TRADITION

お歳暮はご先祖様に感謝を捧げる贈り物?
「お歳暮」の基礎知識

2021.11.30
<small>お歳暮はご先祖様に感謝を捧げる贈り物?</small><br>「お歳暮」の基礎知識

お歳暮は、一年無事に過ごせるよう見守ってくれていたことへの感謝を込めて、先祖に供え物をする風習から始まっています。離れて暮らす親や親戚といった身内をはじめ、会社の上司や取引先など、お世話になった相手に贈るのが慣例ですが、昨今は虚礼廃止の風潮から、儀礼的に贈り贈られる相手が少なくなりました。しかし贈り先は減る一方ではなく、一年頑張った自分自身や、親しい友への贈り物という、新しい解釈で増える贈り先もあります。

おおもとは先祖へのお礼から

年の初めから折に触れ、先祖に対し「無病息災」や「家内安全」を祈り、見守ってくださいとお願いをしてきたが、お歳暮はその一年間の見守りに対するお礼として、捧げ物をする習慣が元になっている。

お中元もそうだったが、先祖に捧げるにあたり、一番身近な祖先である親に贈るものが、直接の親だけでなく、その祖先である一族の本家にも贈るようになり、それがもっと広く解釈されて世話になっている目上の親類に贈るようになった。さらに「世話になっている」という点で重要な仕事上の上司に贈るようになり、その延長戦で取引先へも贈るようになっていった。

お歳暮の王道は保存性の高いもの

現代でもお歳暮には食品を贈ることが多いが、江戸時代も塩引き鮭や数の子、里芋などは人気の贈り物だった。その多くが、縁起が良くて保存のきくものという点に注目したい。年末に贈るちょっといい食べ物となれば、お正月の御馳走にもなるものであれば、気が利いている。正月にふさわしい食べ物とは、縁起が良いものだ。正月までの間、悪くならない保存性の良いものを選ぶのは当然のことで、長持ちするということも、長寿を連想させる縁起の一つだったと考えられる。多くのお歳暮を貰う家では、塩引き鮭が何本もぶらさがるなど、お歳暮の数がその人の世話をしている人の数、ひいては世間への影響力の大きさを示していた。

あまり保存のきかないものだが、珍しいということで人気があった贈り物の一つに鴨がある。江戸の川柳には、いただいた鴨を「珍しいものをいただいたので」と、自分の世話になった人に持っていくと、貰った人もまた「珍しいものをいただいたので」と自分が世話になった人のところへ持っていく……というのが繰り返されて、だんだん鴨の鮮度が落ちて、目が落ちくぼんでいる(移動移動で疲れた様子)と詠んだ川柳もある。

保存性という点では、食べ物以外の生活必需品も人気で、半紙、水引、鬢付け油といった身の回りの品や、箒に雪かき、まな板、踏み台といった日用雑貨も、お歳暮に使われていた。

実はお歳暮で贈られなかった品

お歳暮に限らず、日本各地のおいしい日本酒やワイン、昨今ではクラフトビールなど、アルコール飲料は人気のギフト。だが江戸時代、とくに武士の世界では、酒をお歳暮に贈ることはなかった。その理由は、大名が江戸城に登城して、年末の挨拶をする「歳の尾の賀」という行事で、立場が上である将軍が酒や肴を出して大名をもてなし、当時最高の酒とされる「灘の生一本」を下すから。つまり酒は上位の者から下位の者へ、年末の挨拶にきてくれたことへのねぎらいの品として扱われていたのだ。

お歳暮をもらう側は、もらいっぱなしでよいのではなく、こうした酒肴でのもてなしのほか、それ相応の祝儀を持たせて返さなければならない。ドラマ『半沢直樹』で有名になった“倍返し”は、こうしたお歳暮のお返しのように、立場が上の者が下の者からもらったものに、もらった物以上の価値ある物をお返しするというのが、本来の意味であった。

photo: Norihito Suzuki

先祖へのお礼からお世話になった人へのお礼、さらには仕事上のおつきあいに感謝する物になったお歳暮。今また、仕事上の関係者ではなく、個人的なおつきあいに感謝する意味合いが強くなっているのは、お歳暮の原点回帰とも言えます。普段、会いたいけれどなかなか会えない人へ、心を込めて選んだ品を贈ってはいかがでしょう。「あの人はどんなものが好きだったかしら」と、その人と過ごした時間を思い返す。そんなゆとりある年末を過ごしたいものです。

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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。

参考文献=12ヶ月のしきたり(PHP研究所)、知っておきたい日本の年中行事辞典(吉川弘文分館)、「旬」の日本文化(角川ソフィア文庫)、江戸年中行事図聚(中公文庫)

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