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《長崎県美術館》
隈研吾氏が手がけた、美術と自然が調和した美術館

2022.4.19
《長崎県美術館》<br><small>隈研吾氏が手がけた、美術と自然が調和した美術館</small>

「長崎県美術館」は、世界的にも珍しい運河を挟んだ美術館として敷地内外を問わず連続した“回遊性のある公園美術館”としても親しまれ、屋上庭園は長崎在住の彫刻家・富永直樹氏の作品などを随所に配置。建築デザインを手がけたのは建築家・隈研吾氏。水辺に映える緑の中、自然を感じながら美術を楽しめる「長崎県美術館」の魅力とは・・・・・・。

新しい文化芸術活動の拠点として。

公園の一部としての機能も果たす長崎県美術館

長崎県美術館は、長崎市の中心部に位置する出島の先、「長崎水辺の森公園」に隣接するように場所に建っている。西側は長崎港、東側は市街地に面しているこのエリアは、大浦天主堂、グラバー園などの主要観光スポットからほど近く、繁華街からも徒歩圏内。地理的にも機能的にも、歴史に彩られた長崎の港と市街地とをつなぐ重要な位置を占めている。

長崎県立美術博物館を前身とし2005年、長崎市出島町に開館した。コレクションの柱は明治期以降の長崎ゆかりの美術とスペイン美術。スペイン美術は「須磨コレクション」と呼ばれる個人コレクションを母体とし、中世のキリスト教美術からピカソやダリなど近現代までに及び、収蔵作品数はおよそ8000点。

つなぐ水際、つなぐ建築

2階からみた、ミュージアムショップ

建築は、日本を代表する建築家・隈研吾のデザインによるもの。外光に満ちたエントランス、心地よい風が通り抜ける回廊、水面を臨むカフェ、緑に揺れる屋上庭園には自然と調和した美術館を感じられる。

コンセプトは「呼吸する美術館」。生き物が呼吸をするように、美術館の外にあるさまざまな情報や刺激を吸い込み、それを新しい形の刺激として再び外に放出しながら周囲の人や環境とともに成長を続けていく。

運河を挟み西側と東側ふたつの棟をつなぐ

まず目を引くのが、敷地内の中央を流れる運河。東西に分かれた2つの棟で構成され、運河をまたぐように「橋の回廊」と呼ばれるブリッジがつなぐ。ひとつは市民にも解放されたギャラリー棟、もうひとつは展示室など一般的な美術館の機能をもつ美術館棟と呼ばれている。運河のラインに沿って美術館の中央に出現する空洞は、読書のための図書室や、楽器の練習のためのスタジオ、散歩コース、お弁当を広げる軒下など、ゆったりとした時間を過ごせる空間づくりがされている。

外観は隈建築らしい、縦の線が強調された、花崗岩(かこうがん)でつくられたルーバーを使用。このルーバーは、美術館の建築と外の空間とを切断するのではなく、つなぎ合わせる役割を持つ。ツルツルのガラス面や壁面とは異なり、場所によってテンポを変えながらリズミカルに林立てするルーバーは、人の視線にバラバラと継続的に絡みつき、建築の内と外とを曖昧に隔てる半透明の「柔らかい」建築外被を形成。そしてこのルーバーは、外光を建築に採り入れる働きと、視線を透過させ空間を曖昧に区切るという働きから、視線の奥行き方向に半透明の空間を重層的に展開させ、広くて明るい空間づくりや長崎の暑い日差しに対して、涼しげで深い陰を刻む。

屋上庭園。長崎港を一望できる憩いの場

またギャラリー棟には、「斜め」に盛り土が施され緑の樹木が植えられている。さらにこの「斜め」は「長崎水辺の森公園」と緑がつながる、屋上庭園へと続いている。隈氏は「建築を、大地と再接続し、場所と融合させるために必要」な方法と語る。公園と美術館を一体化させ、長崎の港の風景を一望できる屋上庭園は美術館施設のなかでも最も人気の高いスポット。

ここでは美術館が収蔵しているスペイン美術や長崎ゆかりの美術を中心に5室で展示

常設展示室
美術館のコレクションを中心に展示。全5室で構成され、展示室によって天井高が3.5m~5.0mの範囲で異なる。やわらかな外光が降りそそぐ中庭も心地よい鑑賞空間。

カフェ。昼間は水のきらめきを眺めながら、夜には幻想的なライトアップを楽しめる

長崎県美術館カフェ
美術館の2つの棟を結ぶ「橋の回廊」にはカフェを配置。ガラスに囲まれ、長崎の風景や運河を眺めながら食事を楽しめる。メニューには地元産の食材を使用し、旬の野菜や果物を取り入れている。設置されているテーブルや椅子のデザインは美術館の建築デザインに携わった隈氏によるもの。

ミュージアムショップ
高さ約12mの吹き抜け空間。三方をガラスに囲まれた明るく開放的なエントランスロビの一角にミュージアムショップを配置。ここでは、美術館オリジナルグッズのほか、長崎ゆかりのアーティストによるグッズ、デザイン性の高いアイテム、書籍など来館記念としてはもちろん、長崎のお土産にもぴったりの商品が揃っている。

夕方の屋上庭園

外光に満ちたエントランス、心地よい風が通り抜ける回廊、水面を臨むカフェ、緑に揺れる屋上庭園。四季のめぐりとともにその表情を豊かに変える「長崎県美術館」の空間を楽しんでみてはいかが。

長崎県美術館
所|長崎県長崎市出島町2番1号
Tel|095-833-2110
開館時間|10:00〜20:00(展示室への入場は19:30まで)
休館日|第2・4月曜日(祝日の場合は翌日)、年末年始
入館料|無料

〔コレクション展〕
入館料|一般 420(340)円、大学生・70歳以上310(250)円、小中高生210(170)円
※県内在住の小・中学生は無料。
※( )内は15名以上の団体割引料金。
※身体障害者手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、障害福祉サービス受給者証、地域相談支援受給者証、特定疾患医療受給者証、特定医療費(指定難病)医療受給者証、先天性血液凝固因子障害等医療受給者証、小児慢性特定疾病医療受給者証提示者及び介護者1名は無料。
〔企画展〕展覧会により異なる。
https://www.nagasaki-museum.jp/

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