ART

安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄
彫刻家 安田侃が手がける自然と調和する芸術広場

2022.8.31
安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄<br><small>彫刻家 安田侃が手がける自然と調和する芸術広場</small>

北海道美唄市で生まれ育ち、イタリアを拠点に制作を続ける彫刻家・安田侃氏の彫刻約40点が起伏のある緑の空間と調和する「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」。閉校となった木造校舎と周辺の敷地全体をランドスケープも含め安田氏が設計し、今もなお進化を続ける。自然と溶け合う彫刻や、空間そのものを体験できる「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」の魅力に迫る。

全国有数の産炭地として栄えた美唄

「天聖・天モク」ブロンズ 林の中にひっそりと佇む彫刻

美唄はかつて炭鉱町としてにぎわい、炭鉱夫やその家族を含む約10万人もの人が生活していた。炭鉱は「そのヤマで暮らす人全てが家族」、を意味する「一山一家」という言葉があるほど、人と人が強い絆で結ばれていた。危険な炭鉱で毎日命を懸けて働き、祭りではヤマをあげて楽しんだ。やがて炭鉱は閉山になり、多くの人が仕事を求めて美唄の地を離れた。

しかし、今でも故郷・美唄の炭鉱町で過ごした日々に思いを寄せる多くの方が、遠い場所から記憶や思いを持って帰って来る。安田侃彫刻美術館アルテピアッツァ美唄の中にある木造校舎、体育館はかつて炭鉱夫などの子どもが過ごした学び舎。炭鉱町で過ごした人の故郷として、その記憶や思いを次の世代へ語る場として、美唄の歴史を繋いでいる。

誰もがこころを広げられる芸術広場

「天モク」ブロンズ

安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄は、今を生きる全ての人が、無心に、自由に、思い思いの時間を過ごすための芸術広場として1992年に誕生。炭鉱で栄え、衰退していったこの土地の記憶、人々の思いを、場のエネルギーとして受け止める空間は、過去、現在、未来という時の流れの中で、静かに佇み続けている。

そうしたかけがえのない空間となることを願いながら、美唄市と美唄市出身の彫刻家・安田侃氏によってこの美術館は作られた。広がる景色の中に置かれた彫刻が、自然と一体となって息づくこの空間は、見る人自身のこころを映し、自分との対話ができる場所。この空間が、この地に変わりなく在り続けることで、誰もが安心して帰れる「こころのふるさと」として、未来に繋いでいく。

彫刻家
安田侃(やすだ・かん)
1945年、北海道美唄市生まれ。1970年、渡伊。ローマ・アカデミア美術学校で学び、以降、大理石の産地として知られるトスカーナのピエトラサンタにアトリエを構え、大理石とブロンズによる彫刻の創作活動を始める。

「妙夢」ブロンズ JR札幌駅や東京ミッドタウンにも同じタイトルの作品がある

安田氏の思いが息づく彫刻の聖地

作品は大きく3ヵ所に分けて展示。屋外全体と体育館を利用したアートスペースには見上げるほどに大きな作品。旧栄小学校の校舎を利用したギャラリーには小作品が、それぞれ点在している。

左から)「妙夢」、「風」、「相響」いずれも白大理石

ギャラリー(木造校舎)
昭和56年3月まで、炭鉱町の小学校(美唄市立栄小学校)として使われていた木造校舎2階を再生させたギャラリー。旧校舎の面影を残しながら、白大理石やブロンズの安田侃彫刻を置いたこのギャラリーは、懐かしくも新しい空間として、幅広い年代の方に親しまれている。

アートスペース(旧体育館)
昭和56年3月まで、炭鉱町の小学校(美唄市立栄小学校)として使われていた体育館を再生させたアートスペース。安田侃作品が置かれたこのアートスペースは、トラス組みが特徴的な当時のままの天井など、建築物としてのおもしろさも感じられる。また、コンサートや講演会などの会場としても使われ、人々の交流の場にもなっている。

「水の広場」夏の暑い時期には、子どもたちが遊んでいる姿も

水の広場
白大理石の彫刻「天聖」「天」と石舞台、池からなる「水の広場」。流路と池には、イタリア・カラーラの石切り場麓の川にある大理石の玉石を敷き詰めている。

音の広場
鳥の声、風の音、川のせせらぎの音など、自然の“音”が聞こえる「音の広場」。カフェアルテの窓から一望できる。

トリフォリオの広場
イタリア語で”クローバー”の意味をもつ、クローバー”が広がる「トリフォリオの広場」。子どもたちを迎え入れるかのように横たわる大理石の彫刻「天」が目を惹く。毎年8月13日には、この広場にやぐらをたて、「アルテの盆踊り」を行われる。

天翔の丘
枕木の階段で小高い丘を登ると、くぼみに白大理石の彫刻「天翔」が置かれている「天翔の丘」。彫刻のふもとに腰を下ろすと、広い空が見え、丘からは、広場が一望できる。

カフェアルテにも安田氏の彫刻が置かれているほか、大きな窓から紅葉や雪景色など四季折々の美しい風景が堪能できる。店内のカウンターは、イタリアの石や北海道の木が使われている

カフェアルテ
「ゆっくりお茶が飲めるスペースがあったらいいね」という来訪者の声に応えてオープンしたカフェアルテ。高い天井と大きな窓、ゆったりとしたスペースで散策の後のひと休みなどに、思い思いにくつろげる空間。夏はテラス席も利用可能。

「こころを彫る授業」はイタリア・カッラーラ産の白大理石などを使って自分の“こころ”を彫る授業。ここでは、誰も評価も採点もしない。石と向き合うことで、自分と向き合う時間を大切に、 目に見えない自身のこころを「かたち」として、表現することを目指す

ストゥディオアルテ
彫刻のための体験工房として作られたストゥディオアルテ。やすり、のみや金づちといったイタリア製の道具、石職人たちが使用しているものと同タイプの作業台など、彫刻作業に必要な備品を用意している。彫刻のための個人利用のほか、ミーティングなどを目的とした専用利用も可能。また、毎月第一土・日には「こころを彫る授業」を開催している。

当時の面影を残した木造校舎や、屋外で自然を感じながら安田氏の作品を楽しむのはもちろん、芝に寝そべって日向ぼっこや読書をするなど、全身で「安田侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄」の魅力に浸ってみてはいかがだろうか。

安田 侃彫刻美術館 アルテピアッツァ美唄
住所|北海道美唄市落合町栄町
Tel|0126-63-3137
開館時間|9:00~17:00
休館日|火曜、祝日の翌日(日曜は除く)
入館料|無料(任意による寄附可)
https://www.artepiazza.jp/

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