PRODUCT

【noma×うつわ】
理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ
noma×京都を彩るニッポンのうつわ作家たち【前編】
ノーマ京都のすべて⑩

2023.8.10
【noma×うつわ】<br>理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ<br><small>noma×京都を彩るニッポンのうつわ作家たち【前編】<br>ノーマ京都のすべて⑩</small>

nomaの料理の魅力をいっそう引き出すうつわの数々。さまざまな作風の中から選ぶ過程で目に留まったのは、日本の作家たちだった。コペンハーゲンとは違う顔ぶれになったnoma×京都のうつわ。創作の現場へ足を運ぶと、彼らが共鳴した理由が見えてきた。

≪前の記事を読む

理想のうつわは、宮崎 高千穂にあった!
創作の現場を訪ねる旅へ。

ヘッドR&Dシェフの髙橋惇一さんとプロジェクトマネージャーの神尾理沙さんは、noma×京都を支えたうつわ作家の一人、壷田和宏さん、亜矢さん夫妻の元へ旅に出た。遠く阿蘇山を望む高千穂でのひとときは、まるで旧友との再会のような時間になった。

(写真左から)
壷田亜矢さん
愛知県立芸術大学時代に和宏さんと出会い結婚。和宏さんとともに子ども3人を育てながら陶芸家としての道を歩んできた。noma×京都では神尾さんと細かくやりとりをしながら夫妻のうつわを完成させた
Instagram:@tsuboaya005

壷田和宏さん
愛知県立芸術大学時代に恩師・鯉江良二さんと出会い、強く影響を受ける。はじめは愛知・瀬戸市の隣、長久手市に登窯を築き、その後三重・伊賀へ。2009年に宮崎・高千穂に移住。現在の住居兼工房は自らの手でつくった

神尾理沙さん
nomaプロジェクトマネージャー。通常の営業からポップアップまで、スムーズな運営になくてはならない存在。noma×京都ではうつわ選びも担当し、テーマに沿った作品をつくる作家探しから交渉までをやり遂げた

髙橋惇一さん
nomaのヘッドR&Dシェフ。日本のフレンチで経験を積んだ後にコペンハーゲンへ。2012年に日本人としてはじめてnomaの一員となり、現在は主にメニュー開発を担当する。noma×京都では、ヘッドR&Dシェフに抜擢

宮崎県北部に位置する高千穂町は、県内随一の標高を誇る祖母山のふもとに広がり、神秘的な高千穂峡で知られている

宮崎県の北部、高千穂にある壷田和宏さん、亜矢さん夫妻の住居兼工房は、日本の原風景が残る山あいにある。2度目の移住で高千穂にたどり着いたのは、いまから14年前のこと。東海地方で作陶していた壷田夫妻にとって、そこは縁もゆかりもない場所だったが「もう一度ゼロからはじめたかった」という想いとインスピレーションを原動力に、創作の場をまさしくゼロから築いた。移住当初、手つかずの荒れ野だった約3万坪の敷地には、いまや壷田さん自らが建てた住居兼工房のほかに、日々の食を賄う畑が広がり、2頭のヤギものんびり暮らしている。傾斜地を生かした立地は見晴らしもよく、阿蘇山の威容が目の前に広がる。nomaのうつわは、こんなにも逞しい土地で生まれていた。夫妻の手からなるうつわに、大地のエネルギーが宿っている。
 
nomaの髙橋さんと神尾さんは、夫妻の元へ向かう道中から話が弾んでいた。ゴールに向かって走り抜いた4人はnoma×京都を成功に導いた仲間。2日間をともにする中で、クリエイティビティに対する共通点も見えてきた。

壷田夫妻のうつわはどれもおおらかで普段の食卓にも合う。「使い勝手がよく、土の特性を生かしたものをつくっていきたい」と亜矢さん。最近では高千穂の土だけでなく、愛知・瀬戸や三重・伊賀の土をミックスしてつくっている

nomaと共通する素材を生かす創作。

蹴ろくろであっという間にうつわを完成させた和宏さん。工房は明るく四方から陽が差し込む

壷田和宏さんの作業場には3台のろくろがあった。手動、電動、足で蹴るタイプまでいずれも現役で働いている。和宏さんは仕事が早く、目の前で土を練ってから成形するまであっという間だが「かたちは土が教えてくれる」と言う。
 
壷田夫妻は、nomaからスキレットやミルクジャー、杯など5つの依頼を受けた。ミルクジャーは片口としてすでにあったものを、神尾さんのリクエストに応えてサイズを変更。「自分たちの発想にはなかった。こういう使い方もあるんだなと気づきもたくさんいただいた」と和宏さんは振り返る。ミルクピッチャーや、ソースを注ぐ杯などは高千穂の土を用いている。「高千穂の土は暴れる」と亜矢さんは話すが、それが個性となり、ここでしか生まれない陶器になるという。夫妻は、いまはさまざまな土で暮らしに寄り添ううつわづくりをしているが、移住してから10年は九州の土だけで作陶していた。それは創業当初のnomaが、コペンハーゲンの食材に絞り込んで料理をつくり、徐々に範囲を広げたストーリーと重なる。また瀬戸、伊賀で重ねたキャリアをいったんゼロにして、高千穂の自然の中で自分たちの存在をもう一度確かめたことは、nomaのコンセプトを明確にしたときのレネ・レゼピさんにも似ている。
 
ポップアップに向けて神尾さんが集めたおびただしい数のうつわを前に、「レネは『これとこれ』と一瞬で選んだ」と髙橋惇一さん。うつわの背景にあるものを感じ取ったのかもしれない。

読了ライン

移り住んでしばらくしてから手に入れた高千穂の土。ほかの土地のものより低い温度で焼成するという
月に一度火を入れる薪窯はもちろん手づくり。窯の隙間から酸素がわずかに入る影響で、nomaの求める青っぽいグレーの色を出すのに苦労したという
工房であれこれ見て回る髙橋さんと神尾さん。神尾さんは、壷田さんから2度作品の写真を送ってもらい、その後にサンプルを送ってもらった日々のことを思い出していた

 

理想のうつわを求めて、
宮崎・高千穂へ【後編】

 
≫次の記事を読む

 

《ノーマ京都のすべて》
01|世界一のレストラン《noma/ノーマ》が京都にやってきた
02|【noma×日本料理】京都の野山を味わう“八寸”から
03|【noma×日本料理】ニッポンの海と懐石料理の文化を再発見
04|みんなでひとつを生む、nomaのつくり方。
05|世界一のレストランnomaのキーマンはヘッドR&Dシェフ・髙橋惇一さん
06|nomaが惚れた、ニッポンの食材
07|【noma×日本料理】限りなく無作為な自然をいただく。
08|【noma×日本料理】文化、食材への“探求”=nomaだ
09|最高の食事とサービスを提供するノーマ京都の舞台裏を公開
10|理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ【前編】
11|理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ【後編】
12|【noma×うつわ】うつわ選びへのこだわり
13|【noma×うつわ】noma×京都の料理を彩ったうつわ作家たち

text: Mayumi Furuichi photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」

宮崎のオススメ記事

関連するテーマの人気記事