ななつ星in九州が愛され続ける理由とは?
上質な九州のストーリーを体感する列車の旅|前編
日本で豪華クルーズトレインの先駆けとなった「ななつ星in九州」。「人生を変える夢の列車」と称賛されて早くも10年がたつ。その人気は高まるばかりで、かなりの倍率になる抽選で当選してはじめて乗車がかなう。それほど多くの人に愛され、時を経ても色褪せない理由がどこにあるのか紐解いた。
九州の知られざる魅力に出合う旅へ
世界で唯一の贅を尽くした車両が九州7県をめぐる「ななつ星in九州」。客室はすべてスイートルーム。内装は、車両ごとにカリン、ナシ、クルミなど異なる木材が用いられており、それぞれ雰囲気が変わる。壁や照明に福岡の伝統工芸・大川組子が大胆に使われ、洗面鉢は有田の名窯「十四代柿右衛門窯」。白磁のうつわは有田「清六窯」、菓子入れは博多曲物で知られる「柴田徳商店」と九州の匠たちの技が光る。すべてななつ星のためのオリジナルで仕上げたものだ。1号車には十四代柿右衛門の遺作となった作品も飾られ、さながら「走る美術館」である。
2022年秋、ななつ星は大幅にリニューアルした。当初から変わらない1号車はパノラマの車窓と食事を愉しむラウンジカー。2号車は乗客同士の交流を深めるサロンカーに生まれ変わり、茶室もより本格的な空間に。続く3号車にはショップとわずか4席の隠れ家的なバーが新設。乗車定員はこれまでの14室30名から10室20名に。乗車予約待ちの人たちのために客室を増やしてもよさそうなものだが、3分の2に減らしてまでバーや茶室を設けたのは、さらにゆとりがある特別な旅を愉しんでもらいたいから。お客さまファーストの妥協のない姿勢の現れだ。
車窓と上質な空間を愉しみ
心温まるおもてなしに安らぐ
ななつ星の旅は、1泊2日のコースと3泊4日のコースがある。どちらも博多駅を出発し、九州各地のストーリーと絶景をつないでいく。
3月より運行を開始する3泊4日霧島コースでは、初日は300年の歴史がある小鹿田焼の里散策や、日田下駄の製作を体験。2日目は肥薩おれんじ鉄道に入って二つの海(東シナ海と八代海)を望む。その先で待つのは錦江湾に浮かぶ桜島だ。夜は列車を離れて九州屈指の宿へ。3日目は霧島連山の雄大な景色が広がる吉都線を走る。最終日は城下町竹田と阿蘇の風景を満喫。まさに九州の伝統文化やダイナミックな自然をダイジェストで楽しめる。
「目の前で噴煙を上げる活火山があり、穏やかな海があり、400年続く伝統工芸や極上のお茶、美味しい食がある。これだけ恵まれた土地が他にあるでしょうか? ここは世界の九州なんです」とは、ななつ星のスタート時から共に歩んできた「天空の森」主人、田島建夫さん。列車は、その世界に誇る大地をゆっくりと走る。風景や時間の移ろいを感じながら、あるいはそれぞれの人生を重ねながら。
ななつ星が後続のクルーズトレインと一線を画すのは、もてなしの質の高さにもある。車両の清掃は行き届き、さりげなく季節の花が生けてある。ラウンジカーでは、その時々のムードに合うピアノの生演奏がある。茶室では訓練を重ねたクルーが「ななつ星流」の点前で美味しいお茶を点ててくれる。何気なく使っている茶杓は、古民家の囲炉裏の上にあった煤けた竹を譲り受け、こしらえたものだとか。聞けば「100年を超えて物語が続きますように」と願いを込めてとのこと。そんな会話からもゲストが大切にされていることを知る。
クルーたちの笑顔も道中の癒しのもと。彼らは何カ月にも及ぶ訓練を受けており、所作の一つひとつが清々しい。加えてゲストの好みや苦手なことをわきまえているため、つかず離れず、かゆいところに手が届く絶妙なもてなしができる。長い旅が終わる頃、クルーとゲストは互いに気心の知れた親戚のように思えるとか。ななつ星はリピーターが多い理由がよくわかる。
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text: Yukie Masumoto photo: Shinsuke Matsukawa
Discover Japan 2024年4月号「日本再発見の旅」