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知っているとより楽しめる!
「能」の”型”と”動き”大研究 – 型のイロハ

2021.3.1
知っているとより楽しめる!<br>「能」の”型”と”動き”大研究 – 型のイロハ

能には怒り、喜び、悲しみなどを表す決まった型があります。この型の知識があると、能鑑賞はさらにおもしろくなるはず。わずかな動きの中の感情やメッセージを読み取ってみよう。

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宝生流能楽師シテ方
佐野 登(さの・のぼる)
「生きる力」をテーマとしたエデュケーション・プログラムを行うほか、次世代育成、普及における伝統文化伝承のための多様な体験型プログラムを実施。

喜怒哀楽

【シオル(悲しい)】
泣いている型を「シオリ」という。萎ると書いて、かつては「しみじみとした感じを出す」の意味もあった。悲しみの表現の基本となるかたちだ。

諸手(もろて)シオリ
左)最大級の悲しみの表現。激しい悲しみのときは立っていられない。座り込んでしまい、両手を額のあたりまで上げる。右)あたかもこぼれ落ちようとする涙を押さえているようなかたちで表現する。手を目の高さに上げ覆い隠すように

【ユウケン】
喜びを表す型で、手には開いた扇を持っている。胸の前から扇を開くことで、胸の内にあるものを開くイメージ。能舞台ではよく見られる型のひとつだ。

開いた扇を胸の前からはね上げ、喜びや興奮した様子を表現する。右手のみで行う型と、両手を使って表現する型がある

【怒る】
打ちつける動きは怒りの感情、怒っている場面を表現する。腹を立てて打つ仕草は、舞台上では強烈な印象を与える。立って行う型と、座って行う型がある。

立った状態で扇を持つ手を振り上げ、座って振り下ろすのは大きな怒りの表現。座った姿勢からでも手を振り下ろすことで怒りを表現できる。一気に振り下ろす動きはほぼ同じ

【クモル(悲しいなど)】
悲しみを抱いた型。いまでも「表情がくもる」という言葉があるが、それと同じ意味だ。細かな感情表現だけに、わずかな動きで演じられる型。

面をわずかに伏せるのが「クモル」の型。反対にわずかに仰向けると「テラス」といって明るい表情になる

動作

【見る】
能では何を見ているのか、どこを見ているのか、ということを目線ではなく、謡のことばと動きによって表現する。手や扇で見る対象を演じ分けている。

左)「月ノ扇」ともいう。月を見るときは寂しい感じで扇を添える。憂いがあるが、扇の先が死んでいない。肘も効いている。右)遠くのものを見る「引分ケ(ひきわけ)」の型。胸の前から扇と手を大きく左右に広げる。遠方を見ているように見える

【合掌】
手を合わせれば相手を傷つけることがないため、合掌は本来相手を敬う動き。能では亡霊が僧に供養される場面などでよく見られる型だ。

写真のように、胸の前方で指先を軽く合わせる。能では掌を合わせることはしない。扇を持っている場合は内に傾ける

動作の秘密教えます!

【歩く】
「運び」と呼ばれる歩行は能の基本動作。すり足で体重移動するのが基本で、腰の位置はいつも同じ高さに。そのため上半身がぶれないので、シテの面が安定する。

上体を傾け倒れないように足を出すのが運びの基本。一方の足しか動かさないのがルールで、回転するときも片足ずつ踏み出す。軸が上下に動かないよう膝をわずかに曲げて歩く
かかとは上げない。片足から別の足へ重心を移す際に自然につま先が浮くので、そこでまた重心移動

止まり方にも特徴があります

かつて日本人は右足を出すとき右手を出して歩いていたという。「なんば」と呼ばれる動きが能にはまだ生きている。右足で止まるときは右手が前へ。逆も同じだ。

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知っているとより楽しめる!
「能」の”型”と”動き”大研究
1|基本姿勢
2|型のイロハ
3| 空飛ぶ『羽衣』はこうなります
4|能から学ぶ日常の所作

photo:Bakuya Shinoda text=Akiyoshi Nishidate, Akiko Kaneda, Maho Shimizu(Notion)
2018年別冊「ニッポンの伝統芸能 能・狂言・歌舞伎・文楽」


≫「能」とは?三間四方に広がる美しき想像の世界

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