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全国で楽しめる
教科書で見た“アレ”と美術館【前編】
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》

2022.11.3
全国で楽しめる<br>教科書で見た“アレ”と美術館【前編】<br><small>《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》</small>
写真提供=福岡市博物館

日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。

〈お話をうかがった方〉
栗原 祐司(くりはら・りゅうじ)
京都国立博物館副館長。小学生のときの夏休みに、博物館を見学するように宿題が出たことがきっかけで、学校よりも楽しく知的好奇心を満足させてくれる施設があることを知り、博物館訪問を開始。以後、学芸員を志すも運命のいたずらで文部省に入省し、博物館政策を専門とする。2012年に念願の博物館現場へ。これまでに全国6500館以上の博物館を訪問。日本博物館協会理事も務める。主な著書に『教養として知っておきたい博物館の世界』(誠文堂新光社)など

あらためて“アレ”を見ると
おもしろい発見があります!

日本には、統計上博物館(博物館法上。美術館や科学館、動植物園、天文台等を含む)が5738館もあります。ただし、約12万件ものコレクションを有する東京国立博物館から、市町村立や私立の小さな資料館まで、その規模や対象分野は千差万別。教科書に掲載されているような歴史上重要な文化財や名品名画は、その多くが大規模な博物館に所蔵されていますが、実はそれらがすべて館蔵品というわけではありません。「寄託」という制度によって、寺や神社、団体、個人が博物館に預けている場合も多いのです。たとえば、有名な『鳥獣人物戯画』(国宝)は、京都・高山寺の所有ですが、「甲・丙巻」が東京国立博物館、「乙・丁巻」が京都国立博物館に寄託されており、高山寺に行っても観られません。このほか、寺社の襖や屏風などは風雨にさらされて劣化が激しくなるため、本物は博物館や収蔵庫にあり、寺社には模写や高精細のデジタル複製が置いてあることも珍しくありません。本物を観るためには、それらが博物館や寺社等で特別公開される日のチェックが必要なケースが多いのです。

なぜ、本物が簡単に観られないのか。歴史上重要な文化財の多くは、文化財保護法に基づき、国宝や重要文化財に指定されています。2022年8月現在、国宝902件、重要文化財1万820件(美術工芸品のみ)が指定されていますが、いずれも保存の観点から文化庁の厳しい公開・移動制限や温湿度管理等の条件が課せられているため、常設展示されているものは少ないというのが実情です。特に日本美術は、紙や絹など脆弱な材質に岩絵具のように退色しやすい顔料が使われているため、普段は安定した環境下にある収蔵庫で保管されています。そのため、貴重な文化財は、残念ながらパリのルーブル美術館にある『モナリザ』や『ミロのビーナス』などのように、博物館に行けばいつでも観られるというわけにはいきません。ただし、たとえば奈良や鎌倉の大仏のように、信仰の対象である寺社の御本尊などは常時鎮座しており、陶磁器や金属、考古資料等比較的頑丈なものは所有者責任で常設展示されている場合もあります。また、毎年決まった時期に公開される文化財もあるので、ぜひ子どもの頃に学んだ教科書を振り返るような気持ちで、本物を観に、博物館に足を運んでみましょう。

なぜ日本の博物館では撮影禁止が多い?

博物館で展示されている作品の中には、館蔵品だけでなく寺社や個人等から借りているものも多くあります。それらの所有者の中には、信仰の対象であることや画像の商業利用防止などを理由に、撮影禁止を求められることが多いのです。皆でマナーを守って見学していきましょう。

雪国の歴史を伝える縄文遺跡の宝庫
『火焔型土器(かえんがたどき)』/十日町市博物館

写真提供=十日町市博物館

2020年6月にリニューアルオープンしたばかり。十日町市の笹山遺跡から出土した深鉢形土器や石器群が、一括して国宝に指定されています。『火焔型土器』は、約5000年前の縄文時代中期に現在の新潟県域で栄えた土器様式で、立体感あふれる文様と均整の取れた造形美を「国宝展示室」で見ることができます。同地域特有の「越後縮(ちぢみ)」や十日町の積雪期用具(いずれも国指定重要有形民俗文化財)なども必見です。

