Ento<エントウ> 海士町
地球と人が循環する、未来の島の観光拠点〈後編〉
この夏、島根県・隠岐郡海士町に誕生した、ホテルと隠岐ユネスコ世界ジオパーク拠点のふたつを兼ねた複合施設「Ento (エントウ)」。後編では、サステイナブルな観光の入り口としての本施設を紹介していきます。
持続可能(サステイナブル)で責任ある(レスポンシブル)観光の入り口
地球の誕生からいままで、長い時間軸の中に生きていること、これからの地球のためにできること。Entôにはそんな気づきを得るヒントが随所にちりばめられている。
「ジオパークの拠点、そして持続可能な地域づくりを目指す島の玄関口として、Entôは地域資源や生態系へのインパクトを小さく抑え、訪れた人が気づきを持ち帰ることができる空間づくりを目指しています」とはEntô代表の青山敦士さん。
新棟NESTの建築はコンクリートや鉄に比べて環境負荷の少ないCLT構法を全面に用いた。CLTパネルは工場でCADデータ入力による機械加工が行われる。現場加工を行うことなくビスと金具で接合するため、シンプルで工数が少なく、離島に適した構法である。「CLT材は軽量で耐震強度も申し分なく、曲がった材などのB材も活用できるため、木材を無駄なく使えます。大型ホテルの建て替えとしては全国初の採用であり、島の木造建築に新たな可能性を示す事例にもなればうれしいです」。
そのほか、既存の建物を活用するなど、施設そのものにサステイナブルな視点が生かされている。室内のインテリアやアメニティまで、自然との出合いを邪魔しない必要最小限のセレクトを行った。「都会のホテルは外が遠く感じますが、ここでは外が近く感じられます。“ない”ことが生み出す新しい豊かさを味わっていただければ」。無刺激のシャンプー、島根県安来産の竹の歯ブラシ、島の土で練られた陶器など、目の前に広がる風景に寄り添ったものが選ばれ、自分が自然とともに生きる一員であることを滞在しながら実感できる。色もナチュラルなカラーに統一され、部屋に溶け込んでいる。
ジオラウンジでは太古の生物の化石が展示され、数十億年という時間の蓄積を感じながら過ごすことができる。また、展示室Geo Room “Discover”は地球の誕生と隠岐の誕生、そして人の営みについて重層的に、シンプルな展示を通して学べる場。「ラウンジや展示室で出す情報はあえて絞っています。あくまで実際に島フィールドへと踏み出し、本物に触れるための予習の空間なのです」。展示が白色なのは実際の色やダイナミックさに直接触れてもらうため。「お客さまを施設の外へと送り出し、現場で体感し人と出会う。いまここにいるからこそ可能な時間の過ごし方を提案することが役割です」。
フィールドから客室に戻れば、自然に身を置くような静寂に包まれる。地球の歴史の時間軸上にいまいる自分を知り、未来に向けて問いを持ち帰る。そんなサステイナブルでレスポンシブルな観光への入り口がここにはある。
コース内で循環する海士町ディナー
ディナーコースには海士町産のブランド食材をはじめ旬の味覚が揃う。海士の豊かな湧水と「いわがき春香」の殻、隠岐牛の堆肥を栄養に育った「海士の本氣米」は海士町のブランド米。コースの中の循環にも注目したい。
設計はマウントフジアーキテクツ!
Ento
住所|島根県隠岐郡海士町福井1375-1
Tel|08514-2-1000
客室数|本館18室、別館18室
料金|1泊2食付2万8380円~(税込・サ別)
カード|AMEX、DINERS、Master、VISAなど
IN|14:00 OUT|11:00
夕食・朝食|ダイニング
施設|ジオラウンジ、Dining、SHOPほか
アクセス|飛行機/米子空港からバスで25分→七類港から高速船で110分(フェリー255分)または出雲縁結び空港から30分→隠岐世界ジオパーク空港からフェリーで70分
text: Louie Miura photo: Hidemori Watanabe
2021年9月号「SDGsのヒント、実はニッポン再発見でした。」