TRADITION

密教は当時最先端のライフスタイルだった?
はじめての空海と密教

2020.10.24
密教は当時最先端のライフスタイルだった?<br><small>はじめての空海と密教</small>

密教を日本に広めた僧侶として知られる空海。密教ってなに?空海はどんなことをした人?そんな人にもよくわかる《はじめての空海と密教》。第3回は空海研究の第一人者である福田亮成さん監修のもと、現代社会にも役立つ密教の考え方に迫ります。

大正大学名誉教授
福田亮成(りょうせい)さん

真言宗智山派成就院長老。大正大学名誉教授。著書に『知識ゼロからの空海入門』(幻冬舎)など、密教世界をわかりやすく伝える著書多数

空海が生涯をかけて
人々に伝えた密教とは?

弘法大師空海の説く真言密教の大きな特徴は現生利益であり、その核には「即身成仏」の思想がある。

密教では、仏教を密教と顕教に大別している。顕教が釈迦如来を本尊とし、修行を積まなければ成仏できないのに対して、密教では、すべてのものは大日如来が姿を変えたものであり、姿形が異なるだけという考え方が基本。従って、仏も人も本質的には同じであり、人がもともと備えている仏性が表れれば、現世における肉体のままでも、仏であると考える。

福田亮成さんによると、「密教とは、『本質上は仏と私はひとつである』という考えなのだという。自分の外に仏があるのではなく、すでに仏であるという前提があるとすると、現実の自分と仏とがあまりにもかけ離れていることを認めざるを得ません。それにより、自ずと仏に礼拝する行為が出てきます。自心仏に目覚め、仏と一体になった境地を実感するために、修行を積んでいくという思想です。

もし、悟りをひらくことが頂点で、この世のすべてを捨ててたどり着かねばならない境地なのであれば、自分のことを考えるだけで精一杯になってしまい、人々を救済するという意識は出てこないのではないでしょうか。そうではなく、ひとつであるはずの仏と自分に偏りを感じることで、人々のために祈ることや、どうしたら人々を救済して仏を見出すことができるか、といった方向に考えが及ぶと思うのです」。

弘法大師空海は、こういった密教と顕教、あるいは他の宗教との違いを『秘密曼荼羅十住心論(略して十住心論)』に書き記した。その中で、人間の心のありようを10段階に分けた「十住心」を説いている。これは、他宗教を排斥するものではなく、違いを明らかにしつつも、どんな宗教であれ、宗教心に目覚めることは密教の一部であると包括している。その上で、密教の教えによって最終的に大日如来、すなわち真理と一体になれると説く。

「密教は、他の宗教を否定しません。宗教だけでなく、人間の業や欲、煩悩を否定するのではなく、仏性を覆い隠しているさまざまなものの存在に気づき、日々を生きるということです。密教は裾野が広いことから、言葉の表層だけを取ると誤解されやすいところがあります。大切なのは、密教を知識として理解するだけでなく、道徳や行動の土台となる信念として持ち、自分の血肉にすることです」。(福田さん)

現代社会において、曼荼羅を前に瞑想することは難しいが、慈愛をもった言葉遣いを心掛けるなど、日常生活での意識として空海の教えをとらえることはできる。あるいはマインドフルネスに注目が集まっている現代にこそ必要な教えであるともいえるだろう。

「密教は『信じる』対象ではなく、常に自分の中にあるもの。それを確認しながら進むことで、道徳や行動の土台となるものです。日常の中で非日常を感じ、心を整える手段ともいえます。日常生活では妄想が起こり、すぐに瞑想に入ることはできません。この世には生と死があり、善と悪があります。そういった相対的な世界に生まれ、生きている。その間で悩みながら生き、その世界を超えた仏性を意識することで、相対的な束縛から自由になる。

それをつきつめていくと、奥底に光る仏の世界があります。私は、宗教とは感激であると考えています。我々は感情に左右される生き物ですが、困難があるから幸せを感じることができます。そうやって感情を知的に整理したのが宗教であり、自分の中の仏性に近づき感激を知ることが、弘法大師空海が訴えたかったものではないでしょうか」(福田さん)

密教はどこで生まれたの?

密教は6世紀頃、ヒンドゥー教の影響を受けながら仏教の流れとしてインドで成立した。中央インドで展開したものを善無畏(637〜735)が、南インドで展開したものを善無畏金剛智(671〜741)と不空(705〜774)が唐に伝えた。さらに唐で恵果阿闍梨から伝法灌頂を受けた空海が日本にもち帰り、布教した。

密教の教えって何?

私たちが本来もっている仏性がどのような流れを経て表れるかを示した空海の著作。10の段階で表されており、欲や本能にまみれた非宗教の段階から密教を信仰することで真実なる世界と一体になれる段階までが示されている。

text: Akiko Yamamoto illustration: Susumu Zenyoji
参考文献:『イラストでわかる 密教 印のすべて』(藤巻一保著・PHP研究所)、『空海辞典』(金岡秀友編・東京堂出版)、『KOYASAN Insight Guide 高野山を知る一〇八のキーワード』(高野山インサイトガイド制作委員会・講談社)、『国宝・重要文化財大全 4 彫刻(下巻)』(文化庁監修・毎日新聞社)、『仏像図典』(佐和隆研編・吉川弘文館)、『マンダラの仏たち』(頼富本宏著・東京美術)

2019年5月号 特集「はじめての空海と曼荼羅」


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《はじめての空海と密教》
1|マルチクリエイター空海の9つの顔
2|現代を生きるヒントになる! 空海の出世人生
3|密教は当時最先端のライフスタイルだった?
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