鑑賞する前に知っておきたい
「能」の決まりごと
能の醍醐味のひとつはその様式美にありますが、役者や囃子など出演者たちの役割や舞台上の場所についても定められた様式が守られています。スポーツだってルールを知らずに観戦しても魅力は半減。能も同じです。鑑賞する前に、まずは舞台上の決まり事を知っておきましょう。
至ってシンプル!
知っておきたい能の決まり事
能の舞台写真を見ると、どれも同じような印象を受けるかもしれない。別の舞台で違う演目を撮っているはずなのに、なぜ同じように見えてしまうかというと、能には共通して出演者の役割や位置などに定められた様式があり、それに従って演じられるからだ。
登場人物はシテ(主役)、ワキ(シテの相手役)、ツレ(シテ、ワキの助演者)で、シテは必ず一人。ワキやツレは登場しない演目もあり、ツレが複数登場する演目もある。役柄によって装束や面が異なるが、面をつけない(「直面」という)役柄もあり、ワキは面をつけることがない。一般的に舞台右端には地謡名、舞台裏には~名の囃子と~名の後見が座し、いずれも登場人物ではないため紋付袴姿だ。また演目によって途中で狂言の役者が登場することがあり、それを間狂言と呼ぶ。
シテ、ツレ、後見、地謡を「シテ方」が、ワキ、ワキツレを「ワキ方」が、笛、小鼓、大鼓、太鼓を「囃子方」がそれぞれ担当するほか、アイは狂言を演ずる「狂言方」が担当する。現在、興行主・演出家・出演者の役を兼ねるシテ方にはつの流儀(観世、金春、ほうしょうこんごうきた宝生、金剛、喜多)があり、流儀うたいによって謡や節回し、扮装、演出などが少しずつ異なる。
ワキの助演者です。
ワキツレ(ワキ方)
ワキの助演者。ワキツレが登場しない曲もあれば、二人以上登場する曲もある。ワキと同じく現実の男性役が多いので面をつけていないが、ワキと一緒に登場したり、行動をともにするとは限らない。
情景や心理を謡で表現。
地謡(シテ方)
通常は前後4名ずつの計8名からなる、いわば合唱隊のような存在。情景や登場人物の心理を謡によって表現する。後列の2番目か3番目の人が地頭で、地謡のリーダー。曲全体の指揮者的役割も務める。
シテの相手役です。
ワキ(ワキ方)
「脇」とも書き、シテの相手役を務める。僧、神職、大臣、武士など現実に生きている男性の役柄が多いため、面をつけていない。冒頭に登場する曲も多いが、まれにワキが登場しない曲もある。
絶対欠かせない主役。
シテ(シテ方)
主役なので一曲に必ず一人。前後二場からなる能では前シテ・後シテと呼び分けるが、一人の演者が扮装を替えて演じる。前シテで仮の姿、後シテで本性を現すという曲が多いが、前後で別人格を演ずる場合もある。
4つの楽器で囃します。
囃子(囃子方)
笛・小鼓・大鼓・太鼓がそれぞれ一人ずつの計4人で構成されるが、太鼓が入らない曲もある。この4種類の楽器で、謡と合わせてさまざまな情景や心情を表現。各楽器は分業制で他楽器は兼ねない。
シテの助演者です。
ツレ(シテ方)
単に「ツレ」と呼ばれるのはシテの助演者。登場しない曲もあれば、二人以上登場する曲もある。また前場・後場で役柄が変わる場合も。必ずしもシテと同時に登場したり行動をともにするとは限らない。
地味なようで実は重要。
後見(シテ方)
舞台の進行が円滑に運ぶよう見届ける役割。装束を直したりつくり物や小道具の受け渡しをするほか、シテに万一事故が遭ったとき代役を務めなくてはならない。二人以上のときリーダーを主後見という。
シテ、ワキの立ち位置を見る
6m四方の本舞台はエリアに区分けされ、役者の立ち位置や動きの目安とする。
①常座(名ノリ座)
②大小前
③笛座前
④脇正
⑤正中
⑥地謡前
⑦角
⑧正先
⑨ワキ座前
シテは最初に①で動作をすることが多く、曲中④⑥はほとんど使わない。⑨のワキ柱あたりはワキの定位置とされる
舞台上での配置を見る
シテは向かって舞台左側のシテ柱近くに立つことが多く、ワキ、ワキツレは舞台右手前のワキ柱の近くに座っていることが多い。橋掛り付近に座っているのはアイ。舞台右側に地謡、舞台奥には囃子と後見がいて、地謡と囃子は基本的に動かない。
アイって何?
能一番の中で狂言方の演じる役とその演技のことで「間狂言」ともいう。前場と後場をつなぐ役割が多く、人物紹介や舞台展開の説明などをする。
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「能」の”型”と”動き”大研究
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text=Akiyoshi Nishidate, Akiko Kaneda, Maho Shimizu(Notion) 写真提供=(社)能楽協会
2018年別冊「ニッポンの伝統芸能 能・狂言・歌舞伎・文楽」