TRADITION

益子焼、信楽焼…日本の焼き物図鑑【前編】
うつわの基礎知識

2020.11.30
益子焼、信楽焼…日本の焼き物図鑑【前編】<br><small>うつわの基礎知識</small>

日本各地で愛されるその地域特有の焼物。その一つひとつに個性があり、知れば知るほどその魅力に引き込まれていきます。ここでは、代表的な焼物を図鑑形式で前後編記事にてご紹介します。

 

《こちらの記事も合わせてご覧ください》
11/6発売 Discover Japan最新号「うつわ作家50」

艶やかに輝く「金結晶」がエレガント
小砂焼(こいさごやき)/栃木県

天保年間、水戸藩主徳川斉昭(なりあき)がこの地に良質な陶土を発見し、楽焼を推奨したのが起源。小砂焼といえば「金結晶」。艶やかな金色の釉薬が気品を感じさせる。現在、窯元数は数軒と少ないが、使いやすい暮らしのうつわが丁寧に焼かれている。

歴史|1830年、徳川斉昭が陶土を発見し水戸藩営窯に使用
土|地元で産出される黄土色の陶土。よく焼き締まり丈夫
技法|陶器を主とするが、磁器や半磁器もつくられる
釉薬|金色を帯びた黄色の金結晶や桃色がかった辰砂釉など

洗練とモダンが百花繚乱に花開く
笠間焼(かさまやき)/茨城県

関東最古の窯場。「特徴がないのが特徴」といわれてきたが、古くから門戸を開いていたこともあり、国内外の多彩な才能が集まりモダンなスタイルを開花。練り上げ手を極めた松井康成もその一人で、都会的センスと芸術性の高さが特徴ともいえる。

歴史|江戸・安永年間、久野半右衛門が築窯
土|粒子が細かく粘性の強い笠間粘土。県外粘土も併用
技法|伝統的な「紐づくり」のほか県外土の併用で成形も多様
釉薬|白釉、青釉、柿釉などでの重ね描きも伝統。現在は多彩
人間国宝|松井康成(1927〜2003)

絢爛たる色絵に見る九谷の美意識
九谷焼(くたにやき)/石川県

九谷焼の本質は絵付け。その起源にこそ謎が多いが、日本の油絵とも称される古九谷の系譜が確かに流れる。古九谷は五彩手と青手に大別され、五彩手は窓絵と幾何学文様、青手は緑と黄の釉彩で全体を塗りつぶすのが特徴。濃く深い色彩にモダンさも漂う。

歴史|江戸後期、京焼陶工を招き古九谷を手本に焼いた
土|地元産花坂陶石。鉄分が多く焼成後はやや青みがかる
技法|素地と上絵は分業が伝統だが、近年は一貫製作も
釉薬|緑、黄、紫、紺青、赤の九谷五彩を使う五彩手など
人間国宝|吉田美統(1932〜)、三代徳田八十吉(1933〜2009)

健やかな暮らしが育んだ質朴な美
益子焼(ましこやき)/栃木県

濱田庄司の作品に代表される、土の温もりのあるたっぷりとした厚手のうつわ。土の性質から細かい細工に向かず、黒っぽい地肌をカバーするために柿釉や白土で化粧したことがそのまま特徴に。モダンな作家は作風も多様で、民藝だけでは語れない魅力も。

歴史|江戸末期に笠間焼で修業した大塚啓三郎が窯を開いた
土|粗めの新福寺粘土など。鉄分が多く地肌は黒みがかる
技法|厚手のつくりに、刷毛目や櫛目などの素朴な装飾が基本
釉薬|柿釉や黒釉、黒っぽい地肌をカバーする糠白釉など
人間国宝|濱田庄司(1894〜1978)、島岡達三(1919〜2007)

素朴なフォルムに自然釉の美が宿る
越前焼(えちぜんやき)/福井県

平安末期に興った六古窯のひとつで、北陸地方最大の窯業地。伝統の焼き締め陶器が主で、豪快に流れ落ちる自然釉の美しさが魅力。火もらい甕は、江戸の頃に隣家から火を借りる際に使われた素朴な民具。ユニークなフォルムが現代の生活にも合いそうだ。

歴史|平安末期にはじまり北前船で全国へ。戦後復興された
土|地元の田の底の「青ねば」、「赤べと」などを混ぜた陶土
技法|底土の上に棒状の粘土紐を重ねる「ねじ立て」が特徴
釉薬|焼き締めによる自然釉を中心に、灰釉、鉄釉なども

独自の世界観を貫く革新的産地
美濃焼(みのやき)/岐阜県

種類や作風が多岐にわたる美濃焼。伝統的工芸品指定は15種もあり、瀬戸黒・黄瀬戸・志野・織部の4種が代表。中でも古田織部の指導で創始された織部焼は多様で、緑釉(織部釉)など釉薬の使い方によって「総織部」や「青織部」、「織部黒」など多彩。

