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自然とアートが融合した
《ヴァンジ彫刻庭園美術館》

2022.2.24
自然とアートが融合した<br>《ヴァンジ彫刻庭園美術館》

ヴァンジ彫刻庭園美術館は、イタリアの現代具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの世界で唯一の個人美術館として、富士山に連なる愛鷹山麓の中腹にあるこの地に開館。1960年代から最近までのヴァンジの彫刻を常設展示とし、それらが展示棟並びに庭園のなかで風景と調和しながら点在している。四季折々のクレマチスの花を楽しめるガーデン、現代の作家による企画展、各種文化的イベントなど、芸術表現の時代を超えた普遍性を縦軸に、移り変わる同時代性を横軸に、織りなされた複合的な文化空間だ。観るだけではない、五感で感じる芸術とは・・・・・・。

自然と調和する作品

竹林の中の男

ヴァンジ彫刻庭園美術館は、イタリアを代表する具象彫刻家ジュリアーノ・ヴァンジの作品を展示する世界で唯一の個人美術館。

ヴァンジは、フィレンツェから20キロあまり離れたバルベリーノ・デイ・ムジェッロという村で生まれ、3歳でフィレンツェへ移り住んだ。幼い頃から、まちの大理石の店で買ってもらった小さな石を叩いたり、彫ったりして遊んでいたという。

1996年、彼が作った「洗礼者ヨハネ」の彫像がウフィツィ美術館近くの河畔に設置された。フィレンツェ市中に現代彫刻家の作家が置かれたのは初めてのことだったそうだ。それはヴァンジが大きな過去の壁を乗り越えた瞬間でもあった。

壁をよじ登る男

この美術館の創設にあたり、ヴァンジは実際にクレマチスの丘に立ち、自然と調和するように自身の作品の配置を決めた。芝生の広場の中には「竹林の中の男」を、美術館の展示デッキには、人生の困難を乗り越えようとする「壁をよじ登る男」を・・・・・・。訪れた人は高い空や、季節とともに移りゆく草花を背景に、風と光を感じながら、作品と向き合うことができる。

ジュリアーノ・ヴァンジ
1931年、フィレンツェ近郊で生まれ、フィレンツェ国立美術学校で学ぶ。イタリアの都市パドヴァやピサの大聖堂に作品が設置されているほか、各地で個展や回顧展を開催。2002年には芸術分野でのノーベル賞ともいえる高松宮殿下記念世界文化賞を受賞。90歳を越えた今なお、作品を作り続けている。

四季折々に咲き誇る
「クレマチス」

庭園内には、さまざまな種類のクレマチスが四季折々に咲き誇り、一年を通してクレマチスを見ることができる。クレマチスとほかの植物を組み合わせることにより、さらに美しい表情が生まれ、四季とともに移り変わるクレマチスと植物たちのハーモニーを楽しめる。

庭園内では季節のバトンを渡すように、いろいろな種類のクレマチスが花咲く。その数なんと250種類。日本クレマチス協会理事・金子明人さんは「クレマチスは上を向いて咲くとイメージのほかに、つぼ形やベル形など、いろいろな形があります。原種が多様で、毎年新しい品種が生まれる。そこがクレマチスの魅力のひとつですね」と語る。

遊歩道のまわりには、ボール仕立てのクレマチスが配置されている。ここは大輪と中輪、平咲きとベル形など、花の形の異なる品種を合わせ、花色のグラデーションを楽しめるエリアだ。一輪の美しさはもちろんのこと、クレマチス同士、あるいはほかの植物と、そして美術作品とのコラボレーションがこの庭の魅力。散歩しながら、金子さんがその深い知識とクレマチスへの愛情とともに手がけてきた「花のしかけ」を味わうことができる。訪れるたびに、以前は見えなかった新たなクレマチスガーデンの奥深さを堪能できる。

人間の多面性を表現

一転して静寂な美術館内は、6mもの高い天井のコンクリートに囲まれた無機質な空間。彫刻の置き場所、照明の当て方の隅々までヴァンジの意図が生かされている。

地下の展示棟では、照明を絞り彫刻が劇的にうかびあがる。自然光の差し込みむ階段吹き抜け部分には企画展アートスペースが併設されている。常設作品スペースは、中央を仕切られた環状の構造で、来館者は気ままな順路で彫刻をめぐり、下部庭園に出ることができる。屋外庭園には御影石が抽象的に置かれた石庭、小高い丘と水辺など、日本の伝統的な回遊型庭園の要素を取り入れており、また、ショップ棟やレストラン棟を有しており、敷地全体に美術館機能が分散されている。

入口のヴァンジが下絵を描いたモザイクの壁を過ぎると、上部庭園へと視界が開かれる。白い御影石を用い陽光の明るさが強調された展示デッキから、遠方に箱根山麓を、眼下に長泉・三島の街を望むことができる。

自然とアートが融合し、そこを訪れる誰もが幸せな気持ちになる、みんなの広場のような美術館「ヴァンジ彫刻庭園美術館」。クレマチスが美しく花開き、個性的なアートにあふれ、子どもから大人までさまざまな人たちが集まるこの場には、いまも成熟した時間が流れる。

ヴァンジ彫刻庭園美術館
住所|静岡県長泉町東野347-1
開館時間|10:00~18:00(2・3月、9・10月 10:00~17:00、11~1月 10:00~16:30)
※最終入館は閉館30分前
休館日|水曜、年末年始
料金|
4〜10月:大人 1200円(1100円)、高・大学生 800円(700円)、小・中学生 無料
11~3月:大人 1000円(900円)、高・大学生 500円(400円)、小・中学生 無料
※クレマチスガーデンも可
※( )内は20名以上割引
Tel|055-989-8787
http://www.clematis-no-oka.co.jp/vangi-museum/

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