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富山県の市場に
いち早く、紅ズワイガニが並ぶ理由

2022.11.1
富山県の市場に<br>いち早く、紅ズワイガニが並ぶ理由

北陸の冬の味覚の代表格・カニ。でも、ひと足早く9月1日に解禁されるカニがあることをご存知だろうか? 深海に生息する「紅ズワイガニ」――。富山県は国内でも特に甘くてみずみずしい紅ズワイガニの産地として知られている。その秘密を紹介する。

富山県発祥の「カニかご縄漁」で行われる紅ズワイガニ漁

深海の厳しい環境に生きる紅ズワイガニ

エサをつけた「カニかご」を海に沈める作業。危険が伴うため経験が必要だ

紅ズワイガニは、外見はズワイガニと非常によく似ているが、全体的に赤色が強く、オスは足が長いのが特徴。富山湾は日本有数の深い湾のひとつで、海底には水深1200mにも達する冷たい「日本海固有水」の海が広がっている。ズワイガニが水深200~500m以下の海域に生息するのに対して、紅ズワイガニは水深500~2700mの深海で生きている。水温0.5℃~1℃で、エサとなるものはそう多くはない、厳しい生育環境に適応した固有種として誕生したといわれている。

魚津の漁師が開発した「カニかご縄漁」

「カニかご縄漁の発明と広がりによって魚津の紅ズワイガニの水揚げ量は格段に増えました」と話す、魚津漁業協同組合代表理事組合長の濱住博之さん

「紅ズワイガニは、底引き網漁や刺し網漁でほかの魚に混じって、たまたま網に引っかかって獲れるカニでした」と話すのは、魚津漁業協同組合の代表理事組合長・濱住博之さん。深海に茹でる前から真っ赤で美味しいカニがいることは、地元の人にはよく知られており、「アカガニ」「タテヤマガニ」などと呼んでいたそう。しかし、網に絡まったカニをほぐすのに時間がかかるほか、足がとれてしまうなど問題も多かった。そこで、魚津の漁業者・浜多虎松さんが手編みの竹籠を作り、籠の中にエサを入れて深海に沈めたところ、真っ赤なカニが大量に捕獲できた。これが現在の「カニかご縄漁」の始まりだといわれている。

地元中心の消費からブランド化へ

新湊漁港の紅ズワイガニのセリ場。生の状態で並べられた紅ズワイガニのレッドカーペットは圧巻だ

「カニかご縄漁」によって、昭和30年代前後から水揚げ量が増えた紅ズワイガニ。その特徴のひとつが、鮮度落ちが非常に早いことだ。このため、かつては地元での消費がほとんどで、他県への流通は缶詰などの加工品に限られていた。しかし、その食味の良さが口コミで伝わり人気が上昇するのと同時に、漁業者や漁協、行政がタッグを組んでブランド化に乗り出した。それが「高志(こし)の紅(アカ)ガニ」だ。

富山湾で漁獲され、甲羅幅14cm以上、重さはおおむね1kg以上――などの一定の条件をクリアした紅ズワイガニには、「極上高志の紅ガニ」のタグが付けられる

高級な紅ズワイガニの水揚げで知られる新湊漁港は、全国でも珍しい昼12時半からの「昼セリ」が行われる。新湊漁業協同組合の代表理事組合長・塩谷俊之さんは「より新鮮な紅ズワイガニを流通させるためです」と説明する。「富山県の中でも新湊は船で片道1時間~1時間半と漁場が近い。このため昼セリが可能で、水揚げした紅ズワイガニをその日の夕方には小売店や飲食店に並べることができるのです」。9月1日に漁が解禁される紅ズワイガニ。新湊では2日の昼に市場に並べることができるのは、漁場の近さと鮮度にこだわる漁業者の努力の賜物なのだ。

資源保護に取り組みサスティナブルな漁業へ

「紅ズワイガニの美味しさは鮮度と比例します」と話す、新湊漁業協同組合代表理事組合長の塩谷俊之さん

こうして富山を代表する食材となった紅ズワイガニだが、長期的にみて個体数は減少傾向にある。そこで、県や漁業者、漁協は積極的な資源保護に取り組んでいる。具体的には、①かにカゴの網目を15cmと大きくし、小さな個体は網の外に逃げられるようにする、②メスはすべて、甲羅幅9cm以下のオスは漁獲禁止、③6月~8月の3カ月間を禁漁とする、④漁期であっても自主的な休業日を設定する――などだ。

塩谷さんは「新湊漁協では、毎週日曜と水曜を休漁日にしています。未来に資源をつなぐサスティナブル漁業に取り組むことは、現代の私たちの責任だと考えています」と真剣なまなざしで話した。
 
 

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text: Tomoko honma photo: Hideyuki Hayashi

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