TRADITION

九州のお雑煮
松本栄文さんの地域の文化を味わう「お雑煮図鑑」

2020.12.15
九州のお雑煮<br><small>松本栄文さんの地域の文化を味わう「お雑煮図鑑」</small>

江戸時代の参勤交代を機に日本各地を人々が行き交う中で、雑煮はさまざまな要素が混ざり合い、多彩に進化していきます。お餅ひとつとっても、丸餅、角餅の他に餡餅があり、煮る、ゆでる、焼くと扱いもそれぞれ。出汁は昆布と鰹節のほかに、煮干し、焼干し鮎など地域性があり、そこに各地で縁起をかつぐ具材が加わって、地域色豊かに発展していきました。本記事では、九州地方のお雑煮をご紹介します。

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監修
松本栄文(まつもと・さかふみ)
「花冠陽明庵」主人、作家。全国お雑煮文化研究家。一般社団法人日本食文化会議会長として日本の食文化の普及に努める。著書『日本料理と天皇』(枻出版社)でグルマン世界料理本大賞2015の最高位「殿堂」に輝く。NHKの番組『あさイチ』でお馴染み。
新著『雑煮365日』(NHK出版)で四季の雑煮レシピと雑煮あれこれを紹介。NHK12月のBS放送、2021年1月4日の『あさイチ』にて、松本さんの雑煮談義をお楽しみに!

鰤雑煮/福岡・宗像

日本海の幸であり出世魚である鰤と、博多の伝統野菜「かつお菜」を使うのが特徴。お椀に大根を敷いて焼いた丸餅をよそい、霜降りにして焼いた鰤、塩ゆでのかつお菜、人参をのせ、出汁を注ぐ。寒鰤の力強い美味しさと、シャキシャキと歯触りよいかつお菜、香ばしい焼餅のバランスがよい。

材料
①丸餅/焼
②鰹節・昆布出汁/薄口醤油仕立て、みりん
③塩鰤、大根、人参、椎茸、かつお菜、柚子

熊本雑煮/熊本・熊本

熊本の伝統野菜「水前寺もやし」は、いまや熊本城周辺で師走にだけ出回る貴重なもやし。長さ30㎝ほどもあり、風味と食感が実によい。この水前寺もやしと「熊本京菜」を用いるのが熊本雑煮の特徴。するめ、昆布の濃厚な出汁に鶏肉が加わり、野菜はすべて小口に切って具だくさんとする。

材料
①丸餅/煮
②するめ・昆布出汁/塩仕立て
③鶏肉、大根、人参、ごぼう、水前寺もやし、熊本京菜、里芋

高菜雑煮/熊本・阿蘇

雑煮に餡餅を使うのは高松だけにあらず。熊本、阿蘇の名物「阿蘇高菜」を用いる高菜雑煮も餡餅だ。白味噌ではなく甘めの醤油仕立て。お餅がとろとろになって中の餡が流れ出るほどよく煮る。野菜は短冊に切り、高冷地で風味豊かに育つ阿蘇高菜は、別途湯がいて細かい小口に切る。

材料
①餡餅/煮
②鰹節・昆布出汁/醤油仕立て(甘口)
③鶏肉、椎茸、大根、人参、阿蘇高菜

津奈木雑煮/熊本・津奈木

熊本、八代海に面した津奈木町は古くから打瀬網漁業が盛んで、捕れた足赤海老は加工され、干し椎茸、昆布とともに雑煮の出汁として使われている。濃厚な出汁に九州特有の甘い再仕込み醤油とみりんがよく合う。仕上げに小葱を振ることで、乾物ばかりの重たい味わいに爽快さが加わる。

材料
①丸餅/煮
②干し海老・干し椎茸・昆布出汁/醤油仕立て・甘
③戻し椎茸、戻し海老、蒲鉾、小葱

薩摩雑煮/鹿児島(薩摩藩家臣)

薩摩藩主島津家が白味噌仕立ての甘雑煮であるのに対し、家臣となる武家は大きな焼干し海老の入った雑煮が主流。かつて海老は鹿児島の出水沖でたくさん捕れる身近な食材で、保存のために炙り焼きにして干し、島津家に収められていた。濃厚な海老の美味しさが染み渡る風味豊かな一杯である。

材料
①切り餅/焼
②出水海老出汁/塩仕立て
③出水海老、里芋、小松菜

塩豚雑煮/鹿児島・大隅半島

大隅半島は農作物が育ちにくく、島津家が琉球より島豚を持ち帰ったことから薩摩の豚食文化がはじまった。当時、四足動物を食すのはご法度で、豚肉を「歩く野菜」と称したとか。塩漬豚肉を用いるところは琉球料理の名残。さっぱりとした豚肉出汁に芋焼酎が加わり、白菜の味わいが引き立っている。

材料
①丸餅/焼
②鰹節出汁/塩仕立て
③塩豚、白菜、なると、柚子

 
 

日本各地のお雑煮~関東・甲信編~

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supervision & cooking:Sakafumi Matsumoto cooperation:Foundation for Japanese Food Culture Forum text:Yukie Mashumoto photo:Kenji Itano
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