《魚カタログ》
一度は食べてみたい!深海魚①
|マダラ / アブラボウズ / キチジ / ホッコクアカエビ
豊かな魚文化が根づく日本。海水魚や淡水魚、魚以外の甲殻類や軟体類まで……。知っているようで知らない、美味しい魚について生物ライターの平坂 寛さんに教えてもらった。その中でも今回は、水深200mよりも深い海底に暮らす深海魚たち。彼らは人間の生活とは決して交わることのない遠い存在……。そんな深海魚の中には、実は食用魚も多いのだ。
平坂 寛(ひらさか ひろし)
1985年、長崎県生まれ。生き物を五感で楽しむスタイルで、生物ライター、YouTuberとしても活動。『釣って 食べて 調べる 深海魚』(福音館書店)など著書多数
《マダラ》
誰もが食す深海の重要水産資源
「深場の大衆魚」
フライに、すり身に、鍋の具材に……。さまざまなかたちで人々に親しまれているタラという魚。単にタラと呼ぶ場合、基本的に大型種のマダラを指す。産地は限られるものの大量に流通するため、多くの人がなんらかのかたちで口にする超メジャー魚だ。しかし、実は彼らが深海魚であるという事実はあまり知られていない。地域によっては産卵を迎えた春先に水深100m前後まで浮上してくることもあるが、プリプリの白子や卵を抱えた個体はなんと水深200m以深の深場から漁獲されるのだ。
マダラは、江戸時代から食べられてきた歴史ある水産物である。その当時から人々が深海の魚を捕らえては食してきたという事実には驚かされる。人々の食欲と美味なる魚への探究心は底なしだ。ところが近年、主要な産地である三陸ではマダラの水揚げが如実に減りつつある。原因のひとつは海水温の上昇とされ、漁業関係者にとって大きな悩みだ。この深海の大衆魚が食卓から遠ざかってしまうとしたら、それは由々しき事態である。
〈美味しい食べ方〉
隅々までマダラを味わい尽くす、青森の郷土料理
切り身が鍋の具材として全国的に流通するが、そこへあらとつぶした肝を溶き込む津軽の郷土料理「じゃっぱ汁」はマダラの旨みを余さず堪能できる。
〈平坂 寛のマダラのトリビア〉
「タラの刺身」を見かけないのはなぜ?
あらゆる料理に重宝されるタラ類だが、どういうわけか飲食店でも刺身を見掛ける機会は少ない。その理由、まずは彼らが体内に宿すアニサキスである。さらにタラ類をはじめとする冷水域に暮らす魚は低温でも体内の酵素が活発に働き、冷蔵していてもみるみる鮮度が落ちていく。こうした特性が生食を妨げているのだ。
《アブラボウズ》
全身が大トロ!?
「深海に生きる巨大魚」
水深1000m前後に暮らす魚で全長1.8m、体重は100㎏近くに達する。名の通り全身に脂を蓄え非常に美味だが流通量は少なく、価格はやや高価。大トロのように脂がのっているが、肉自体の味や身質はハタなど根魚に通じる。
〈美味しい食べ方〉
新鮮なものは刺身やしゃぶしゃぶなどで脂のコクを楽しみたい。西京焼きにも合う。
《キチジ(キンキ)》
北の海の宝石
「いまや高級魚!」
かつては大量に漁獲され、安価な魚だったという。しかし流通技術の発達とメディアでの紹介により、いまではアカムツに負けない高級魚となっている。北海道の一部では本種を煮たものにウスターソースをかけて食す。
〈美味しい食べ方〉
定番のメニューは煮付。干物も保存が利く上、旨みがとても強い。
《ホッコクアカエビ》
“甘エビ”の本名は……
「馴染み深いあのエビも深海性」
「甘エビ」の名で親しまれる深海性のエビ。見栄えも鮮やかで味もよい。国内でも捕れるが、カナダなどから輸入された冷凍品も多く流通する。北大西洋産の近縁種ホンホッコクアカエビも同様に「甘エビ」として流通する。
〈美味しい食べ方〉
刺身が最も本種の甘みと食感を楽しめる。頭や殻は煮込んで味噌汁にしても美味。
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監修・文=平坂 寛
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」