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群馬《太田市美術館・図書館》
建築家と市民の“ものづくり”にかける情熱をカタチに

2022.5.20
群馬《太田市美術館・図書館》<br><small>建築家と市民の“ものづくり”にかける情熱をカタチに</small>
Photo:Daichi Ano

群馬「太田市美術館・図書館」は、世界最先端の感性やクリエイティビティに触れる美術館と、世界60ヵ国以上の絵本児童書やアートブックが揃う図書館からなる、まちの新たなランドマーク的複合施設。建物の設計は建築家・平田晃久氏が市民と一緒に作り上げた。市民の創造力を生かし、まちづくりの拠点となる「太田市美術館・図書館」の魅力を紹介。

知と感性のプラットフォーム

真っ白な外壁と緑が調和した丸みを帯びたデザインが印象的
Photo:Daichi Ano

太田市は、近代以降「ものづくり」を中心に発展してきた。ものづくりを通して培われてきた英知を継承しながら、市民によるこれからのまちづくりの拠点として、2017年1月に「太田市美術館・図書館」が開館。

館内は、斬新な発想により人々の感性を刺激する多彩な美術作品と、創造的発想の源泉となる広範な知識を提供する図書資料を同時に見ることができる。訪れる人たちの創造性を高め、まちに賑わいをもたらすプロジェクトを多彩に広げている。

境目のない建築

美術館と図書館はスロープでつながっている
Photo:Daichi Ano

太田市美術館・図書館は、2014年3月に公募で選ばれた建築家・平田晃久氏が設計を担当。デザインを決める過程では5か月間にも及ぶ市民ワークショップを行った。

この建築は周囲の建物と同じようなスケールをもった5個の鉄筋コンクリート構造の箱と、その周りをぐるぐる回る鉄骨構造のスロープによって構成されている。箱の上にはたっぷりと土を入れ、緑が植えられている。建物と緑、人工と自然が混ざり合う丘のような風景は、金山や天神山古墳といった太田市に点在する丘のよう。

座って本を読める大階段
Photo:Daichi Ano

建物の東、南、西面に3つの入り口があり、さまざまな方向から気軽に入り、通り抜けることができる。全体が緩やかなスロープで連続的に結ばれており、3階までスムーズに上がれる。

館内には、ギャラリーやカフェ、読書、勉強ができるような静かな場所など、それぞれ違った魅力を持ったいくつかの箱があり、訪れた人は、自分が居心地良く感じる場所を見つけて、それぞれの時間を過ごすことができる。息抜きにいくつかの箱の間を抜けるように歩けば、さまざまな方向に視線が抜け、行ってみたくなる場所が垣間見え、新たな出合いが見つかるかも。

館内にはメイドイン太田による、ものづくりが至るところに施されている
Photo:Daichi Ano

また、あちこちに置かれたトラス構造の脚があるベンチソファや照明、本棚などは、太田市内の異なる業種の工場で働く人が集まった「エーアイラボオオタ」によるもの。クッション部分は自動車のシートを作る技術を応用するなど、建物だけではなく家具の製作にも市民が参加しているそうだ。

外には本が読めるテラス、箱の屋上には緑が広がり、心地よい木漏れ日や草原の中で、リラックスした時間を過ごすことができる。高い場所に登れば、周囲のまちや金山を望める。飛行機のプロペラを思わせるような全体形状は、建物の中へ入りやすい雰囲気が生まれるだけでなく、強い風が吹く太田市の気候を生かし、風を適切に取り入れることによって、内部に心地よい気流の動きをつくり出すとともに環境にも配慮している。

スペックの異なる169㎡、92㎡、49㎡の3つの展示室で構成
Photo:Daichi Ano

美術館は高さの異なる3つの展示室で構成され、多種多様な作品の展示やワークショップなどのアーティストによる活動に対応している。また、展示室1と2の間のスロープ、螺旋階段を一体化することで独創的なギャラリーを作ることもできる。

3階のレファレンスルーム。エーアイラボオオタが手がけた、雲のようなランプシェードとカラフルなチェア
Photo:Daichi Ano
壁面の天井まで続く本棚
Photo:Daichi Ano

図書館は本のサイズに合わせてさまざまな形態の本棚を設置。1階のブラウジングコーナーではゆったりとしたソファでくつろぐことができ、1階から2階は、本棚に座ったり、雲のような本棚に囲まれて読書できるスペースを用意。3階のレファレンスルームは、貴重な資料を展示できるガラストップの大テーブルを囲み静かに読書ができる。

建築家・京都大学教授
平田晃久(ひらた・あきひさ)
1971年大阪府に生まれる。1994年京都大学工学部建築学科卒業。1997年京都大学工学研究科修了。伊東豊雄建築設計事務所勤務の後、2005年平田晃久建築設計事務所を設立。2015年京都大学准教授に就任の後、2018年同大学教授に就任。

世界の最先端が集まる

ジャンルごとに分けられた本棚
Photo:Yoichi Onoda

美術館では、現代美術を中心にユニークな展示室の構成を活かした企画展を開催。太田市で育まれてきた文化・芸術の収集、調査研究を行うほか、世界最先端の感性やクリエイティビティに出合う展覧会を開催されている。

図書館には、「国際アンデルセン賞」受賞作をはじめ、世界60ヵ国以上から1万7000冊を超える貴重な絵本児童書や洋書が海を越えて集められ、見たことのない言語や、独自の風土が反映された個性豊かな本の数々は、世界の多様性に触れる入り口であり、図書館最大の特徴。

ブラウジングコーナー
Photo:Yoichi Onoda

アートブックは、美術的に重要な国内外の作家や、世界の先端を行く表現者の作品集を絵画や写真などジャンルごとに1万2000冊集め、世界の瑞瑞しい感性と出合える。

ブラウジングコーナーには、美術や建築のほか創造的ライフスタイルを提案する和洋雑誌約250誌が、コーナー全体に並べられている。

また、太田市内の商店や事務所、個人宅にある本で、市内の施設が参加する「まちじゅう図書館」つくった。各館長のお気に入りの本、思い入れのある本が置いてあり、まちを訪れた人やまちに暮らす人が自由に手に取り、館長との会話を楽しむ、ふれあい図書館となっている。

太田駅に最も近い場所に位置し、気軽に立ち寄れる
Photo:Yoichi Onoda

太田市の“おおッ!”が見つかる「Coffee&Things Oh!」は、太田市の東毛酪農業組合が作る「東毛酪農低温殺菌牛乳63℃」を使用した、東毛酪農ミルクソフトなど地産地消をモットーに、食材は自家製と太田産にこだわっている。そのほかにも太田駅前のみやげもの店として、アート・デザインを通して「ものづくりのまち太田」で「ここにしかない一品」との出合いをプロデュースしている。

ものづくりにかける情熱が結集した「太田市美術館・図書館」で、まちと建築を楽しみながら、世界最先端の感性に触れてみてはいかが。

太田市美術館・図書館
住所|群馬県太田市東本町16番地30
開館時間|10:00~20:00(日曜・祝日は18:00まで)
休館日|月曜日(祝日・振替休日の場合は翌日)
https://www.artmuseumlibraryota.jp/

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