武田双雲の半生
2009-2012 武田双雲の名が知れ渡っていく。
日本を代表する書道家・武田双雲さんが歩んできた道のりに迫る特集《書道家・武田双雲の半生》。第2回は注目作品の題字を担当し、活躍の場を広げていった時期のことをうかがった。
書道家・武田双雲の名を広く響き渡らせたのは、NHK大河ドラマ『天地人』の題字であろう。プロデューサーからの熱烈なオファーにより実現したが、ほぼ無名の頃であったがゆえに、放送前は多くの批判が届いたという。
「あまりにも迷惑をかけているので泣きながら辞退を申し出たら、プロデューサーの内藤愼介さんが『僕が惚れた書なんです。このドラマには双雲さんの書がぴったりなんですよ』と矢面に立ち対策をしてくれたんです。クレームは初回の放送以降ピタリと止まり、感動の声を数多くいただきました」。
双雲さんへのバッシングはこのときばかりではない。そのたびに深く傷つき、恐怖すら感じることもあったという。「辞めようと思ったことは何度もあります。喜んでもらいたくて書道をしているのに、みんなが嫌がるのなら辞めたほうがいいかなって。
でも感謝の手紙が届くんですよ。『双雲さんの書のお陰で自殺をやめ、いまは幸せに暮らしています』とか、『人生が変わりました』とか。批判と賞賛が同時に来るんです。書道教室の生徒さんはいつも笑顔で、『先生、そんなの気にするんだ』って感じ(笑)。たくさんの手紙や生徒さん、家族の存在に、本当に救われましたね」。
その背景には、双雲さんが抱き続けている意外な思いがある。
「自分の書に自信があって、書道をしているわけではないんです。もちろん僕はいいと思っているけど、みんながいいと思うかはわからない。僕の美意識とみんなの美意識が一緒かどうかなんて、わからないじゃないですか。ひたすら改善に改善を重ね、ビッグデータを集めているイメージですね。だから僕の書は常に変化をしていますよ」。
名が世間に認知されるようになり、自身に変化はあったのだろうか。
「独立当初といまの状況が僕にとっては同じなんです。気持ちは初心のまま。『変わりませんね』とよく言われますけど、“調子の乗り方”も知らないから(笑)。『書道家・武田双雲』の実感もないし、街で声を掛けていただいても『僕のことを知っているんですか?』って思いますし。人間に差はないと考えているからかもしれません」。
双雲さんは、どんなときも、誰に対しても、いつも穏やかで温かい。あらゆることに感謝し、日々をワクワクしながら過ごしているという。それが魅力的な人々や楽しい出来事、素晴らしい仕事を引き寄せているのだ。
文=大森菜央
2020年1月号 特集「いま世の中を元気にするのは、この男しかいない。」
1|2001-2008 会社員から書道の世界へ
2|2009-2012 武田双雲の名が知れ渡っていく
3|すべての活動の基盤は「感謝」にあり
4|2013-2017 最先端を走り続ける
5|2018-2019 “楽”を世界に伝える