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なんと飾りだけの御膳も。松本栄文さんが案内する、雅やかな「有職料理」の世界

2019.9.18
なんと飾りだけの御膳も。松本栄文さんが案内する、雅やかな「有職料理」の世界
京都の老舗萬亀楼の有職料理。写真は重陽の節句(9月9日)の献立の一例。高坏と呼ぶ台の四隅を菊で飾るなど特有のルールがある

御所周辺では公家の食文化の名残を感じさせる「有職料理」が堪能できる。公家と武家の文化が合わさり変化を遂げた有職料理は日本料理の歴史そのもの。松本栄文さんの案内の下、美食をめぐった。

松本栄文さん
花冠陽明庵主人、作家。日本食文化会議理事長。「日本文化を愛でる会」を主宰し日本の伝承・伝統文化の普及に努める。著書『日本料理と天皇』(枻出版社)は、料理本のアカデミー賞と称されるグルマン世界料理本大賞の2015年度最高位を受賞

これがないとはじまらない!
有職料理は舞台が命

宮中へ献上する際は州浜台を、鶴や根引きの松、菊の着せ綿、献上籠で飾って中国・蓬莱山の景色をつくる。床の間には檜扇が掛かる
最高級のもてなしを意味するお飾りは右から鯛、福玉、おしどり。珍味を盛りつけることもあるが豪華に見せるためだけに使うことも

日本料理と天皇についての著書もある松本栄文さんは「有職料理は神事や年中行事と密接な関係があります」と語る。古来、日本人が食してきたのは「節振る舞い」と呼ぶ、神事や年中行事の供物(神饌)の下げ渡し。それをいただく儀式(直会)が、現在伝わる御節料理のルーツだという。

「貴族社会が訪れると、その御節料理より遥かに豪華な大饗料理が成立するのですが、後に台頭する武家は、それをさらにアレンジした本膳料理を確立します」。力を見せつける目的もあった本膳料理は脚付き膳で料理を提供。多い時には47膳も用意するほど贅沢なものだった。

「その文化が公家社会に入り込んだのが有職料理。けれども当時の公家たちは質素で、武家のような贅沢はできません。そこで考えたのがお飾り。本膳料理のようにたくさん御膳を用意するけれど、中には飾りだけというものもありました。ですから有職料理は、お飾りという知恵をもって継承された料理といえるのです」。

西陣の老舗・萬亀楼で食せる有職料理もまた、一般的な和食コースに見られない飾りが、華やかで雅やかな公家の世界を表現している。

有職料理大解剖

重用の節句の献立例①先付②煮物椀③お造り④嶋台⑤焼物⑥比呂女(昆布)⑦煮物椀(通常煮物椀は1種。今回特別に2種紹介)

〈先付〉菊の着せ綿でふたをして秋の気配を漂わせる。中には残月の胡麻豆腐、ヒシガニ、水前寺海苔、キュウリ、オクラ。壺々には鮎の内臓を塩漬けにした鮎うるかが
〈煮物椀〉白味噌仕立ての汁にはアワビ、辛子を添えた小芋、三度豆。アワビは波が打ち寄せる磯場に生息することから海の生命力と尊ばれた。宮廷の雑煮にも必ず使われる
〈お造り〉この日の魚は鯛。魚の王とまで称される鯛は「もみじ鯛」と呼ぶこの時期が最も美味しい。あしらいのワサビは菊花をかたどり季節を表現。寄せ海苔も添える
〈嶋台〉2種のかぼす釜のひとつにイクラ、オクラ、菊花。もう一方はインゲンマメの大徳寺風白和え。ほかに小芋衣かつぎや車海老、烏賊菊寿司、紫頭巾、栗、銀杏松葉刺し
〈焼き物〉甘鯛と松茸の奉書焼き。京都では甘鯛のことを「ぐじ」と呼んでいる。きめの細かい和紙である奉書に紅白の水引を掛けて晴れの一席らしい一品に仕立てている
〈比呂女(昆布)〉写真のような昆布は一般的な有職料理に出されることはないが、宮中では行事の時におやつやお茶請け替わりに食したという。「比呂女」は京都の老舗・松前屋製
〈煮物椀〉ハモと松茸の清まし仕立て。椀種は一箸、二箸程度の大きさに切る。山海の出合いものとして喜ばれるハモと松茸の取り合わせは、実りの秋を実感するごちそう

文=古都真由美 写真=板野賢治
2019年10月号 特集「京都 令和の古都を上ル下ル」

萬亀楼
住所:京都市上京区猪熊通出水上ル
Tel:075-441-5020
営業時間:12:00~15:00、17:30~21:30

 

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