「おいでやす」と「おこしやす」
の違いって?知って楽しい京都のことば
京都でよく耳にする「おばんざい」や「おいでやす」などの言葉。京都で使われるその言葉の意味やストーリーを知ると、京都という世界がより味わい深く、鮮やかに見えてきます。知って面白い、京都ことばにまつわるお話を、京都や食、日本旅館にまつわる執筆で知られる柏井壽さんに解説いただきました。
柏井 壽
京都府生まれ。歯科医院を営む一方で「京都」、「日本旅館」、「食」をテーマとするエッセイ、小説を執筆。Discover Japanにて「逸宿逸飯」を連載中。近著に『京都二十四節気』(PHP研究所)、『鴨川食堂おまかせ』(小学館文庫)、『別冊Discover Japan_TRAVEL 味わいの名宿』、『Discover Japan TRAVEL 泣ける日本の絶景88』(ともに小社刊)などがある
『おばんざい』はお店で食べるものではない?
京都のグルメと聞いて、『おばんざい』を思い浮かべる人は少なくないだろう。この『おばんざい』、本来は家庭で食べる質素なおかずのこと。
なので、お金を出して、お店でたべるものではない、と柏井さんはいう。京都名物のようにして、『おばんざいバイキング』や『おばんざい定食』などというメニューを掲げているのはあくまで、観光客向けの料理なのだ。京都で「『おばんざい』、どこのお店が一番美味しいですか?」と聞くと、古くからの京都人には「『おばんざい』の美味しい店など知りません」と言われてしまう……かも。
『京の腰抜けうどん』とは?
京都のおいしいものの一つとして挙げられるうどん。昔から「京都らしいうどん」はコシがなくやわらかいもの。そのコシのなさを表現して、『腰抜けうどん』と呼ぶ。麺ではなくだしが主役であるため、だしが染み込みやすいように、また、歯のないお年寄りでも歯ぐきで噛み切れるように、やわらかいのが特徴だ。コシがないからこそ、ダシをじっくり味わうことができる。コシがあるうどんを出す店も増えているが、京都でうどんを食べるなら、ぜひコシのない『腰抜けうどん』を。
「おいでやす」と「おこしやす」の使い分け
京都の店を訪れて、最初にかけられる言葉には、ふた通りある、と柏井さんはいう。通りがかって、ふらりと入った漬物店なら「おいでやす」と迎えられる。対して、予約しておいた割烹店。暖簾をくぐり店に入ると、「おこしやすぅ、ようこそ」と女将が迎えてくれるはず。
「おいでやす」は店に入ってきた客すべてにかける言葉ですが、「おこしやす」は、より丁寧に迎え入れる言葉だと思ってください」と柏井さん。
わざわざお越しいただいて、ありがとうございます、という気持ちを込めての「おこしやす」なのだ。京都人は、さり気なく、こうした言葉の使い分けをする。この違いに気づけば、自分がどういう迎え方をされているか、がわかるのだ。
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京都の旅は予習が必要!
「京都旅を成功させるには予習が必要。」柏井さんは、そう語ります。京都は千数百年もの長い時間に、起こったことや繰り広げられた歴史が、折り重なっている街。
ここで紹介した言葉だけでなく、料理店、神社仏閣などの名所、お寺の山門や神社の鳥居ひとつとっても、長い歴史と紆余曲折を経て、今の姿でそこにある。そうした「基礎知識」を知っていれば、京都で目にするもの、口にするものすべてが、何倍も面白くなります。
予習によって得た知識や事実、京都人の知恵などを旅の現場でたしかめることは、京都旅でこそ味わえる醍醐味なのです。
《京都の心を知るための22のことば》
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4|柏井壽が案内する定番の京都。京都極みの麺15選|後編
text=Discover Japan photo=Tomohiro Mazawa, Chikashi Kasai
Discover Japan 2017年10月号「京都の誘惑。」より