海に囲まれた日本の漁獲量【前編】
知っているようで実は知らないニッポンの魚事情
海に囲まれている島国・日本。海流の影響で世界でも有数の魚の種類を誇り、豊富で美味しい海の幸に恵まれています。そのため日本の食文化は、魚と切っても切れないつながりがあるのです。でも実は、魚のことを知っているようで、知らない人も多いのではないでしょうか。今回は、『水産白書』を担当する水産庁漁政部企画課の山本隆久さんに教えていただいた日本の魚事情を、前後編記事にてご紹介します!
気になる疑問を聞いてみた!
Q.海に囲まれた日本。やっぱりたくさん魚がいるの?
A.世界でもトップクラスの生物多様性を誇る海域です。
地球の海域は太平洋、大西洋、インド洋に大きく分けられる。そのうち、日本の周辺水域が含まれる太平洋北西部は、漁獲量が世界で最も多い海域。世界の漁獲量の約4割(2019年)を占める。中でも海に囲まれた日本は、広大な領海と排他的経済水域(EEZ)をもち、南北に長い沿岸にはたくさんの暖流・寒流が流れている。暖流と寒流がぶつかる潮目には、魚の餌となるプランクトンが大量に発生し、両海流にすむさまざまな種類の魚が多く集まることから、日本の周辺水域はとても豊か。世界127種の海生ほ乳類のうちの50種、世界約1万5000種の海水魚のうちの約3700種(うち日本固有種は約1900種)が生息しており、世界トップクラスの生物多様性を誇る。そのうち食用種は400〜500種で、沿岸域から沖合、遠洋まで、多彩な漁法でさまざまな魚種を漁獲している。魚種別では、2020年の漁獲量で見るとマイワシが70.1万tと最も多く、サバ類、ホタテガイ、カツオ、スケトウダラ、カタクチイワシ、ブリ類、マアジ、マダラ、サケ類、スルメイカと続く(農林水産省『令和2年漁業・養殖業生産統計』より)。養殖業も盛んで、ブリ類やマダイなどの魚類、カキやホタテガイなどの貝類、海苔やワカメなどの海藻類を養殖している。
また、降水量が多く、国土の7割を森林が占めている日本は、海以外の水資源が豊かなのも特長。川、湖などの内水面でも、地域ごとに特色のある漁業や養殖業を行っている。
Q.でも実は日本はもう魚大国じゃないってホント!?
A.世界的に生産量は増加中。でも日本では減っている!
食糧難が続いた戦後の日本で、魚介類は貴重なたんぱく源だったこともあり、日本の漁業・養殖業生産量は昭和後期まで徐々に増加。1984年にピークを迎えたが、その後は減少傾向が続いており、ピーク時の1282万tに対して、2020年は漁業318万t、養殖業100万tの計418万tと、約3分の1まで減っている。
一方、世界の漁業・養殖業生産量は、1960年代には約3700万tだったが、2019年には7倍以上の2億1371万tになった。そのうち漁業は過去20年ほど横ばいで推移しているが、養殖業が急激に増加している。国・地域別で見ると、漁業、養殖業ともに、中国、インドネシア、ベトナムなどのアジアの新興国をはじめとする開発途上国の生産量が増加。中でも中国は、漁業では世界の15%にあたる1417万t、養殖業では世界の57%にあたる6842万tを占めている。魚種別では、漁業はニシン・イワシ類、養殖業はコイ・フナ類が最も多い。
Q.なぜ日本の魚介類の消費量は減っているの?
A.日本人の食生活が変化していったから。消費量が減っているのは世界でも日本だけ。
日本の漁獲量が減っている長期的な要因としては、1970年代後半に世界全体で200海里水域制限の設定が進み、日本の遠洋漁業が衰退したこと、また、海洋環境が数十年間隔で周期的に変化するレジームシフトにより、日本の漁業・養殖業生産量を支えていたマイワシの漁獲量が1990年代から減少していることなどが挙げられる。加えて問題なのは、日本人が魚を食べなくなったこと。日本の食用魚介類の消費量は、2001年度の40.2㎏(1人1年あたり)をピークに減少しており、2011年度には肉類の消費量をはじめて下回った。ちなみに世界では、1人あたりの消費量は半世紀前と比べて約2倍、特に中国では約9倍、インドネシアでは約4倍に増加。日本の消費量は世界平均の2倍を上回ってはいるものの、世界の主要国・地域の中で唯一、消費量が減少している。食生活の変化に加え、食料品全体の価格が上昇する中で、魚介に対して割高感を覚える消費者が増えたことも一因。
text: Miyu Narita illustration: Yusei Nagashima 参考=水産庁『令和2年度水産白書』
Discover Japan 2022年2月号「美味しい魚の基本」