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高知・梼原町「隈研吾の小さなミュージアム」
隈研吾の木造建築は、小さな町から始まりました。後編

2021.9.21
<small>高知・梼原町「隈研吾の小さなミュージアム」</small><br>隈研吾の木造建築は、小さな町から始まりました。後編

世界的建築家・隈研吾氏の大きな特徴のひとつでもある木材をふんだんに取り入れた建築。そのルーツとなったのは高知県梼原町でした。「隈研吾の小さなミュージアム」を拠点として、小さな町にある6つの隈研吾作品をめぐります。

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知の拠点に留まらない、梼原という"地の拠点"
「雲の上の図書館」

2018年施工

「雲の上の図書館」こと梼原町立図書館は、学び、憩い、文化継承・想像・発信の場の創出を目的として整備され、人と本と文化の懸け橋となるような“ワクワクする図書館”を目指して作られた。1階は総合カウンターや交流広場、ボルダリングコーナーなど、2階は一般図書やコミュニケーションラウンジなどで構成。

訪れてまず驚くのが、靴を脱いで入館する点。晴れた日は、施設をぐるっと取り囲む剥き出しの窓が開放され、どこからでも入ることが出来る。そして、素足で木の床の感触を楽しみながら、各々の好きな場所で座ったり寝転びながら本を読めるのだ。

梼原町産のスギやヒノキをふんだんに使用した室内は、木漏れ日が降り注ぐ森のような空間。フロアに起伏があるのも特徴で、梼原の美しい棚田をイメージしたステージ状の空間や、本棚を兼ねた階段もあり、本の森を探検している気分が味わえる。

「図書館=静かに本を読む場所」という既成概念を飛び越え、それぞれが自分なりの楽しみ方を創造できる本施設。町民ファーストの行政に取り組んできた梼原町と、それを建築という形で支え続けた隈氏だからこそ実現出来た、新しい公共施設の在り方だ。

入館してまず目に飛び込んでくる、幹と枝のような無数の木組み。これは単なる飾りではなく、四方に延びる枝の一本一本が重さを分散し、耐震性に優れた構造体。隈氏「梼原の森がデザインのヒントです」

雲の上の図書館
住所|高知県高岡郡梼原町梼原1212-2
Tel|0889-65-1900

人々を温かく迎えるオンリーワンの庁舎建築
「梼原町総合庁舎」

2006年施工

旧庁舎の老朽化が著しかったことから、防災の拠点機能・住民の利便性向上・環境と町産材の利用を目標に2006年に立て替えられた。当時隈氏が教授を務めていた慶応大学理工学部のシステムデザイン工学科との共同作品。

核パネルをモザイク状に配置した外観も特徴的だが、一歩中へ入ると広がるアトリウムも圧巻。この大規模空間を支えるのは、4本の核柱を1本の柱と見立てた「組柱」と、格子状に組み合わさった「重ね梁」だ。複雑な構造は施工業者泣かせだったそう。しかし、複雑かつ大胆に杉材を組むことで、“木のまち梼原”を感じさせるデザインに仕上がった。

そして歴史や風土に寄り添う隈建築らしく、中央には梼原町に古くから伝わるもてなしの場「茶堂」を設えている。このアトリウムはコミュニティスペースとしても利用でき、役場は事務手続きのためだけに訪れる場所ではなく、町内外の人に広く開かれた交流拠点であることを示している。

また環境モデル都市である梼原町のランドマークにふさわしく、大容量の太陽光パネルや自然空調を前提としたダブルラティス構造などの環境対策技術を多数採用。時代に先駆けてサステナブルな建築物を実現している。

1階中央に設えられた「茶堂」

梼原町総合庁舎
住所|高知県高岡郡梼原町梼原1444-1
Tel|0889-65-1111

梼原町のもてなしの心を具現化した観光拠点
「まちの駅ゆすはら(マルシェ・ユスハラ)」

2010年施工

雲の上のホテル別館として2010(平成22)年に誕生した本施設は、交流・情報発信・地域連携の機能を備えている。1階は地場産品の直売所、2・3階は宿泊施設となっている。

特徴は何と言っても、道路側に面する外壁一面の茅葺。これは前述した梼原町のもてなし文化「茶堂」の茅葺屋根に倣ったもの。茅のファザードは特徴的な景観を生み出すだけではなく、通気性と断熱性に優れ、自然の力で快適な室内環境を創り出している。この茅葺は、町内在住の茅葺職人・川上義範氏が手掛けた。現在全国的に稀少な茅葺職人による丁寧な手仕事が光っている。

内観

内部空間は、「まちの中の“森”」がコンセプト。1階から3階まで吹き抜けた館内には杉丸太の柱を林立させ、森の中を巡るようなイメージに。ホテル通路からは建物内部の様子を見渡すことができ、異素材が調和し、古さと新しさが同居する不思議な光景を目の当たりにできる。

また「町全体がホテル」という考え方から、ホテル内には朝食用の小さな厨房しか備えられていない。宿泊者は町中の飲食店というダイニングに足を運び、そこでより深く町の魅力を感じられる仕組みとなっているのだ。

外壁は年月とともに茅の風合いが変わっていく様も味わい深い。茅葺の寿命は約30年で、使用後は肥料となる

まちの駅ゆすはら(マルシェ・ユスハラ)
住所|高知県高岡郡梼原町梼原1196-1
Tel|0889-65-1117

自然と呼応する、町民に開かれた"まちの家"
「梼原町複合福祉施設(YURURIゆすはら)」

2018年施工

「住み慣れた地域で安心して暮らしたい」という町民の強い願いを叶えるべく作られた本施設。在宅と特別養護老人ホームの中間的な役割を果たすとともに、健康づくりや介護予防の機能も有した複合的な福祉施設だ。旧梼原小学校の跡地に、町立図書館との複合体という形で建設された。近くにはこども園や体育館があり、多世代が交流するコミュニティのコアにもなっている。

最初に目を引くのは屋根の様子。隣接する図書館の屋根と合わせると、まるで山脈のようにも見える。これにより、背後の山並みの景観との調和が実実現。梼原産の核板をまとった外壁と相まって、山里の風景に違和感なく溶け込んでいる。

内装には、雲の上のホテル・レストランと同じく土佐和紙工芸作家・ロギール氏の手漉き和紙をはじめとする自然素材を用いて、我が家のような温かみのある雰囲気に。衛生上木材を使えない箇所には木目調の建材で代用するなど、施設に通う人、暮らす人、働く人のための配慮が随所に施されている。機能的なだけではなく、美しいだけでもない。まさにバリアフリーと建築デザインが高次元で融合した施設と言える。

梼原町複合福祉施設(YURURIゆすはら)
住所|高知県高岡郡梼原町梼原1212−2
Tel|0889-65-1800

四季折々の豊かな自然に囲まれた梼原町。至るところに手付かずの自然が残るこの地に魅せられた隈氏の想いと建築作品を辿るように、町を巡ってみてはいかがだろうか。

≪前編を読む

text=Discover Japan


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