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建築家・坂茂が手掛けた女川のシンボル「JR女川駅+女川温泉ゆぽっぽ」
東北・宮城の“建築 の聖地”をめぐる旅へ

2021.4.6
建築家・坂茂が手掛けた女川のシンボル「JR女川駅+女川温泉ゆぽっぽ」<br><small>東北・宮城の“建築  の聖地”をめぐる旅へ</small>
建物は3階建てで、1階に駅や売店、待合室、2階に町営温泉施設、3階に展望フロアを設置。復興に向けて羽ばたく女川湾のウミネコをイメージした、白い膜を張った木造屋根が印象的

復興が進む女川町で、再生の第一歩として2015年にいち早くオープンした「女川温泉ゆぽっぽ」。シンボリックでありながら軽快な印象をもつこの施設は、女川湾につながるプロムナードの玄関口ともなっています。

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坂 茂(ばん・しげる)
1957年、東京都生まれ。アメリカで建築を学び、磯崎新アトリエを経て1985年に坂茂建築設計を設立。代表作にフランスの「ポンピドー・センター・メス」。災害支援活動も行う。2014年には「建築のノーベル賞」とも呼ばれるプリツカー賞を受賞

駅に着いたら建築と温泉に浸る

温泉施設に隣接する休憩スペース壁面にはタイルアートプロジェクトとして、日本画家の千住博さんとデザイナーの水戸岡鋭治さん、町民による共作「家族樹」が設置された

石巻線の終着駅である女川駅のプラットフォームの先にある3階建ての建物が、JR女川駅と日帰り温浴施設を合わせてつくられた「女川温泉ゆぽっぽ」。建物全体は鉄骨造だが、外壁は杉材で覆われて、親しみやすい雰囲気が醸し出されている。建物全体に架けられた大屋根は、LVLという、木材を編み込んだようなつくり。V字型の鋼管柱で支えられ、外観の主要な特徴となっている。

建物内に入り受付を進んでいくと、物産コーナーとギャラリースペースが広がる。ここでは、建物を設計した建築家・さんが多用する紙管でつくられた、有機的なカーブを描くオリジナルのベンチや天井を楽しむことができる。ベンチは人の姿勢に沿ってつくられているので、つい長居する人も。階段で2階に上がっていくと、上部が吹き抜けの開放的な休憩所に出る。大屋根は半透明の白い膜で覆われているので、自然光が柔らかく通って大空間に満ちている。正面の壁面にあしらわれた樹木のタイルアートは、圧巻そのもの。まるで大きな樹の下で一緒に寛ぐような一体感を、建築とともに抱かせてくれる。

浴室でも、同じように大屋根の下、真っ白なタイルに囲われた明るい空間が広がる。そして、日本画家の千住博さんが手掛けた、富士と鹿を描いたアートが利用者の心を安らかにする。もちろん、アルカリ性で優しい肌触りの温泉にもじっくりと浸かり、温まりたい。今度は、1階からエレベーターで3階の展望フロアに上がって、海から陸へと抜けていく風を感じながら周囲を見渡してみよう。建物中央付近に設置された展望デッキからは、西は駅のプラットホームが、東は駅前から続く複合施設「シーパルピア女川」と女川湾が一望できる。

終点の駅は、大きな視点でじっくりと街と海を眺めて、これからの女川の姿を思い描く場所に。心身ともに安らぎをもたらす終着駅の建築は、これから希望を抱いて出発する始発駅の役割も果たしている。

天井、ベンチなど
至るとこに坂建築が!

1階のギャラリーでは、ベンチや天井に「紙管」が用いられている。再生材料からつくられた紙管は軽くて強度が高く、加工をすることで防水性や難燃性も高めることができる。

展望所から建築の町を眺める

女川駅から海に向かって、歩行者専用道路の「レンガみち」がまっすぐに延びる。この道の軸線は、初日の出が真正面から見えるように設計されている。

入浴中もデザインを楽しめます

白いタイル仕上げで囲われた明るい浴室の壁面にも、千住博さんによる原画を忠実に転写したタイルアート「霊峰富士」、「泉と鹿」が施されている。

女川温泉ゆぽっぽ
住所|宮城県女川町女川2-3-2
Tel|0225-50-2683
営業時間|9:00〜21:00(入館は30分前)
定休日|第3水曜(祝日の場合は翌日休)
http://onagawa-yupoppo.com

坂 茂が誰よりも早く
復興に動いたワケとは

女川湾に面した市街地は津波により壊滅的な被害に遭遇。大規模な造成工事が進められた

未曾有の大災害に直面して思考が止まってしまいがちな状況で、いち早く建築のノウハウを生かして動いた人物がいる。世界的にその名が知られる建築家の坂茂さんである。坂さんは数々の施設や住宅を設計することと同時に、緊急時に活用できるシェルターもデザインし、世界各地の被災地などに導入してきた。坂さんは1995年に立ち上げた支援団体「ボランタリー・アーキテクツ・ネットワーク(VAN)」を率い、まずは仮設住宅へ移るまで体育館などで避難生活を余儀なくされた人々に、紙管を利用した間仕切りシステムをつくる現地での活動を2011年4月からはじめた。「ボランティアを続ける中で女川の前町長と出会い、以前から構想していた2層・3層の仮設住宅の提案をしました」と坂さんは語る。