歴史|平安、室町の古瀬戸を経て桃山に茶陶の産地に
土|もぐさ土、美濃陶土などを配合。磁器は砂婆などを調合
技法|掻き落とし、線彫り、透かし彫りなど装飾技法が多様
釉薬|志野焼の白さは長石釉。施釉、焼成の仕方で表情が変化
人間国宝|荒川豊藏(1894〜1985)、加藤卓男(1917〜2005)、鈴木藏(1934〜)

激しい炎の洗礼を受けた破格の美
伊賀焼(いがやき)/三重県

「伊賀の七度焼き」と呼ばれる激しい炎により黒褐色の焦げ肌や深緑のビードロ釉など多彩な変化が表れ、ゆがみやひび割れも。茶道ではそれも個性とされ、桃山の古伊賀の茶陶は個性的な造形美の傑作が多い。近代以降は土鍋が全国に知られている。

歴史|遠州伊賀までを古伊賀、施釉陶器を再興伊賀と呼ぶ
土|木節粘土、蛙目粘土など三郷山系の土を使用
技法|高温で数日かけて焼成する。へら目など装飾は大胆
釉薬|無釉のビードロ釉、施釉陶器は灰釉、青銅釉などが主

代名詞は朱泥(しゅでい)の急須
常滑焼(とこなめやき)/愛知県

六古窯の中でも最古の常滑焼。古くから実用的な大型製品に注力し続け、お馴染みの朱泥の急須の歴史は比較的新しい。江戸後期に朱泥焼が開発され、明治に中国の急須の製法が伝わり今日の朱泥急須の基礎に。以降、初代山田常山などの名工も輩出。

歴史|はじまりは平安末期。朱泥焼は江戸末期から登場
土|鉄分を多く含み、粒子が細かく粘り気がある陶土
技法|ろくろ成形、押型成形、手びねり成形の3つが主
釉薬|無釉の焼き締めが定着。近年は施釉作品も
人間国宝|三代山田常山(1924〜2005)

伝統の技を秘めた急須と土鍋
萬古焼(ばんこやき)/三重県

陶祖・沼波弄山が、自分の作品が永遠に伝わることを願い、「萬古不易」の印を押したことに由来。耐火性に優れる土鍋と、紫泥(しでい)急須が有名だ。イラストは萬古焼の名手、伝統工芸士の舘正規作がモチーフ。使い込むほどに味わいを増すのも魅力。

歴史|江戸中期、桑名の豪商・沼波弄山が創始。幕末に再興
土|急須は赤土粘土を還元焼成。土鍋は耐火性の土を開発
技法|ろくろ、手びねり、押型で成形。装飾は透かし紋、びりなど
釉薬|石灰釉が主。土鍋はマット釉、紫泥急須は無釉

時代の荒波を超えたセトモノの郷
瀬戸焼(せとやき)/愛知県

六古窯のひとつで、施釉陶器の先駆けでもある。江戸末期、有田に習った技法で磁器が焼かれはじめると、陶器をしのぐ勢いに。常に時代のニーズに応え、焼物の見本市といえるほど多様なうつわが並ぶ。いま、そこから脱却し底力を見せるときが来ている。

歴史|施釉陶器は鎌倉期から。江戸、加藤民吉が磁器を広める
土|瀬戸産の本山木節粘土や赤津がいろ目粘土など
技法|へら彫り、印花など12の伝統的な装飾技法がある
釉薬|灰釉、鉄釉、古瀬戸釉、御深井釉など全7釉薬が伝統

炎が生んだ茶人好みの侘びた風情
信楽焼(しがらきやき)/滋賀県

タヌキの置物を連想されがちだが、信楽焼の神髄は穴窯の強い炎が生み出す焼き締めの妙。桃山期には茶陶として一世を風靡した。他産地からこの地の土を取り寄せる作家が多いほど上質な土と穴窯の魅力に惹かれ、新たな可能性を探る若い作家も増えている。

歴史|奈良期にはじまり鎌倉以降本格化。施釉陶器は元禄以降
土|良質な粘土が豊富。黒い木節粘土と白い蛙目粘土が主
技法|古信楽の大壺などは紐づくり+ろくろ。模様づけも素朴
釉薬|焼き締めで自然釉を現出。釉かけの場合は灰釉が多い

 

有田焼、丹波焼、萩焼…日本の焼き物図鑑
 

≫後編を読む
 
 
 
edit: Miyo Yoshinaga illustration: Tomoyuki Aida
Discover Japan 2020年12月 特集「うつわ作家50」


≫一生モノの 答えを求めて伊賀焼の里「圡楽窯」 へ。

≫土から生まれた“うつわ”を人々の生活の中に届ける「八田亨のうつわ」

≫「うつわ祥見」が選ぶ注目作家・小野象平

RECOMMEND

READ MORE