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高知・梼原町「隈研吾の小さなミュージアム」
隈研吾の木造建築は、小さな町から始まりました。前編

2021.9.21
<small>高知・梼原町「隈研吾の小さなミュージアム」</small><br>隈研吾の木造建築は、小さな町から始まりました。前編

国立競技場をはじめ、JR高輪ゲートウェイ駅や角川武蔵野ミュージアムなどを手掛ける世界的建築家・隈研吾氏。大きな特徴のひとつでもある木材をふんだんに取り入れた建築のきっかけとなったのは、高知県梼原町にある古い芝居小屋でした。小さな町に6つの隈研吾作品が集まる梼原町は、町全体がミュージアムと言えます。「隈研吾の小さなミュージアム」を拠点にめぐる、梼原町の隈研吾作品をひも解きます。

隈 研吾(くま けんご)
建築家。東京大学建築学科大学院修了後、隈研吾建築都市設計事務所を設立。日本建築学会賞、フィンランドより国際木の建築賞、イタリアより国際石の建築賞ほか国内外で受賞多数。土地の環境、文化に溶け込む建築を目指す。主な著書に『点・線・面』など。

「梼原町は建築デザインと人生を変えてくれた場所」

ミュージアムの舞台となる梼原町は、町面積の91%を森林が占め、標高1455ⅿにもなる雄大な四国カルストに抱かれた自然豊かな山間の小さな町

1948(昭和23)年、戦後復興期の木材景気により林業が栄え、宿場町として多くの人で賑わっていた梼原町に建てられた芝居小屋「ゆすはら座」。大正時代の和洋折衷様式を取り入れた美しい建造物は、東寺は「梼原公民館」という名称で、芝居や歌舞伎、映画上映など、町民の娯楽の場として親しまれていた。

しかし、時代とともに利用頻度が減少し、建物自体の老朽化も進行。一時は取り壊し案も挙がったが、高知県唯一の木造芝居小屋であるという稀少価値と、町民とともに歩んできた歴史を大切にしたいという思いから、1994(平成6)年に「ゆすはら座」と改称し、翌年に現在の場所へ移築・復元された。

この保存運動には、高知市の建築家・小谷匡宏氏が関わっており、小谷氏が当時若手建築家だった知人の隈研吾氏を呼び寄せたことが、隈氏が梼原町を初来訪するきっかけとなった。隈氏はそれまで木造建築には関わっていなかったが、「ゆすはら座」の素晴らしさに感銘を受け、以降木造建築にこだわっていくこととなる。

まさに、“隈研吾の木造建築のルーツは梼原町にあり”。隈氏自身も後に「梼原町との出会いが私の建築デザインを変えた」、「その土地の木材や、地域に受け継がれてきた建築技術に注目するきっかけもゆすはら座だった」と語っている。

隈氏のルーツとなったゆすはら座は、趣のある外観に加えて内部も見学可。モダンな外形や花道のついた舞台、2階の桟敷席、天井の木目の美しさなど、隈氏はゆすはら座から得たインスピレーションやアイデアを現代建築に応用している。
住所|高知県高岡郡梼原町梼原1496
Tel|0889-65-1350(梼原市教育委員会)

梼原町の自然と歴史の中に息づく、隈研吾建築

深い森の中、山の斜面に水田が広がる豊かな自然に囲まれた梼原町。この地で木造建築の新たな可能性を知った隈氏はその後、ホテルや庁舎、福祉施設、図書館など、5ヵ所6つの建築設計を手掛けていった。木橋ギャラリーの一画にある「隈研吾の小さなミュージアム」を拠点に町歩きをしながら楽しめる隈研吾作品をご案内。

隈研吾が梼原町で最初に手掛けた
「雲の上のホテル・レストラン」

1994年竣工

もとは農林水産省の構造改善事業として、農協運営のステーキハウスを建築する計画で進んでいたが、当時の町長・中越準一氏の英断により、隈研吾設計のホテルとレストランに大幅変更。隈氏への依頼にあたり、木造建築にすることが条件だったが、構造上の理由から鉄骨と木を挟んだハイブリッド構造がとられた。

“雲の上のまち”をテーマに、飛行機の翼のような形の屋根は雲を、建物の下は青空と星を映し込む棚田をイメージした半円形の池を設置。これは、都会で生まれ育った隈氏が、梼原町に初めて訪れたときに感動したという千枚田の風景から生まれたデザインだ。西日が射す大きな窓は、夕陽をドラマチックな演出に、と考えられたもの。

また当時の内装や灯りには、梼原町在住のオランダ人土佐和紙工芸家、ロギール・アウテンボーガルド氏の和紙を起用。ロギール氏の存在は隈氏にとって刺激となり、その後も度々梼原町の建築物でタッグを組んでいる。

隈氏の梼原町に対する愛情と敬意が細部にまで表れた本施設は、斬新なデザインでありながらも決して景観を損なうことなく、むしろその一部として長年この地に佇み続けている。

ガラス壁面が多用されており、室内にいながらも豊かな自然と一体化できる

雲の上のホテル・レストラン
住所|高知県高岡郡梼原町太郎川3799-3
Tel|0889-65-1100
※建替工事のため2021年10月から営業休止。リニューアルオープンは2024年を予定

木材の未来と日本建築の知恵が結集!
「雲の上のギャラリー」

2010年竣工

別名「木橋ミュージアム」は、森のような建築物を作り、梼原の森の中に溶け込ませたい……という隈氏の思いから始まった、雲の上のホテルに増築されたギャラリー。同時にホテルと温泉を繋ぐ屋内導線という、機能面からも重要な役割を担うもので、渡り廊下棟・ギャラリー棟・ブリッジ棟の3棟で構成される。

この中で最も特徴的なのが渡り廊下棟。枝葉が広がり木漏れ日のような光と影を作り出すべく、日本建築の軒を支える伝統工法「斗栱(ときょう)」をモチーフにしている。ブリッジ部分を見上げると複雑で緻密な様子が分かる。

構造には、両端から刎木(はねぎ)を何本も重ねながら持ち出して橋桁を乗せていく「刎橋(はねばし)」という架構形式を採用。隈氏はこれを「やじろべえ型刎橋」と表現し、世界にも類を見ない架構形式による唯一の建物としてデザイン。そこに梼原産の杉材を幾多に組み上げていくことで、周囲の景観と調和しながらも「梼原町の象徴」としての迫力ある存在感を表現している。

雲の上のギャラリー
住所|高知県高岡郡梼原町太郎川3799-3
問|ゆすはら雲の上観光協会
Tel|0889-65-1187
http://www.town.yusuhara.kochi.jp/kanko/kuma-kengo-museum/
※雲の上のホテル・レストラン建替工事に伴い2021年10月より外観の見学のみ

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