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赤木明登さんの軽やかで自由な「漆の折敷」
高橋みどりの食卓の匂い

2021.1.5
赤木明登さんの軽やかで自由な「漆の折敷」<br><small>高橋みどりの食卓の匂い</small>

スタイリストであり、いち生活者でもある高橋みどりがうつわを通して感じる「食」のこと。五感を敏感に、どんな小さな美味しさ、楽しさも逃さない毎日の食卓を、その空気感とともに伝えます。

高橋みどり
スタイリスト。1957年、群馬県生まれ、東京育ち。女子美術大学短期大学部で陶芸を学ぶ。その後テキスタイルを学び、大橋歩事務所、ケータリング活動を経てフリーに。数多くの料理本に携わる。近著に『おいしい時間』(アノニマ・スタジオ)など

日々の食事の時間を楽しみたいと思っている。20年来愛用しているこの「丸隅折敷」は、そんな時間に役立つ品である。折敷というと、ましてや漆となれば、「いえいえそんな生活はしていないので」と、真っ向から否定されがちだけれど、それは頭で考えただけのことだと思う。使ってみないと、この楽しさはわからない。

折敷は神事において供物を供える際にも用いられた盆の一種をいい、現在では茶懐石で使われている杉の盆や漆のお膳を折敷と呼ぶので格式高いものとしての知識が先に立つのだと思う。私にしても折敷をと求めたのではなく、その存在が気に入ったからこそだったので、自由に使えるのかもしれない。

もとはといえばお盆好きでもある。母からの教えは、たとえ家庭内で料理を運ぶにも手盆は行儀が悪いということ。一人暮らしをはじめる際に祝いの品をたずねられ、いの一番に“お盆”をお願いしたのはそんな思いがあったからだ。これが一人生活をする上で、お盆は“運ぶ”ための道具としてだけでなく、お茶を淹れるときの道具をセットする物として便利であること、そして美味しいお菓子を添えれば、運んだそばからお膳となり、心地いいお茶の時間となることを覚えた。そんなことをきっかけに、お盆とも折敷ともつかず、丸いもの、四角いものが手元に揃った。

その中のひとつが、この丸隅折敷。普段使いからはじまったこの折敷とのつき合いは、お茶の時間に、そして夜には欠かせないリラックスタイムのお酒の時間に活躍する。家での昼時に、簡単なかけ蕎麦ひとつも、丼に箸をしつらえるだけで満足度が高くなる。本来のフォーマルな使い方としても、お正月には大いに頼れる存在なのだ。いわゆる御節らしい料理といえば好きなものを少量だけつくる。しかしながらこの折敷にお正月にちなんだ華やかなお皿をのせるだけで、もはやおめでたい気分になるのだが、そこへ料理を盛れば“おめでとう”のかたちが出来上がる。

こんな風にさまざまに使えるのはなぜかを確認したくて、あらためて赤木さんに折敷のできる経緯をたずねてみた。きっかけは料理家の有元葉子さんが「ランチョンマットのように使える折敷が欲しい」と注文されたこと。かくして生まれたのが正方形で隅を丸くし、薄くして両面和紙貼りで仕上げたもので、置いたとき手掛かりがあるよう斜めにカットされている。塗り方は「輪島紙衣」と呼ぶ。独立当初から行っている塗り方で、補強のために木地に布着せをして、下地漆を施した後に和紙を貼り、さらに漆を重ね塗るというもの。

折敷として、上にうつわがのっても気にならないようにマットな仕上げとしたという。そういえば、私がはじめて自分のために探し求めた漆の椀は、赤木さんのこの質感の椀だった。どこか洗いざらしの木綿に通じる親しみやすさが気に入った理由でもあった。そんな質感と薄手の軽やかなつくりがこの折敷の魅力となり、いまだにたくさんの人から共感を得て、ずっとつくり続けているそうだ。まさにこの思いにはまった私だけれど、出合いに感謝し、ずっと使い続けたいと思っている。

赤木明登さんの「丸隅折敷」(価格:3万3000円、サイズ:約W320×D320×H9㎜)。木地に下地漆を施した後、和紙を貼っているので、日常に馴染む質感。直接干菓子を置いても、丼を置いても、のせるものによってさまざまに表情を変化させる。どんなシチュエーションでも活躍してくれる。

text&styling : Midori Takahashi photo : Atsushi Kondo
2021年1月号 特集「温泉と酒。」


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