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クリスチャン・ボルタンスキーが語る豊島の魅力とは?【後編】

2019.8.8
クリスチャン・ボルタンスキーが語る豊島の魅力とは?【後編】
調和と静けさを第一に選んだロケーション。アーカイブを建てる際、ボルタンスキーさんが望んだのは、建物がやがて木に覆われ、自然と一体のものになることだ

瀬戸内国際芸術祭に第1回から参加する世界的アーティスト、クリスチャン・ボルタンスキーさん。作品のある豊島は彼の人生でも特別な存在になったと話す。豊島に魅了されたボルタンスキーさんに2回にわたってインタビューした、《クリスチャン・ボルタンスキーが語る豊島の魅力》の後編。

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クリスチャン・ボルタンスキー
1944年、フランス生まれ。人の「生と死」をテーマに作品制作を続ける。高松宮殿下記念世界文化賞受賞。写真は「Lifetime」展「アニミタス(白)」の前で   写真:山平敦史

「『心臓音のアーカイブ』を設置する場所を選ぶにあたって私が重視したのは調和と静けさです。ひと言で言えば、平和な場所である、ということ。素晴らしく、美しい海岸に私の遺灰をまいてほしい。そういうような場所です」。島の住宅にも使われる焼杉を外壁に用いた小屋を展示施設とする『心臓音のアーカイブ』。

こちらは海沿いの見つけやすい場所にあるが、一方の『ささやきの森』は山の中の、少し見つけにくい場所にある。「『心臓音のアーカイブ』の静寂に対して、『ささやきの森』は野生的な景色の中にあって、豊島のまったく異なる様相を見せてくれます。より神秘的で、ミステリアスな場所です」。

『心臓音のアーカイブ』へ続く小さな道の途中にある社

氏の作品には『ささやきの森』と同様に先端に風鈴を付けた細い棒を設置し、それを撮影したビデオインスタレーション「アニミタス」がある。アニミタスとはスペイン語で魂を意味するアニミタの複数形で、チリにおいては死者を追悼するために路傍にしつらえられた小さな祠をいう。

作品はチリのアタカマ砂漠やカナダのオルレアン島など、人が容易にたどり着けない複数の場所で制作が行われた。風鈴は長い年月を風雨にさらされてすでにかたちはないといい、映像が残るのみだ。

島の自然に浸りながら進むなら徒歩がベスト。木々の合い間から差し込む日差し、肌を優しく打つ風、潮の香。すべてが作品の一部だ

豊島の『ささやきの森』は隠された場所にあるものの、誰もがたどり着くことができ、鑑賞もできる。ボルタンスキーファンにとっては聖地だ。ボルタンスキーさんの言葉通りに、『ささやきの森』は「本当にここに作品があるの?」と思わせる隠れた場所にある。うっそうとした木々の間、歩みを進めるものの、作品になかなか遭遇しないからだ。「やはり、ないのか?」そう思ったとき、作品が現れる。

それまで無風だった場所に風が吹きはじめた。無数の風鈴がいっせいに音を立てる。「チリン、チリリン」。優しい音色は、まさに人がささやくようにあたりを包み、そして止んだ。

『心臓音のアーカイブ』で自らの心臓音を録音して作品に加わることができるのと同様に、『ささやきの森』でも鑑賞者は作品に参加ができる。風鈴に付ける短冊に大切な人の名前を書き記すのだ。鑑賞者の思いは作品の一部となって、永久に森の中に刻まれる。

「重要なことは、私の名前はたとえ忘れられてしまっても、豊島が、そして作品が一種の巡礼の場所となって残ることなのです」。(ボルタンスキーさん)

《クリスチャン・ボルタンスキーが語る豊島の魅力》
前編|島の風景とアートが自然に融合している。
後編|調和と静けさ、野生と神秘。自然とアート。すべてが一つになる。

文=森 聖加 写真=西岡 潔
2019年8月号 特集「120%夏旅。」

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