京都《松前屋》の昆布
|天皇や公家が愛した逸品②
都が置かれた京都には、町のそこかしこに天皇や公家が愛した食や工芸品が伝わっている。御所の風情を感じられる逸品を手に入れて、宮中の文化の一端に触れてみよう。
今回はかつて干菓子として京都御所へ納め、6年の歳月をかけてつくられる「松前屋(まつまえや)」の昆布をご紹介する。
飴色の店内の随所に
御用所の歴史が漂う
昆布と聞くと多くの人は贈答品や和食の出汁のイメージを抱くかもしれないが、実は遠く南北朝時代の南朝では、北海道から敦賀を経て吉野に入った昆布が輸出の要となり、朝廷の経済を支えるまでになっていた。
貴重な食材の扱いを任されたのは、小嶋文右衛門(こじまぶんえもん)。松前屋の先祖である。朝廷の信頼を得ていた文右衛門が天子を支えるのは自然の流れだったのか、南朝がついえた後、文右衛門は京へ上がり、天皇家のために尽力している。
創業は1392年までさかのぼる。屋号は後亀山天皇から賜り、京へ上がってからは「さまざまな品を御所に納めていたようですが、かつて昆布を扱っていたことから、御所で調理係のようなこともしていました」と33代目の小嶋浩久さんは話す。
天皇と深いかかわりをもってきた松前屋だったが、東京奠都(てんと)の際には京に残ることを選択。これを機にそれまでやってこなかった一般向けの昆布の販売をはじめた。
1875年に売り出した「比呂女(ひろめ)」は、もともと京都御所に納めていた短冊形の細工昆布菓子。材料は道南の真昆布を使用している。
製法はそれまでと同じで、やや甘みのある幅広の真昆布をまず5年間蔵で寝かせ、酢で味つけてからさらに1年寝かせている。いい具合に粉を吹き、昆布本来の旨みが広がりつつもほどよい塩味のある「比呂女」は、日常のおやつとしての出番も十分あり。
丁寧につくられた宮中ゆかりの昆布を、気軽に口にできるのが何ともうれしい。「比呂女」は発売当初のパッケージに描いた「文遣い」を用いた、たとう紙タイプのものから壺入り、竹筒入りと多彩な商品を用意。
専門店ならではの品揃えには目を見張るものがあり、じっくり炊いた昆布を細かく刻んだ「御所の華」はお茶漬けのお供に。何を押してでも手に入れたいのは10月から3月の限定品「きうひ昆布」。なめらかな舌触りと上品な風味から「昆布の生菓子」といわれ、一度食べたら忘れられない味に、天皇家に長く仕えた技が凝縮されている。
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松前屋
住所|京都市中京区釜座通丸太町南入
Tel|075-231-4233
営業時間|10:00~17:30
定休日|日曜、祝日
Instagram|@matsumaeya_kyoto
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text: Mayumi Furuichi photo: Mariko Taya
Discover Japan 2024年11月号「京都」