中秋の名月だけじゃない!お月見は秋に毎月3度ある!?
「お月見」の基礎知識
古事記に登場する太陽神・天照大神の弟、月読命は夜を治める神様です。稲作社会では日照が重要視されるため、天照大神に比べちょっと影が薄い月読命ですが、和歌をはじめとした風流の世界では圧倒的に月のほうが人気者。もともとは豆や芋、栗を供えて、来年の豊作を祈る宗教行事だった「お月見」は、だんだんと月を見ながらお酒を飲んだり食事をしたりする、遊び的要素が強い行事になっていきました。
稲作以前の畑作文化は月をあがめた
日本の神話にはほとんど顔を出さない月読命。これは稲作を守る神の一族として君臨してきた大和朝廷にとって、月があまり大きな意味をなさなかったことと関係している。しかし稲作が普及する前の畑作社会では、月は水と深いかかわりがあると考えられ、人々は月を崇め奉っていた。月がきれいに見える秋は、畑作社会の主食である芋(里芋)の収穫期でもあり、そうした作物を月に供えて次の豊作を祈るという宗教行事が、稲作社会に移行した後も続いてきた。
そこに、中国から「中秋節」が伝わり、月見に宴という要素が加わる。中秋節は旧暦8月15日夜、詩歌管弦を楽しみながら月を愛でるもの。庶民にとって詩歌管弦を楽しむという部分はあまり普及しなかったが、時代が下るにつれて月見は農耕儀礼だけでなく、美しいものを見て楽しむという、観賞的行事にもなっていった。
実はお月見は3度ある
現代でいわゆる「お月見」とされているのは旧暦の8月15日。だがかつては旧暦の秋である7月、8月、9月それぞれにお月見があった。
7月の月見は26日に行われる。これは仏教とつながった行事で、この夜は月の出の瞬間に光が3つに分かれ、阿弥陀如来が観音菩薩と勢至菩薩を連れて姿を現すと言われ、その光を拝もうと人々は月の出が見える場所に集まって宴を開いた。江戸時代は海から月が出る品川や高輪が人気スポットとなり、お金のある商人たちは屋形船に芸者を連れて乗り込み海から月を見物。陸地でも見物客を当て込んで、食べ物屋の屋台がずらりと並んだ。
次の8月の月見は15日。当時からこの月見は3度ある月見のメインで、その前夜の月を「待宵月」、15日の翌16日「十六夜月」、さらに翌17日「立待月」、18日「居待月」、19日「臥待月」、20日「寝待月」と呼ぶなど、満月だけでなく月の変化をも楽しむ行事となっていた。この時期は八幡様の祭礼の時期でもあり、江戸の月見は祭礼のお神楽が聞こえる中でのにぎやかな月見だった。
最後の9月は13日が月見。昔は8月15日の月見の際に一緒にいた人と、この9月の月も一緒に見ないと縁起が悪いとされていた。このため、江戸の遊女は何としても8月15日に客を呼び寄せて一緒に月見をして、9月13日にも確実に来てくれるように仕向けたという。
お供え物は地域によってさまざま
月見のお供え物は、団子、芋、豆、栗などがよく知られており、「8月には芋、9月には豆」というような、お供え物の使い分けもされている。月見のルーツを考えれば、まず畑作時代の主食であった芋(里芋)や豆、栗がもともとのお供え物であり、米から作られる団子が捧げられるようになったのは江戸の後期のこと。団子の数は地域によって13や15と飾る数が決まっている。江戸では月のように丸く作って白いままで飾り、京阪では里芋のように片側がとがった団子に黄な粉をまぶして供えた。
このほかにも柿や大根など、その時期にとれた作物もともに供える。こうしたお供え物に秋の実りを感謝し、来年の豊作を願う行事としての面が強くうかがえる。
なお植物はススキをメインに秋の七草を飾るが、これも地域によって違いススキも何も飾らないところもある。
団子泥棒は縁起がいい?
美しい女性を恋に誘う=花泥棒は罪にならぬ、という言葉があるが、月見の夜に飾られた団子を盗むのも、おとがめなしとされていた。むしろ「団子を盗んで食べると良いことがある」「お供え物を盗まれると来年は豊作になる」と言われている地域もあるほど。この日は子どもたちが夜に出歩き、あちこちの家で団子を盗み食いするという、捕まる心配のない中でスリルを味わう日でもあった。
だが一部の地域では「若い娘が月見のお供え物を食べると嫁に行けなくなる」といった俗信もあった。これは女性の生理を「月のもの」と言ったように、女性と月とは強く結びついているという考えから生まれたものであろう。
現代では秋に盛り上がるイベントと言えばハロウィンを思い浮かべる人が多いかもしれません。実はハロウィンも、もとは秋の収穫を祝い、悪霊を追い払うケルト人のお祭りが起源。ハロウィンは子どもたちがお菓子をもらいに近所を脅迫(!)して歩きますが、日本のお月見も子どもたちが近所の団子を盗んでまわるあたり、どこか似たものが感じられます。
遠くにいる家族や友人とSNSなどを使って、一緒に月見をするのも乙なもの。どこにいても見上げる月は同じ月。離れていても同じものを見て語り合っている、そんなシチュエーションがお互いの結びつきを強めてくれそうです。
離れた家族や友人へ贈りたい、
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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=「日本の行事」と「しあわせ」の関係 日本のくらし「基本のき」(メディアパル)/日本のしきたり冠婚葬祭・年中行事のなぜ?(ダイヤモンド社)/知れば納得!暮らしを楽しむ12ヶ月のしきたり(PHP研究所)/年中行事読本 日本の四季を愉しむ歳時ごよみ(創元社)/日本の「行事」と「食」のしきたり(青春出版社)/江戸年中行事図聚(中公文庫)