秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
《テーマ別ミュージアムガイドカタログ55》
日本人なら誰もが一度は見たことがある名作や、自然と調和した屋外作品、スーパーマニアックなコレクションなど、この夏はどんな作品を楽しみたい気分ですか?全国の美術館や博物館を知り尽くしたマニアの方々に、テーマ別におすすめしたいミュージアムを教えていただきました。ミュージアムに行くのは、興味のある企画展が開催されているときだけ。そんな方にこそおすすめしたい、もっとミュージアムめぐりを楽しむための完全保存版です。
〈お話をうかがった方〉
中村 剛士(なかむら・つよし)
青い日記帳主宰。大学在学中、教授の薦めで美術館に通いはじめる。以降、展覧会が開催されているタイミングであれば、好きな時間やペースで作品が見られる美術館めぐりに没頭。現在では、年間300以上の展覧会に足を運ぶ。2002年から、Tak(タケ)の愛称で、備忘録としてブログ「青い日記帳」を開始。展覧会レビューや書評など、幅広いアート情報を初心者にもわかりやすく発信している。著書に『いちばんやさしい美術鑑賞』(筑摩書房)など。
http://bluediary2.jugem.jp
キャプションは作品の魅力を倍増させます
作品と向かい合い、まずは何がどう表現されているのか、しばし自分の眼で確かめ発見するのが美術鑑賞の醍醐味。しかし、それには限界があります。どんなに優れた作品でも、キャプション(解説)があるのとないのでは、理解度が大きく違ってくるものです。
キャプションが少ないとわかりにくく、多過ぎても読むことにばかり集中してしまう可能性があるため、そのあんばいは難しい。しかし、そのバランスをうまくとらえて、トータルで作品をより魅力的に見せようと努めている美術館も存在します。解説で大切なのは、きちんと情報を分けているかどうか。たとえば、その絵に描かれているものは何なのか、といった一次的な情報は不可欠です。
加えて、絵にどのような意味が含まれているのか、作品を描いた当時、画家はどんな状況下にあったのかなど、二次的な情報が加味されると解説に深みが増します。また、難解な専門用語を羅列せずに、鑑賞者目線に立って、いかにわかりやすく書かれているかどうかも重要です。ここでは、作品だけでなく、キャプションが秀逸だと思ったミュージアムを紹介します。
キャプションが足りないと思ったら、その場でググるべし!
知らない作品を鑑賞する際、キャプションは深く作品を理解するために重要。しかし、キャプションを見てもわからなければ、その場でスマートフォンを出して調べるのがおすすめです。受け身になりがちな美術鑑賞にとって、そのような行為は自主的な学びの第一歩。
地図や動画で理解しやすい四国の観光名所
「四国村ミウゼアム」
香川県の屋島山麓の広大な敷地に、四国各地から古い民家や建物を移築復原した野外博物館「四国村ミウゼアム」。現在では見ることのできない30以上の貴重な建造物や、2万点以上の民俗資料を収蔵しています。キャプションには、その建物がもともとは四国のどこにあったのかがひと目でわかるように、大きめの地図が掲載されいるのが特徴。また、オリジナルの動画を制作して、建物がどのように使われていたかも伝えています。
四国村ミウゼアム
住所|香川県高松市屋島中町91
開館時間|9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|火曜(祝日の場合は翌日休)
料金|一般1600円、大学生1000円、高中生600円、小学生以下無料
Tel|087-843-3111
施設|カフェ、ショップ、うどん店
https://www.shikokumura.or.jp/
絵付けまでも解説するうつわ好きの聖地
「戸栗美術館」
1987年に開館した、陶磁器専門の美術館。実業家の戸栗亨(とおる)が長年にわたり収集した日本や中国、朝鮮などの陶磁器を収蔵しています。キャプションでは、伊万里や鍋島といった焼物をどう鑑賞すればよいのか、初心者にもわかるよう丁寧に解説。文字情報だけでなく、焼物の部分を拡大して、その技法などの注目すべき箇所を提示してくれる親切さにも定評があります。
戸栗美術館
住所|東京都渋谷区松濤1-11-3
開館時間|10:00〜17:00(金・土曜は〜20:00) ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月・火曜(どちらも祝日の場合は翌日休)、ほか不定休あり
料金|一般1200円、大高生500円、中学生以下無料(特別展の場合。展示内容によって異なる)
Tel|03-3465-0070
施設|ショップ
http://www.toguri-museum.or.jp/
やさしい解説が魅力の
日本一歴史が長い私立美術館
「大倉集古館」
明治から大正時代に活躍した実業家・大倉喜八郎が1917年に創設した、現存する日本最古の私立美術館。しかし、歴史があるからといってハードルが高いわけではなく、日本美術特有の難解な専門用語も丁寧にかみ砕いて説明するなど、鑑賞者に寄り添ったキャプションがこの美術館の魅力のひとつです。おもてなしの心が表出しており、穏やかな鑑賞体験を約束してくれます。
大倉集古館
住所|東京都港区虎ノ門2-10-3
開館時間|10:00〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、ほか不定休あり
料金|一般1000円、大高生800円、中学生以下無料(特別展は一般1300円、大高生1000円)
Tel|03-5575-5711
施設|ショップ
https://www.shukokan.org/
キャプションのサイズも
わかりやすさも最大級
「板橋区立美術館」
狩野派などの近世絵画や板橋ゆかりの作家の作品などを中心に収蔵。近世絵画の館蔵品展のキャプションについては、読みやすさを追求しA3のサイズに拡大しています。元館長で美術史家の安村敏信さんにより、日本美術を身近に感じられるよう工夫を重ねたうちのひとつが、わかりやすく楽しく読めるキャプションの制作でした。キャプションには現在も、安村さんの心遣いが生きています。
板橋区立美術館
住所|東京都板橋区赤塚5-34-27
開館時間|9:30〜17:00 ※入館は閉館の30分前まで
休館日|月曜(祝日の場合は翌日休)、ほか不定休あり
料金|一般650円、大高生450円、中小生200円(特別展の場合。館蔵品展は無料)
Tel|03-3979-3251
施設|なし
https://www.city.itabashi.tokyo.jp/artmuseum/
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1|全国で楽しめる教科書で見た“アレ”と美術館 前編 後編
2|日本で堪能できる「印象派」美術館
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5|近代建築と現代建築、それぞれを味わえる美術館
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7|秀逸な作品やキャプションを堪能できる美術館
8|大人も子どもも楽しめる美術館
9|全国各地のマニアックな美術館
text: Discover Japan, Takeshi Nakamura
Discover Japan9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」