一般的に、災害後に急ピッチで建設される仮設住宅は平屋である。しかし女川町には平地が少なく、十分な数の仮設住宅を建設できない。坂さんは、コンテナを住宅に用いるという驚きのアイデアを出した。「輸送に使われるコンテナを市松状に積み上げて固定することで、耐震性が高く断熱性や防音性にも優れた住宅ができます」と坂さん。総合運動場の野球場内に建てられた仮設住宅は快適で暮らしやすいと好評で、住民はうらやましがられていた。

こうしたつながりと実績の下、坂さんは女川駅舎を併設した「女川温泉ゆぽっぽ」の建物を依頼される。新駅舎は、山側から土を盛り造成していくため、旧駅舎よりも約150m内陸側の位置に建設された。周辺の施設よりも先に立ち現れた建物は、女川港を行き交うウミネコが翼を広げた姿に。「復興に向かって羽ばたいてほしい」という坂さんの思いが込められている。建物は地域のシンボルとなり、力強く歩むための心の支えになっている。

坂さんは海上輸送用のコンテナを使った3階建ての仮設住宅を提案し実現。快適で住みやすいと好評だった

女川はランドスケープデザインも楽しみたい

女川駅とともに整備されているのが、駅から女川湾に向かってまっすぐに延びる「レンガみち」だ。海を眺めて暮らす町のシンボル軸として、沿道の施設と一体となっている。まちづくりの事業計画にあたっては、都市計画や設計に携わる専門家を中心に「女川町復興まちづくりデザイン会議」を設置。住民を交えた粘り強い協議を通して醸成されたビジョンが、結実した。

エリア一帯で一貫しているのは、人が車よりも優先されていること。通常であれば、タクシーやバスのロータリーは駅の正面に設けられるところを、あえて脇に寄せた。また、軸線はレンガで舗装され、幅の広い落ち着いた歩行者専用道路となっている。さらに、建物は分割されて斜めに抜けるような小道がいくつも用意されている。女川みらい創造の代表取締役社長・阿部喜英さんは「鉄道から降りた人が気持ちよく散策できる、公園のようなエリア全体の空気感を味わってほしい」と語る。車通りを気にすることなく、分散した建物の間を縫うように、バリエーション豊かな店舗を回遊する楽しさと心地よさが、ここにはある。このエリアは今春、道の駅として指定を受ける予定。さらに充実して楽しくなることが予期される。

女川フューチャーセンター Camass

町内外の人が集まり、つながりながら町の活性化を図ることを目的につくられた施設。コワーキングスペースや会議室、多目的スペースなどを備え、課題解決が実践されている。

女川フューチャーセンター Camass
住所|宮城県牡鹿郡女川町女川2-66
Tel|0225-98-7175
料金|町内500円、町外1000円(ワンデイ会員、入会金別途500円)
営業時間|9:00〜18:00
定休日|店舗により異なる
http://onagawa-mirai.jp

地元市場 ハマテラス

切妻屋根の細長い建物内に「海」を基本コンセプトにした店舗が並ぶ、物販飲食施設。海を望む展望テラスや広場も設置され、風除室を兼ねたテーブル席は窓が開放されることも。

地元市場 ハマテラス
住所|宮城県牡鹿郡女川町女川2-66
Tel|0225-24-8118
営業時間|店舗により異なる
定休日|店舗により異なる
http://onagawa-mirai.jp

シーパルピア女川

駅から海に向かって延びるレンガみちの両脇に並ぶ、テナント型の商業施設。6棟の平屋からなる建物は、3つのエリアで構成されている。設計は東 環境・建築研究所/東利恵。

シーパルピア女川
住所|宮城県牡鹿郡女川町女川2-60
http://onagawa-mirai.jp

女川町まちなか交流館

「居心地のよい、まちの居間となる、賑わい交流拠点」がコンセプトの女川町の施設。10mに及ぶ天井高の開放的なロビーのほか、ホール、会議室、音楽スタジオなどを備える。

女川町まちなか交流館
住所|宮城県牡鹿郡女川町女川2-65-2
Tel|0225-24-6677
開館時間|9:00〜21:00
休館日|第2・4火曜(祝日の場合は翌日休)
http://onagawa-machikou.com

女川水産業体験館 あがいんステーション

旧女川駅舎の外観が復元された施設で、女川や宮城の特産品などを販売する「あがいんプラザ」と、加工や調理を体験しながら水産業を学べる「あがいんキッチン」が入る。

女川水産業体験館 あがいんステーション
住所|宮城県牡鹿郡女川町女川2-16-4
Tel|0225-98-7839
営業時間|10:00〜17:00
定休日|月曜(祝日の場合は翌日休)
www.onagawa.co.jp/again-station
 

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text: Jun Kato photo: Teruaki Tsukui illustlation: Takashi Kawakami
Discover Japan 2021年4月号「テーマでめぐるニッポン」


《東北・宮城の“建築の聖地“をめぐる旅》
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