海に浮かぶかのように建つ
広島《嚴島神社》
建築×自然でめぐる神宿る島・宮島【前編】
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広島にある日本三景のひとつ「安芸の宮島」。G7広島サミットの際、各国首脳が訪れたことであらためて注目されたここは、古来「神を斎き奉る島」として、篤く信仰されてきた聖地である。
大鳥居と洗練された寝殿造の社殿が、海に浮かぶかのように建つ「嚴島神社」。誰もが魅了される神秘的な姿だがそもそも、なぜ海の中に建てられたのだろう。
宮島のシンボル・嚴島神社は
なぜ海の中にあるのか
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さざ波が静かに寄せる、瀬戸内の海。穏やかな水面に浮かぶかのように建つ、広島県・宮島の「嚴島神社」。潮はおよそ6時間で満ち干きし、社殿から北西約160mの位置に立つシンボル・大鳥居までは、時間帯や潮の大きさによって歩いて向かうこともできる。
神社の創建は、飛鳥時代の593(推古天皇元)年。地元の豪族・佐伯鞍職が、神鴉の導きに従って、潮の満ち干きする現在地に社殿を築いたとされ、やがて島そのものが崇敬の対象として知られるようになる。
平安時代に日宋貿易の航路として瀬戸内海を活用していた安芸守・平清盛も厳島を篤く信仰し、現在の社殿の礎を築く。当時、都では回廊を備えた壮麗な寝殿造とその前に池を配し、船を浮かべて遊ぶという様式が流行。それを清盛は厳島に持ち込み、海を池に代え社殿を築いた。清盛が当地に持ち込んだ管絃の遊びは、嚴島神社の神事「管絃祭」として現代に残る。さらに後年、厳島の戦いで勝利した武将・毛利元就は、神の島を戦場にしたことを悔いて大鳥居を再興、社殿も整備した。
社殿が海中に築かれたのは、一説によると、神の住まう島の土地を少しでも汚さないため。かつては神職すら島内に住まなかった理由も、島自体が神と考えられたからだ。類を見ない立地が選ばれた社殿は、波にさらされても水を逃す仕組みなどを備え、たおやかに佇む。市杵島姫命、田心姫命、湍津姫命の三柱の女神を祀る本殿は、少し高地に配され、幾度もの台風に遭っても、いまだ海に沈んだことはないという。海と共存するための工夫が随所に見られる、まれなる世界遺産である。
読了ライン
潮の満ち干きに合わせて1日2回訪れたい
社殿
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遠浅の海域から少し高めの地に置かれ、台風被害などから守られる配置。側面から見ると石垣が築かれだんだん高くなっている
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柱の上下で色が異なるのは、海に浸かり腐った根元を切って取り替える「根継(ねつぎ)」の跡。海上建築ならではの維持の工夫だ
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回廊から本社前に広がる平舞台。板張りの床は柱に打ち付けられず、大波がきた場合に波の力を弱めて本社を守る役割を果たすという
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総延長は約275m。大潮時などは冠水するが、床板が外れるのを防ぐため隙間が設けられている。水の出入りで水圧をゆるめる仕組み
1|海に浮かぶかのように建つ広島《嚴島神社》前編
2|海に浮かぶかのように建つ広島《嚴島神社》後編
3|歩くたびご利益に出合う、空海ゆかりの聖地《弥山》
4|建築家・坂 茂が手掛けた自然を取り込む宿《Simose Art Garden Villa》前編
5|建築家・坂 茂が手掛けた自然を取り込む宿《Simose Art Garden Villa》後編
text: Kaori Nagano(Arika Inc.) photo: Yuta Togo
Discover Japan 2023年8月号「夏の聖地めぐり。」