書道教室「ふたばの森」。
武田双雲・書道の現場
《武田双雲・書道の現場》第3回の最後は、双雲さんが湘南で主宰する「ふたばの森」書道教室。5歳から中学3年生までの子どもが2割、10代から70代の大人が8割、合わせて約300人が在籍している。
書道教室というと、生徒は手本を見ながら黙々と筆を動かし、先生はその様子を見ながら指導する、静かで落ち着いた空間をイメージする人は少なくないだろう。そのイメージをもって双雲さんが主宰する「ふたばの森」書道教室に足を運ぶと、あまりのギャップに驚いてしまう。
集中して筆を動かしている人もいれば、話に花を咲かせているグループもある。先生である双雲さん自身、書とは無関係の話で生徒と盛り上がったり、現代アートの作品をつくったりしている。教室全体がとにかく自由、そして笑顔にあふれている。
「基本を覚えたり、字を上手に書いたりすることは手段であって、ふたばの森の目的はそれぞれの個性を書で表現すること。そのためにも、書ってこんなに楽しいんだよということを心から感じてほしいと思っています」。
その想いを強く表しているのがワークショップ。生徒は、毎月の課題に取り組む一方で、双雲さんが思いついたさまざまなお題に取り組む。
チームに分かれ、一人一画ずつ書いて漢字を完成させる「リレー書道」、自分で漢字をつくる「創作漢字」、書の力を使って、苦手を得意に書き換える「ネガポジ変換」、中にはオリジナルの妖怪を描いたり、干支の文字と絵を組み合わせて年賀状のイラストを描いたりと、文字を書くという、いわゆる書とはかけ離れたものもある。
「『これ楽しい!』と思いついたお題は全部、提案します。提案しているというより、一緒に楽しんでいるだけなんですが(笑)。そもそも、書道教室自体、教えているという感覚はなくて、楽しむ同志を募って、一緒に楽しんでいるだけ。ある意味、リアルクラウドファンディングといってもいいかも」。
実は、双雲さんのアメリカ移住に伴い、ふたばの森は2020年2月末で閉室となる。だが、双雲さんが育んだ書を楽しむ心は、生徒たちが受け継ぎ、その輪はどんどん広がっていくに違いない。
文=成田美友 写真=近藤 篤