作者不明『国宝・火焔型土器No.1』
制作年|紀元前3300〜2800年頃
材質|土、輪積み、無釉
サイズ|φ438×H465㎜
重量|約7400g
公開期間|火焔型土器は通年。No.1とNo.6を定期的に入れ替えて展示

十日町市博物館
住所|新潟県十日町市西本町1-448-9
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般500円、中学生以下無料
Tel|025-757-5531
施設|ショップ
https://www.tokamachi-museum.jp/

アジア諸国との交流を伝える名品揃い
『金印』/福岡市博物館

写真提供=福岡市博物館

1990年に開館。大陸文化に触れて生産や経済活動を発展させてきた福岡の、歴史文化や時代ごとの重要な資料を中心に展示しています。最も有名なコレクションが、江戸時代に志賀島で発見された「漢委奴国王(かんのわのなのこくおう)」の金印。一辺わずか約2.3㎝、重さ108gの金塊に、年間十数万人の視線が注がれています。

作者不明『金印』
制作年|57年
材質|金、銀、銅など
サイズ|W23×D23×H22㎜
重量|108g
公開期間|通年

福岡市博物館
住所|静岡県福岡市早良区百道浜3-1-1
開館時間|9:30〜17:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般200円、大高生150円、中学生以下無料
Tel|092-845-5011
施設|ショップ
http://museum.city.fukuoka.jp/

1300年の歴史をもつ国宝だらけの巨大寺院
『阿修羅像(あしゅらぞう)』/興福寺国宝館

8世紀に創建された興福寺は、「古都奈良の文化財」の一部として世界遺産に登録されています。実は、日本国内における国宝の仏像のおよそ10%は、興福寺が所蔵。その中でも近年、イケメン仏像としても人気の高いのが、守護神八部衆立像の一体である『阿修羅像』です。2018年1月1日にリニューアルオープンした国宝館では、博物館での特別展とは違い、並ばずに国宝の仏像の数々を拝観することができます。

将軍万福(しょうぐんまんぷく)『阿修羅像』
制作年|734年
材質・技法|木、麻布、漆など。脱活乾漆造、彩色
サイズ|像高1534㎜
重量|約1万5000g
公開期間|通年

興福寺国宝館
住所|奈良県奈良市登大路町48
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の15分前まで
休館日|なし
料金|一般・大学生700円、高中生600円、小学生300円
Tel|0742-22-7781
https://www.kohfukuji.com/

9つの古墳も有する古墳の聖地
『稲荷山古墳出土鉄剣(いなりやまこふんしゅつどてっけん)』/埼玉県立さきたま史跡の博物館

9基の古墳を中心とした「さきたま古墳公園」内にある考古学専門の博物館。1968年に埼玉県行田市の埼玉古墳群の稲荷山古墳から出土した鉄剣は、鉄剣の両面に115文字の漢字が、溝に金糸を埋め込む技法・金象嵌(きんぞうがん)で表され、「金錯銘鉄剣」とも呼ばれる日本古代史を解明する上で欠かせない貴重な史料です。国宝展示室の窒素ガスを封入したケースに保管・展示されており、各古墳から出土したヒスイの勾玉や鏡、帯金具なども見応え十分。

作者不明『稲荷山古墳出土鉄剣』
制作年|不明
材質|鉄、金など
サイズ|全長735㎜
重量|保存処理の都合上不明
公開期間|通年

埼玉県立さきたま史跡の博物館
住所|埼玉県行田市埼玉4834
開館時間|9:00〜16:30(7〜8月は〜17:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜、祝日(4月29日〜5月5日を除く)、ほか不定休あり
料金|一般200円、大高生100円、中学生以下無料
Tel|048-559-1111
施設|ショップ
https://sakitama-muse.spec.ed.jp/

 

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text: Discover Japan, Yuji Kurihara
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」

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