TRADITION

名家のお雑煮。
松本栄文さんの地域の文化を味わう「お雑煮図鑑」

2020.12.12
名家のお雑煮。<br><small>松本栄文さんの地域の文化を味わう「お雑煮図鑑」</small>

京都発祥の雑煮ですが、宮廷文化が公家衆から武家へ伝わり、諸藩の台所事情や嗜好を如実に反映しているのがおもしろいところ。たとえば香川県を挙げてみると、德川家の身内である讃岐の高松藩主松平家とその城下は、他藩より財力があることから、雑煮に甘い餡餅を入れます。その一方で丸亀藩主京極家とその城下は、すまし仕立てに水菜の質素さが際立ちます。

監修
松本栄文(まつもと・さかふみ)
「花冠陽明庵」主人、作家。全国お雑煮文化研究家。一般社団法人日本食文化会議会長として日本の食文化の普及に努める。著書『日本料理と天皇』(枻出版社)でグルマン世界料理本大賞2015の最高位「殿堂」に輝く。NHKの番組『あさイチ』でお馴染み。
新著『雑煮365日』(NHK出版)で四季の雑煮レシピと雑煮あれこれを紹介。NHK12月のBS放送、2021年1月4日の『あさイチ』にて、松本さんの雑煮談義をお楽しみに!

雑煮の前はこんな姿です

なぜお正月に雑煮を食べるのか。もとをたどると平安時代、お正月に宮中で行われていた「歯固めの儀」に由来します。写真は儀式の供物のひとつ。平丸餅に押鮎、大根など歯ごたえのあるものを噛むことで齢を固め、健康長寿を願いました。この歯固めの儀が形式化されていく過程で今日の花びら餅につながる「包み雑煮」が生まれ、固くなった平丸餅を煮戻して食べた「汁雑煮」が、現在の雑煮の起源となります。

宮中の雑煮(室町〜江戸中期)
京都洛中(御禁裏)

おそらく最古の雑煮で、日本各地に広がった雑煮の起源といえる一杯。この時代はまだ白味噌がなく、垂れ味噌(味噌に水を加えて煮詰め、布袋に入れて濾したもの)仕立て。鮑は波に潜む美しさをもつとして生命美の象徴とされ、珍重された貝である。そのため宮廷においては鮑を雑煮に加え、海の生命力を得ようと考えられてきた。正月一日の夜、本膳形式の祝膳最後の儀式「入夜御盃」で供された。

材料
①丸餅/煮
②昆布出汁/垂れ味噌仕立て
③干し鮑、干し海鼠、削り節、祝大根

宮中の雑煮 (明治維新〜現在)
東京(御所)

江戸時代後期、公家筆頭である近衞家の荘園が宇治から伊丹へとくら替えに。近衞家はそこで酒造りが盛んな伊丹杜氏と出会い、天皇への献上品としてお米たっぷりの白味噌をつくらせた。白味噌は瞬く間に宮中で流行、雑煮に使われるように。現在、京文化圏すべての白味噌仕立ての雑煮は、この鮑の雑煮から明治後期に発展したもの。かつてお米は貨幣でもあり、米糀をふんだんに使う白味噌は贅沢品。白味噌の甘ぼったい味に、鮑の濃厚な味わいが調和する。

材料
①丸餅/煮
②昆布出汁/白味噌仕立て
③干し鮑、干し海鼠、鏡大根、亀甲芋、削り節

三條西家の鴨雑煮
東京(旧公卿)

三條西家は香淳皇后(昭和天皇の皇后)の妹にあたる皇親外戚の家柄で、毎年暮れに御狩場の真鴨二羽をされていたことが由来にある。そのため、昭和初期には鮑が鴨肉に替わった。コクのある真鴨の肉と上品な脂が白味噌仕立てで生かされ、大根の風味と削り節がいっそうの花を咲かせる。

材料
①丸餅/煮
②昆布出汁/白味噌仕立て
③真鴨、祝大根、亀甲芋、削り節

德川宗家の鶴雑煮
江戸(德川将軍家)

武家社会において最も好まれたのが鶴肉である。真鴨のような赤身肉で香りがよいのが特徴だ。鶴肉に片栗粉をまぶし、沸騰した湯で下ゆでする。鰹節と昆布の合わせ出汁で、江戸では切り餅を焼いて用いるのが常。小松菜と鶴肉、まさに菜(名)を鶴(とる)に通じ、武士の菜鶏雑煮の起源ともいえよう。香ばしいお餅と鶴特有の香りが相乗し、なんとも至福な一杯であろうか。古文書にある「鶴汁」は、この餅なしの汁だと考えてよい。

材料
①切り餅/焼
②鰹節・昆布出汁/醤油仕立て
③鶴肉(写真は鴨肉で代用)、亀甲椎茸、小松菜、柚子

島津宗家の雑煮
京都島津藩邸(薩摩藩主島津家)

薩摩藩主30代島津忠重が記した『炉辺南国記』には、「味醂一升、水三合、白味噌二百匁、赤味噌三十匁を混ぜて汁とし、具材を煮込んだ」とある。島津家といえば、篤姫(後の天璋院)が近衞家の養女となった例のごとく、近衞家と入魂深き間柄。そのため、雑煮に京の白味噌が用いられたと考えられる。出汁を用いず必要以上に甘さを追求したところに、当時の贅沢が「甘み」だったことがうかがえる。

材料
①丸餅/焼
②本みりん・水/合せ味噌仕立て(白味噌・赤味噌)
③鮑、金海鼠、山の芋、枯露柿、青板昆布、鰹厚削り節

京極家の雑煮
滋賀・北近江及び香川・丸亀(丸亀藩主京極家)

鎌倉時代より続く京極家は、近江、飛騨、出雲、若狭、上総、摂津の守護を務めた名家。後の関ヶ原の戦いでは、はじめは西軍に属するも途中から東軍に転じたことでも有名である。京極家は時代の荒波の中で質素な暮らしをしてきたゆえに、蒲鉾と水菜だけのすまし雑煮に至ったのであろう。

材料
①丸餅/焼
②鰹節・昆布出汁/薄口醤油仕立て
③蒲鉾、水菜、柚子

 
 

お餅は丸か?四角か?
地域の文化を味わう「お雑煮図鑑」

≫次の記事を読む

supervision & cooking:Sakafumi Matsumoto cooperation:Foundation for Japanese Food Culture Forum text:Yukie Mashumoto photo:Kenji Itano
Discover Japan 2018年1月号「ニッポンの酒最前線」


≫なんと飾りだけの御膳も!? 松本栄文さんが案内する、雅やかな「有職料理」の世界

≫お正月には一味違う、鏡餅と床飾りはいかが?

≫長期の非常時に役立つ「日本の食の知恵」

RECOMMEND

READ MORE