と人が自然とともにつくり上げてきた品格を言い表している。富山の散居村は、人と自然の共生から生まれる「土徳」の象徴。土地の水脈に沿って水路や田畑をつくり、家を建てる。自然のグランドルールに則ってつくられた景観だからだ。
かつて、この地を訪れた英国の陶芸家であるバーナード・リーチが、「世界にも類を見ないこの土地の美しさは、百姓によって生み出されている」と絶賛した富山の散居村だが、その景観の維持は年々困難になっている。
「楽土庵」は、この散居村の中に建つ富山県の伝統的な家屋様式「アズマダチ」の古民家を再生して宿泊施設にすることで、訪れる人がこの土地の「土徳」に触れて自己の回復に繋がることを目指す。また、同時に滞在の収益の一部を散居村や地域の伝統文化保全にも寄与する「リジェネラティブ(再生)・トラベル」を提唱している。
空間・工芸・アート作品から
「土徳」を体感する
同施設は三方を水田に囲まれた、築約120年のアズマダチの建物を活かした、1日3組限定のスモールラグジュアリーな宿。周囲の自然環境や歴史と切れ目なく繋がるように配慮され、空間には古来からの自然素材である土や木、竹、和紙、絹などが使われる。
施設内には芹沢銈介や濱田庄司、河井寛次郎らによる質の高い民藝から、唐や李朝の骨董、現代の工芸・アート作品までを設え、人が自然とともにつくる「土徳」を空間やアート作品からも体験することができるようになる。
また建築デザインは、富山と東京を中心に活動する、タイムレスで上質な美しい空間づくりに定評のある「51% 五割一分(ごわりいちぶ)」が手掛ける。
土地の歴史と文化を伝えるガストロノミー
施設内には、地域の海・山・里の食材を使って本格的なイタリア料理を提供する全20席のレストラン棟が新築され、地元含め国内の工芸作家によるオリジナル食器が使用される。それらの食器や宿泊棟に設えられたアート作品は、併設のショップで購入可能。地域食材の地消、作家作品や地元の伝統工芸品の販売が地域への還元にも繋がる仕組みだ。
茶道、華道、農業…
リジェネラティブな体験
「楽土庵」の運営元である「水と匠」は、富山県西部地区を中心とした観光地域づくり法人であり、これまでも富山の土徳を体感するツアープログラムを数多く提供。
同施設でも、茶道・華道のプライベート稽古や真宗王国・富山に根付いた仏教講座、地域の農家に学ぶ農業体験など、施設内で楽しめるプログラムから、富山の伝統産業工房見学、海・山のネイチャー・アクティビティなど、ゲストの自己回復に繋がる体験を展開。その収益の一部を散居村保全に還元する仕組みもつくられる。
自然や他者に感謝しながら積み重ねられてきた富山の営みは、サステナブルやウェルビーイングと呼ばれる現代の価値観と共鳴している。そんな富山の地で、アートや工芸、食、体験プログラムなどを通じて、「人と自然がともにつくる美」をいただく。普遍的で新しい滞在体験ができる同施設の開業に注目したい。
楽土庵
オープン時期|2022年11月(予定)
住所|富山県砺波市野村島645
客室数|3室
レストラン|20席
問|水と匠
Tel|0766-95-5170
https://mizutotakumi.jp/
photo=Tanaka Yuki