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《彫刻家・流政之》が創造した村の音
|四国村ミウゼアム×アーティスト

2025.4.17
《彫刻家・流政之》が創造した村の音<br><small>|四国村ミウゼアム×アーティスト</small>

全長231mの流れ坂。そして激しい水音が響く染が滝。四国村の類稀なるランドスケープと音をつくり出したのは、石の彫刻家だった。流政之ながれ まさゆきが石から生み出した空気とは?

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「生きている村」の空気を石で生み出す

四国村ミウゼアムのエントランスから、大きくゴツゴツとした石が連なる坂「流れ坂」をゆく。しっかり足を踏みしめながら進みふと見上げれば、正面には屋島南嶺の頂上が

四国村ミウゼアムの散策は上り坂からはじまる。ゆるやかな勾配はやがて急峻に、そして曲がりながら続く。決して平坦でない「流れ坂」を建築史家・伊藤ていじはいたく気に入り、詩を寄せている。この坂をつくったのが、彫刻家・流政之だ。第二次世界大戦後、放浪の末、香川県庵治村の職人と「石匠塾」をつくり、1964(昭和39)年、ニューヨークで550tの石を使った壁画「ストーンクレージー」を制作。以後、世界で活躍しながら庵治に拠点を構え、四国村創設者の加藤達雄とも懇意になった。

家の土台石を巧みに合わせた「石組」
染が滝の水が湧き出すのは、階段状の滝の上に設けられた石組。これも流の作品だ。民家の柱を支えた花崗岩の土台石を再利用して井桁に組んであり、中央から水が流れ出る

二人は四国村のランドスケープを熱心に議論した。「建物が互いに干渉しないよう、一棟ごとにガラッと景色が変わるほうがよい」という流のアドバイスで古民家は起伏に富む土地を生かし、ほどよい距離感をとって配された。

また流は「民家は穏やかで女性的なイメージだから荒々しい男性的な石が合う」と提案し、庵治から切り出されたゴツゴツした石をふんだんに使った流れ坂が誕生。

石と水の協奏曲を聴かせる「染が滝」
石組から噴き出た水は幅12mの階段状の石を伝い、流れ落ちる。石は明治・大正時代の民家に使われていた土台石。流は開村後もたびたび訪れ、「染が滝」に張り出す木の枝の剪定を注文するなどその景色にこだわった

さらに「村に音が出るものを設けよう」と言ってできたのが「染が滝」だ。その激しいまでの水の轟きを全身に受けると、次第に力が満ちてくる。この村は生きている、そう感じさせる音を流はつくり出した。

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流れ坂のターミナルは「石畳広場」
流れ坂の終点は大きな石が敷き詰められた広場。広場に置かれた石は小豆島の「残石」。秀吉の大坂城築城のために切り出されたが船積みされず残った石だ。新旧の石の匠の作品が時代を超えて共演

〈ながれ坂〉
ながれ坂は手をつないで上ってください
ながれ坂は手をとりあって降りてください
足もとを見ながらだまって歩いている時
あなた方は自らの心の中を見つめることができます
足もとを見ながら語りあって歩いている時
あなた方は友情や愛情をたしかめあうことができます
そして
立ちどまって空を見あげるならば
あなた方の心の中には新しい希望の光がさしこむでしょう
立ちどまってあたりを見まわすならば
あなた方の視野の中には新しい風景が映ることでしょう
むかしの街道の石畳はそういうものだったのです
そしてその石畳がいまここにあるのです
伊藤ていじ

出典:『四国村開村記念パンフレット』(四国民家博物館)

伊予の茶堂に佇み旅人を見守る石仏
四国村の守り本尊として流政之がつくった地蔵菩薩。瀬戸内寂聴が開眼し「拝んでくだされば、きっと心の中に平和が訪れる」と語った石仏だ。アートエリアに佇む茶堂「遊庵」に安置されている

 

《安藤忠雄》光と水のギャラリー
 

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text: Kaori Nagano photo: Mariko Taya , Shingo Nitta
2024年7月号増刊「香川」

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