TRAVEL

《建築家・安藤忠雄》
光と水のギャラリー
|四国村ミウゼアム×アーティスト

2025.4.17
《建築家・安藤忠雄》<br>光と水のギャラリー<br><small>|四国村ミウゼアム×アーティスト</small>

コンクリートとガラス、流れる水に降り注ぐ光……研ぎ澄まされたシンプルな造形が美を際立たせる。名建築家・安藤忠雄あんどうただおが手がけた、村の小さな美術館とは?

≪前の記事を読む

line

四国村の景観に溶け込む
シンプルで豊かなフォルム

地上1階地下2階建てのギャラリーで、地階へと向かうエレベーターホール。オーバルの天井の隙間から漏れ入る陽光は時の移ろいに応じて変化。神々しいまでの光景だ

香川県でアートといえば、直島のベネッセハウスや地中美術館を想起する人も多いだろう。両者を手掛けた安藤忠雄氏の建築が、ここ四国村ミウゼアムにもある。

2002(平成14)年に開設された「四国村ギャラリー」は四国村ミウゼアム敷地内の高い斜面に佇んでいる。創設者・加藤達雄は設計を依頼した当初、アクセスしやすい立地を考えていたが、安藤氏がこの斜面がよいのだと強く望んだという。

細長い展示室は両端の壁上部がガラスになっており、外光が注ぎ込む。季節によっては緑が床に美しく映り込むそう

ギャラリーの建物は、安藤建築らしい鉄筋コンクリート打ちっぱなし。水平の屋根、横に細長く延びる外壁。シンプルな色とフォルムが、周囲の緑に映え、すっきりとした印象を与える。

美術館は収蔵品保持の観点から極力光が入らないよう設計されることが多いが、ここでは作品はショーケースに守られつつ、東西に設けられたガラスの開口部から自然光が差し込む。光の線は時間や季節に応じて伸びたり、縮んだり。コンクリートの四角い箱の中にいるのに、外とのつながりをゆるやかに感じさせてくれるギャラリーだ。

世界各地の貴重な作品が
安藤建築と共存

長く土の中にあったため、表面がシルバーン(銀化)したといううつわが並ぶ。ササン朝ぺルシアの切子装飾碗や古代ギリシャの瓶など

収蔵品の中心は、美術愛好家でもあった加藤達雄の40年にわたるコレクション。親しくなった新聞記者に連れられ讃岐の古寺を訪ね歩き、仏像に興味を抱くようになった加藤は、一体の金銅仏との出合いから美術のおもしろさに目覚めたという。

加藤家と親交が深かった猪熊弦一郎の絵画。「人工重力」と「サーカスの村」

古代中国の古印から銅鏡、ササン朝ペルシアのうつわ、インドの仏像に日本の書画、フランス絵画・彫刻まで、まさに古今東西の美術品を集め、その大半を四国村に寄贈した。常設展のほか年2回の企画展では館外品も含め多彩な展示を行っている。

リズミカルな水音が響く「水景庭園」
高低差のある庭園には水路がめぐらされ、開放的な階段状の噴水を流れ落ちる水音が軽やかなリズムを奏でる。テラスからは高松市街を一望、天気のよい日は讃岐山脈に四国山地、奥に徳島まで見通せる

ゆったり配された優品を見終え、光に導かれるように出口へと進む。バルコニーに出ると、ぱっと眼下に広がるのが「水景庭園」だ。この水音が心地よく響く庭園も、安藤作品。階段状の水路が、斜面を生かした庭をめぐってゆく。流れ落ちる水を追いかけ段々を下りていくと、いくつもの踊り場が。立ち止まって目をやれば、四国村とその向こうに広がる山並みが融け合い、心潤う眺めが広がる。水辺には春と秋にバラの咲く花壇も。

シンプルなフォルムが自然に溶け込む光と水のギャラリー。心を満たされ、風のように清涼な気分になる空間である。

line

ロダンの彫像に似つかわしい一角も
ギャラリー1階。地下へ向かう階段を下りようとすると目に入る一角。ガラスの前には気品漂うブロンズ像が立っている。オーギュスト・ロダンの「聖ヨハネ像」。刻々と変化する光と影とのコントラストも美しい

text: Kaori Nagano photo: Mariko Taya
2024年7月号増刊「香川」

香川のオススメ記事

関連するテーマの人気記事