日本全国の美しい名建築
外から見る?中から見る?
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。
〈お話をうかがった方〉
甲斐 みのり(かい・みのり)
文筆家。旅、散歩、お菓子、地元パン®、手土産、クラシックホテルや建築などを主な題材に、書籍や雑誌、ウェブメディアに執筆。さまざまな自治体の観光案内冊子も手掛けている。幼少期から家族旅行で美術館や博物館を訪れるようになり、大阪・京都で過ごした学生時代に名建築めぐりが趣味のひとつとなった。著書『歩いて、食べる東京のおいしい名建築さんぽ』(エクスナレッジ)は、ドラマ『名建築で昼食を』(テレビ大阪)の原案になった
どこから見るかで
建物のおもしろさは変わります
美しいミュージアム建築は、建物そのものにも美術的価値があります。一般的なビルや公共施設と異なる、ストーリー性のあるダイナミックなファサード(正面から見た外観)というのも特徴的です。目当ての施設に向かいながらすでに胸が高鳴り、建物が最初に目に飛び込む瞬間をしっかりとらえられるように進む先を見つめる。写真や映像で事前に知識を得ていても、実際に目でとらえたときの感動は想像を遥かに超えてきます。少し離れて建物全体を眺める楽しみ方もあれば、ゆっくり近づきながら建築素材の質感を鮮明に感じ取るのも醍醐味です。
じっくりと「外から見る」べき特徴的な立面のミュージアムは、周囲の自然と調和するように考えられていることが多く、季節ごとに違った表情を見せてくれます。また、ミュージアムの展示室は作品保護のため、外光を遮断するのが一般的ですが、今回「中から見る」にふさわしい施設として取り上げた地中美術館のように、自然光が差し込む建築は、より長く滞在時間を確保したいものです。差し込む光で作品や空間が変化する、美しい光景にきっと出合えるでしょう。
建築の巨匠はみんな美術館を建てている!
建築界の世界三大巨匠の一人に数えられるル・コルビュジエは国立西洋美術館を、現代日本建築の巨匠・隈研吾さんは根津美術館などを手掛けてきました。所蔵作に負けないくらい、建築そのものが知られているミュージアムも少なくありません。
小さな集落で異彩を放つタイル専門博物館
「多治見市モザイクタイルミュージアム」
施釉磁器モザイクタイル発祥の地で、タイルの生産量全国一の街に2016年に誕生。緑の芝を敷き詰めたすり鉢状の斜面に、タイルの原料を掘り出す採土場をイメージしたファンタジックな建物を設計したのは、独創的な建築を手掛ける藤森照信さん。外壁には茶碗や焼物の破片が埋め込まれ、遠ざかったり近づいたりさまざまな角度から眺めて楽しめます。一部展示室にもタイルを貼り、銭湯の装飾壁や流し台など懐かしい昭和の風景に出合えます。
多治見市モザイクタイルミュージアム
住所|岐阜県多治見市笠原町2082-5
開館時間|9:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|310円
Tel|0572-43-5101
施設|ショップ、体験工房
竣工年|2016年
設計|藤森照信
https://www.mosaictile-museum.jp/
日本建築界の巨匠・村野藤吾の集大成
「玉翠園・谷村美術館」
山間から流れる川や山並みを借景に、造園家・中根金作が設計・監督を手掛けた風流な鑑賞式庭園「玉翠園」と、村野藤吾がシルクロードの砂漠の遺跡をイメージして設計した「谷村美術館」。湾曲した半円形の部屋、洞窟のような部屋に、木彫芸術家・澤田政廣(せいこう)の仏像が展示されています。作品を引き立たせる自然の光と人工照明が織りなす光と影は、天候や時間によって違った表情を見せ、光に包まれた仏像は神々しく幻想的です。
玉翠園(ぎょくすいえん)・谷村美術館
住所|新潟県糸魚川市京ケ峰2-1-13
開館時間|9:00〜16:30 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|火曜
料金|一般500円、高中小生300円
Tel|025-552-9277
施設|カフェ、ショップ
竣工年|1983年
設計|村野藤吾
http://gyokusuien.jp/
作品と建築が一体化した、
埋設された美術館
「地中美術館」
2004年に香川県・直島に設立。美しい瀬戸内海の景観を損なわないようにと、建物の大半を地下に埋設。通常の美術館と異なり、企画展や作品の展示替えがなく、クロード・モネ、ジェームズ・タレル、ウォルター・デ・マリア、3者のみの作品を、コンクリート、鉄、ガラス、木を使用した安藤忠雄さんの設計による建物と共鳴し合うように恒久展示。照明のない展示室は地下にありながら自然の光が注ぎ、朝から夕にかけて、それから季節ごと、刻一刻と作品や空間の見え方が変化します。
地中美術館
住所|香川県香川郡直島町3449-1
開館時間|10:00〜18:00(10〜2月は〜17:00) ※入館は閉館の1時間前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般2100円、15歳以下無料
Tel|087-892-3755
施設|カフェ、ショップ
竣工年|2004年
設計|安藤忠雄
https://benesse-artsite.jp/art/chichu.html
世界一広い金箔天井を有する贅の極み
「川久ミュージアム」
1991年に会員制高級リゾートホテルとして開業しました。建築家・永田祐三さん設計の下、世界中の技術や資材を用いて、総工費400億円を費やして完成。世界一の金箔表面積を誇るエントランスホールや2階回廊の絵画展示エリアなどに、前オーナーが収集した絵画や美術品を展示しており、宿泊者以外も入館して見学することができます。
川久ミュージアム
住所|和歌山県西牟婁郡白浜町3745
開館時間|10:30〜18:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|9月6・7日
料金|一般1000円、大高生800円、中学生以下無料
Tel|0739-42-2662
施設|レストラン、ショップ
竣工年|1989年
設計|永田祐三
https://www.museum-kawakyu.jp/
堪能できる美術館
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1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
3|「日本美術」を楽しめる美術館
4|「自然とアート」を楽しめる美術館
5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
6|日本全国の美しい名建築、外から見る?中から見る?
7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館
text: Discover Japan, Minori Kai
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」