なぜ土用には鰻を食べる?
「土用の丑の日」基礎知識
鰻(うなぎ)はステーキと並び、元気が出るごちそうとして愛されています。「土用には鰻を食べよう!」と誘う張り紙が、飲食店やスーパーマーケットの食材コーナーに出てくると、いよいよ暑さも本番という気がします。しかし土用は鰻を食べる記念日ではありません。ではなぜ土用の、それも丑の日に鰻を食べるという風習が生まれたのか。まずは土用って何?というところから紐解いていきましょう。
土用は年に4回ある?!
土用のもとは中国の陰陽五行説にあり、五行(木火土金水)のうち春は木、夏は火、秋は金、冬は水で、それぞれの季節の終わりの18日あまりを土とする。この期間が土用であり年に4回あるが、夏の終わりの土用だけがいろいろと行事を行う期間として注目されてきた。夏の暑さで疲れた体は病気を呼び込みやすく、それを避けるために、さまざまなお払いの行事が行われるのだ。
丑の日の「丑」は十二支の丑で、旧暦では十干と十二支を組み合わせた干支が、一年365日に当てはめられている。土用の丑の日は、土用の期間中の丑の日を指し、年によっては二度あることもあるが、基本的に土用の丑の日と言えば夏の終わりの土用の、最初の丑の日を指す。
夏の食養生を勧める行事
夏は暑さにやられて食が細くなる。そこでこういう時期にこそ、ちゃんと食べて体を元気にすべしという先人の教えが、土用に特定の食べ物を勧めるという形になった。現代人は土用の丑の日と言えば鰻一本やりだが、丑の日にちなみ「う」のつく食べ物を食べるというのが、もともとの風習だ。例えば梅干し(酸味が食欲をそそり、腹具合が悪いのを治してくれると信じられていた)や瓜(水分を多く含み、漢方では体の熱をとる食材とされている)なども、土用の丑の日に食べるとよいとされている。また滋養によいとされる蜆も、この時期は土用蜆と呼ばれるなど、土用は食養生と強く結びついている。
丑の日の鰻は腐らない?
さて、いよいよ鰻の話だが、鰻は縄文時代の遺跡からも食べられていた痕跡が見つかるなど、かなり古くから日本人の食卓に上がっていた食材だ。万葉集にも吉田石磨というやせ細った友人をからかって、大伴家持が「石麻呂に吾物申す夏痩せに吉しと云うものぞむなぎ(※鰻)取り食せ」と詠んでおり、当時すでに鰻は精のつく食べ物として広く認知されていたことがわかる。
土用の丑の日に鰻を食べる風習がいつから始まったかは諸説ある。有名なのは、エレキテルの発明者でアイディアマンの平賀源内が、知り合いの鰻屋に宣伝を頼まれ「今日は丑」と大書きした紙を店頭に貼ったところ、「なんだ、どういう意味だ?」と江戸っ子の注目を集め店は大繁盛。ここから丑の日は鰻となったという説だが、平賀源内と同じく面白いことを思いつくので有名な太田蜀山人が鰻好きで、土用に鰻を食べるのを流行らせたという説もあり、どちらがどうとも判然としない。
もっと驚きの説は「実験の結果、土用の丑の日に焼いた鰻は暑さに強いとわかったから」というもの。神田和泉町にある鰻屋、春木屋善兵衛に、あるお屋敷から大量の鰻のかば焼きの注文が入った。とても一日で焼ける量ではないので、店では土用の子の日、丑の日、寅の日と三日がかりで鰻を焼いて、それぞれ甕におさめて床下で保存しておいた。そして鰻をお屋敷におさめる日に甕を開けてみると、丑の日に焼いたものだけが悪くなっていなかった。そこで丑の日に焼いた鰻は暑さに強いという話が広まり、土用の丑の日に鰻を食べるのが流行ったという。
ちなみに鰻はもともと串にさして丸のまま焼いて食べる、ぶつ切りにして煮るといった食べ方をされており、身を割いて串にさして焼き、たれをつけるかば焼きはそのあとに出てきた。丸のままやぶつ切りのころは安かったが、かば焼きが誕生してから値段はだんだん上がり、鰻に手が出ない人は安価な穴子や野菜のくわいなどのかば焼きで代用もしたそうだ。
土用の行事は食養生だけでなく、入浴や海水浴をする、衣類の虫干しをする、薬草を摘む、お灸をすえるといった行事も、各地に伝わっています。いずれも身を清めて魔(病)を遠ざける、暑さで衰えた体をいたわるといった意味が込められています。空調設備の整った現代でも、やはりこの時期に滋養のあるものを食べて体調を整えておくのはよいこと。今年は、お取り寄せやテイクアウトなどで、ちょっといい鰻を楽しんでみてはいかが?
「土用の丑の日」におすすめ!
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ライタープロフィール
湊屋一子(みなとや・いちこ)
大概カイケツ Bricoleur。あえて専門を持たず、ジャンルをまたいで仕事をする執筆者。趣味が高じた落語戯作者であり、江戸庶民文化には特に詳しい。「知らない」とめったに言わない、横町のご隠居的キャラクター。
参考文献=暮らしのならわし十二か月(飛鳥新社)/絵でつづるやさしい暮らし歳時記(日本文芸社)/日本の「行事」と「食」のしきたり(青春出版社)/たべもの江戸史(旺文社文庫)