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世界一のレストランのキーマン!
髙橋惇一さんから見たnomaとは?
ノーマ京都のすべて⑤

2023.8.8
世界一のレストランのキーマン!<br>髙橋惇一さんから見たnomaとは?<br><small>ノーマ京都のすべて⑤</small>

ワールドベスト50で、5度の1位に輝き殿堂入り、そしてミシュラン三つ星にも輝く、世界一のレストランnoma(ノーマ)がこの春、京都でポップアップを開催。このニュースにどれだけ多くの人が沸き立った。デンマーク・コペンハーゲンに拠点を置く世界屈指のクリエイティブ集団のキーマンは、実は1人の日本人シェフだった。

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髙橋惇一(たかはし・じゅんいち)
nomaのヘッドR&Dシェフ。料理専門学校を卒業後、東京のフランス料理店「ヌキテパ」、「ラ・レプブリック」、「カラペティ・バトゥバ」で修業。普段はnomaのテストキッチンで新たな料理を研究・開発。京都のポップアップではヘッドR&Dシェフを務めた

髙橋惇一は、
なぜnomaのヘッドR&Dシェフになれたのか?

「100点以外に答えはないんです」

nomaのクリエイションのキーマンとして、唯一の日本人ヘッドR&Dシェフを務める髙橋さん。その歩みをたどりながら、nomaが世界一になれた理由を語ってもらった。
 
——nomaとの出合いは?
髙橋 当時働いていた東京のフレンチ店にnomaの料理本があったんです。今まで見てきた料理は、見た目で味の想像がつくことが多かったのですが、nomaの料理は味が想像できなくて、衝動的に現地で食べてみたいと思いコペンハーゲンへ行きました。2011年のことです。
 
——実際、食べてみてどんな感想をもちましたか。
髙橋 ひと皿目から頭をガツンとやられました。サービスも料理も素晴らしく、あまりに興奮して途中からは記憶がないほどです。覚えているのはその足ですぐに履歴書を出したこと。でもnomaはそのときすでに世界中から志願者が来るほど有名で、研修生枠に空きもなく、その時の自分は英語も話せなかった。願うような気持ちで半年待っていたところにチャンスが訪れました。
 
——現地へ渡ってからは、どのような日々でしたか。
髙橋 まずは3カ月の研修期間がありました。日本でシェフとして11年の経験があったので、料理の技術面で困ることはありませんでしたが、やはり言葉の問題がありました。それが原因で技術的にできることでも任せてもらえない。そんなもどかしい思いのままでは帰れないので、研修を3カ月延長しました。その中で周囲を細かく観察し、流れを把握し、次に何をするかを予測して先回りして行動していました。

——半年の研修を経て、一年に数名しか採用されないスタッフとして働かれるようになりました。
髙橋 言葉の問題もあり、研修後もここで働きたいと言えずにいたのですが、研修の最終日にあるサタデーナイトプロジェクトでは、自分の料理をレネやシェフに食べてほしいと思っていました。このプロジェクトは、立場関係なく、すべての料理人が新しく考案した料理を発表できる場。nomaで学んだクリエイティビティを発揮できるんです。何をつくってもいいので、はじめてnomaに来た日本人として、日本らしさを意識しました。そのときつくったのは、ウニに出汁でつくった薄いゼリー状のシートを乗せ、甘みを加えたニンジンのピューレを添えたもの。半年前の僕にはつくれなかった、nomaに来たからできた料理です。レネに試食してもらったら「これつくったの? すごいね」と褒めてくれました。嘘やお世辞がない人なのでうれしかった。その日の夜にヘッドシェフから「よかったからここで働かないかと、レネが言っているよ」と言われ、とどまることに決めました。いま振り返ると、言われた通りやるのではなく、常によりよくして出そうと心掛けていた姿勢やスピードを意識していたことも評価されたのかもしれません。

——働き出して感じたことは?
髙橋 感じたことはたくさんあるのですが、一番は楽しんでいいんだということです。もちろん、仕事は厳しいですし、緊張感は大切ですが、窮屈な感じはない。nomaに来て、楽しく働くこととクオリティの高い仕事は反比例しないことに気づかされました。

——nomaが世界一になった理由はどこにあると思いますか。
髙橋 レネの考えをキッチンからサービスまで皆が共有して、チームが一体となってnomaの世界観をつくることに一切の妥協がないことだと思います。お客さんに気づいて頂けたことが5つあるとすると、その他の気づいてもらえないかもしれない部分でも、100も、200も、僕たちは考えてなぜそうしたのか理由を持っています。もちろん要となる味へのジャッジも甘くありません。今回、僕は八寸などを担当しましたが、95点の味は出せても100点までの、あと5点が埋められない。レネに試食してもらうと「十分美味しい。でも、もっとできる」となかなかOKがもらえませんでした。苦労して、95点まで創り上げたメニューを0に戻すときもありますし、それはとても勇気のいる判断です。でも、美味しいのは当たり前、nomaの料理はそれを超えなければいけないんです。それは今回に限ったことではなく、何度もつくって時には失敗もして、毎日その繰り返しです。
 
——髙橋さんに憧れてnomaの門をたたく日本人も出てきました。今後の目標はありますか。
髙橋 後輩たちに、可能性を示していくことです。そのためには、技術のレベルは上がっても、初心を忘れず、“今”に集中して、目の前の小さなことをひたむきにやっていくことは変わりません。その道の先に自分の想像を超えるような景色が広がっていることを僕は経験しました。僕が不器用なだけかもしれませんが(笑)、目の前の小さなことを丁寧に続けることが遠くへいく唯一の道だと思っています。そのことを後進にも伝えていきたいです。

読了ライン

<髙橋惇一から見たnomaとは?>
・創造性を育む環境がある。
・クオリティの追求に妥協がない。
・楽しさとクオリティが反比例しない。
・チーム全員でnoma。

 

nomaが惚れた、ニッポンの食材
 
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《ノーマ京都のすべて》
01|世界一のレストラン《noma/ノーマ》が京都にやってきた
02|【noma×日本料理】京都の野山を味わう“八寸”から
03|【noma×日本料理】ニッポンの海と懐石料理の文化を再発見
04|みんなでひとつを生む、nomaのつくり方。
05|世界一のレストランnomaのキーマンはヘッドR&Dシェフ・髙橋惇一さん
06|nomaが惚れた、ニッポンの食材
07|【noma×日本料理】限りなく無作為な自然をいただく。
08|【noma×日本料理】文化、食材への“探求”=nomaだ
09|最高の食事とサービスを提供するノーマ京都の舞台裏を公開
10|理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ【前編】
11|理想のうつわを求めて、宮崎・高千穂へ【後編】
12|【noma×うつわ】うつわ選びへのこだわり
13|【noma×うつわ】noma×京都の料理を彩ったうつわ作家たち

text: Mayumi Furuichi photo: Maiko Fukui
Discover Japan 2023年7月号「感性を刺激するホテル/ローカルが愛する沖縄」

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