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千葉・木更津《地中図書館》
中村拓志設計の大地に潜り込む没入型図書館

2023.5.18
千葉・木更津《地中図書館》<br>中村拓志設計の大地に潜り込む没入型図書館

千葉県木更津市の「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」内に誕生した、建築家・中村拓志氏の設計による新施設「地中図書館」。2023年2月にオープンしたばかりの同施設では、土の中に潜り込んで本を読み、知を蓄え、想像力を養えられる。ここではどんな体験が待ち受けているのか、ひも解いていこう。

クルックフィールズとは?

東京からアクアラインで約1時間半。 東京湾に面した千葉県房総半島の玄関口、木更津市の山間にある「クルックフィールズ」。30ヘクタール、東京ドーム約6個分という広大な敷地には、循環型のオーガニックファームや、 動物たちがのびのびと暮らす酪農場、そしてそれらを味わうためのレストランやカフェ、ショップや宿泊施設が点在している。

ここでは採れたての野菜やパン、チーズなどの買い物、レストランで食事ができるほか、自然やアートに触れるさまざまなフィールドツアーやイベント、宿泊施設を通じて、人間本来の生きる喜びや、いのちのてざわり、そして持続可能な社会を実現していくためのヒントを共有できる。

ひっそりと洞窟のような空間で、
自然の叡智を堪能する

2023年2月、クルックフィールズに新たな施設「地中図書館」が誕生した。NAP 建築設計事務所・中村拓志氏の設計による建築も魅力的なこの場所は、その名の通り土の下に、ひっそりと隠されたように存在する。すり鉢状の特徴的なかたちをした土地の中腹にあり、大地にそびえ立つのではなく、洞窟のように地中に横たわる空間。訪れた人たちは、広大なクルックフィールズをさまよう中で、突如入口を⾒つけて大地の中へと潜り込んでいき、思いがけない空間と本に出会うことになる。

オープン時は約3000冊の本を所蔵し、自然や農的な暮らしに関するものを中心に、詩・哲学・歴史・宗教・科学・経済にも独自の広がりやつながりが感じられる選書となっている。企画・選書は選書家の川上洋平氏。
本棚の間を抜けると天井から自然の光が差し込むホールが出現。クルックフィールズ内の宿泊施設「cocoon」、「TINY HOUSE VILLAGE」の宿泊者は閉館後の17時以降も、やさしい明かりがこぼれる幻想的な地中図書館で夜の特別な時間が過ごせる。

⼟の中の微⽣物を栄養にして植物や野菜が成⻑をするように、⼈々が地中に潜り込んで本を読み、知を蓄え、想像する⼒を養い、再び⼤地を踏み締め未来へと進む……。
「地中図書館」は、⾃然の叡智を学びながら想像⼒豊かに未来へと歩を進める⼈々を支える唯一無二の場所だ。

本棚の間を抜けた先にあるホールの天井からは、自然光が差し込む

図書館の建築美に包まれながら、地球を想う

右)中村拓志(なかむらひろし)
1974年東京生まれ。1999年明治大学大学院で建築学修士を修めた後、隈研吾建築都市設計事務所を経て 2002年NAP建築設計事務所設立。自然現象や人々のふるまい、心の動きに寄りそう「微視的設計」による、「建築・自然・身体」の有機的関係の構築を信条としている。 受賞歴に日本建築学会賞、ARCASIA Awards for Architecture、JCD デザインアワード 2006, 2013, 2014 大賞ほか。

左)川上洋平(かわかみようへい)
選書家、本の魅力を深く見つめることから、人と本の出会いをつくる「book pick orchestra」代表。オリジナル商品「文庫本葉書」や ひとりひとり話を聞きながら即興で本を選ぶ「SAKE TO BOOKS」など、選書に留まらず、さまざまな場所で人が本と出会う体験をデザイン・ 企画している。近年はルクア1100でのポップアップイベント「選書屋さん」、京都岡崎蔦屋書店とのオンライン読書会「ほんとのはなし」、 高松の予約制ライブラリー「kotelo」ディレクションなど。

中村「晴れた⽇には畑を耕し、⾬の⽇には読書をする。地中図書館はそんな⼈のために構想された。平坦で乾いた敷地は、建設残⼟で埋め⽴てられた⾕の上にあった。そこで我々は、ここを緑豊かな⾕地に戻すこと、そして建築は作⼟層を占有するのではなく、植物と⼟中微⽣物達の繁栄の下に慎ましく存在すべきだと考えた。⼤地はあらゆる⽣命の源、⺟性の象徴として捉えられてきた。⾕筋の⼩さな割け⽬の奥にヴォイドを設けることで、耕す⼈の休息にふさわしい、やすらかな居場所を作りたいと考えたのである。 ⼤地の下は洞窟のような空間で、本棚が取り囲む。梁や柱といった建築的要素を排し、外周部の⼟留め壁と袖壁からRCボイドスラブを⽚持ちで跳ねだしている。内部の天井⾼は⼤地の傾斜に応じて決まるため、⼦どもの背の⾼さに合った天井の低い場所や、袖壁の間に⼩さな隠れ部屋が⽣まれた。床と壁、天井は⼟仕上げでなめらかに繋がり、スラブ⼩⼝の鉛直⾯まで植え込まれた芝がモサモサと下垂し、空間に湿り気を与えている。 これは灌⽔と保⽔のバランスを季節によって調整可能なディテールとなっている。最深部には、読み聞かせのためのホールがある。ここは、未来のために育む場をイメージした。芝の⼤地を⼤きく孕ませた⼦宮的空間には、階段状の席を本棚の襞が取り囲み、農園で働く⼈たちの蔵書や⼦どものための本が並ぶ。本棚の40mm厚の縦桟は、そのまま頭上に伸びて空間を⽀えている。細い縦桟は隣を⽀え、その縦桟はさらに隣に⽀えられることを繰り返すと、⼀周してはじめて⼤きな空間が⽀えられる。相互扶助の連鎖の先に、強い個⼈だけでは到底成し得ない社会的空間が⽴ち上がるのだ。このKURKKU FIELDSの農村的共同体を象徴する架構中央のトップライトには、⻘い空と雲に包まれた地球のような像が光を放つ。⼤地と⼈間の叡智に包まれながら、地球を想う図書館である」

読了ライン

地上を眺めながら読書をすれば没入感が楽しめる
ソファー席や小部屋もあり、気に入った空間で読書ができる
魅力あふれる建築と本に吸い込まれていく
選書は自然や農的な暮らしに関するものを中心に、詩や哲学、歴史、宗教、科学や経済と広がり、他にも画集や絵本、レシピ本なども豊富だ

地中図書館
住所|千葉県⽊更津市⽮那2503
時間|12:00~17:00
休館⽇|⽕・⽔曜(祝⽇を除く)
⼊館⽅法|事前予約制 ※KURKKU FIELDS MEMBERSHIP加⼊者のみ利⽤可能(年会費1000円/千葉県⺠500円)
⼊館料|無料(KURKKU FIELDS⼊場時に保全料300円)
蔵書数|約3000冊(オープン時)
※cocoon、TINY HOUSE VILLAGE宿泊者は17:00以降も利⽤可能
https://kurkkufields.jp/experience/library/

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