紅葉狩りとは?本当は紅葉ではなく黄葉だった?
色づく木の葉を観賞する紅葉狩りは、秋の行楽の目玉のひとつ。自然そのままの山はもちろん、神社仏閣や公園にも紅葉の名所は数多くあり、紅葉シーズンには美しい景色を一目見ようと人々は各地へ出掛けます。春の花見前線と同様、秋の紅葉前線は、シーズンになれば日々の天気予報とともに報じられる注目のトピックス。今回はそんな「紅葉狩り」のルーツをひも解きます。
もみじといえば黄色?紅?
秋の風物詩として人気を集めている紅葉だが、それは昔も同じ。7世紀後半に編まれた万葉集にも、紅葉(当時は黄葉)を詠んだ歌はたくさんあり、その美しさ、色が移り変わる儚さを1000年以上前の人も愛でていたことがわかる。
万葉集では「紅葉」ではなく、「黄(色の)葉」と書いて「もみじ・もみち」と読ませている。万葉集にいくつもの歌が取り上げられている柿本人麻呂は、妻への想いをつづる歌に黄葉を詠み込んだ。はらはらと散る様や、落ち葉で道が隠れることに、妻に会いたいのに会えない寂しさや、妻を失った悲しみが投影されている。
平安時代になると、黄葉ではなく紅葉を書くようになる。広瀬すず主演で映画化もされた漫画のタイトル「ちはやふる」は、在原業平の歌「ちはやふる神代も聞かず竜田川からくれないに水くくるとは」の冒頭部分。川の水面を埋め尽くして流れる紅葉への感嘆を詠んだ歌だ。「からくれない」とは「唐(の国の)紅」であり、黄色い葉ではなくはっきりと紅い葉を指していることがわかる。
都会人の楽しみだった紅葉観賞
紅葉を詠んだ和歌がたくさんあるのは、もともと紅葉を愛でるのは貴族の楽しみだったからだ。紅葉を見るのは、都育ちの彼らが都から離れて野山に分け入る、今でいうところのアウトドアな遊び。まるで鳥や小動物を捕まえる猟師のようだと、「狩り」というちょっとワイルドな言葉が使われるようになったと思われる。
時代が下るにつれて、貴族から武士へ、庶民へと紅葉観賞は娯楽として広まっていく。江戸時代は、江戸に暮らす庶民が紅葉観賞を楽しんでいたことが、「江戸名所図会」という名所案内の本などからわかる。江戸は狭いところにひしめき合って人が暮らしており、紅葉はちょっと足を延ばして遠足気分で楽しむ、秋の娯楽の王様だった。
「紅葉を見に行ってくる」は男の口実!?
江戸の名所を記した書物はいろいろあり、『東都歳時記』という本には紅葉の名所として谷中や根津、品川、目黒、大塚、大久保などの神社仏閣の名が挙がっている。谷中や根津はちょっと足を延ばせば浅草、吉原はすぐそこ。また品川には紅葉の名所と言われる寺が点在しており、ここも盛り場。静かに紅葉を鑑賞して歌でも詠もうなどという風流とは縁遠い男性陣にとって、「紅葉を見に行く」はすなわち「ちょっとモテてこよう」という下心のカモフラージュだった。その心情は「吉原は紅葉踏み分け行く所(柳多留7)」や「海晏寺まつかなうそのつきどころ(誹風柳多留拾遺)」といった川柳に表れている(※海晏寺は品川にある紅葉の名所)。
紅葉の和歌を知っていた江戸庶民
和歌を詠むなどという風流な趣味は持っていなくても、庶民も紅葉を詠んだ昔の和歌を知っていた……ということが、彼らの娯楽である笑話からわかる。
馬子に見栄を張って「自分は俳句の師匠だ」と嘘をついたばかりに、いろいろ句を詠むように言われた男。最後に「奥山にもみじ踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は来にけり」とごまかしたが、実は馬子にはにせものだとばれていたという「猿丸太夫」という落語は、百人一首に収められた、歌人・猿丸太夫の詠んだ「奥山に紅葉踏み分け鳴く鹿の声聞く時ぞ秋は悲しき」という歌を知らなければ楽しめない。この落語「猿丸太夫」は現代ではあまり演じられていないが、前述の「ちはやふる神代も聞かず竜田川からくれないに水くくるとは」を題材にした落語「ちはやふる」は、現代でも人気の一作。この歌の意味を教えろと迫られて、苦し紛れに大家が相撲取りと遊女の因縁話をでっちあげる話で、元ネタである和歌との大いなるギャップが笑いどころだ。
紅葉は気温の寒暖差が生み出す、色鮮やかな自然の芸術作品です。「秋の夕日に照る山もみじ」で始まる唱歌「紅葉(もみじ)」の歌詞には、美しい日本の秋の情景が描かれています。遠出をする紅葉狩りには行けないいまだからこそ、身近にある街路樹や庭木の紅葉に季節の移ろいを強く感じることも。紅葉を見てちょっとセンチメンタルな気持ちになったら、和歌のひとつも詠みましょうか? それとも落語でも聞いて笑いましょうか?
紅葉を眺めながら愉しみたい、
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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=日本の365日を愛おしむ―毎日が輝く生活暦(東邦出版)/知れば納得!暮らしを楽しむ12ヶ月のしきたり(PHP研究所)/江戸娯楽誌(講談社学術文庫)/江戸年中行事図聚(中公文庫)