ART

海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
小豆島のアートが地域を元気にする

2022.9.19
海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》<br><small>小豆島のアートが地域を元気にする</small>
三宅之功『はじまりの刻』

今年で通算5回目の開催を迎える瀬戸内国際芸術祭。2010年から3年に一度開かれている、日本最大規模のアートイベントだ。人々の営みや島の風土と共鳴した作品は、ここにしかない感動を呼び起こし「海の復権」というテーマをめぐる気づきを与えてくれる。

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《小豆島》
移住者は右肩上がり!豊かな食文化を誇る

海上の要所だったことから醤油や素麺の製造技術が伝来し、固有の文化として定着した。オリーブなど青果の栽培、漁業も盛ん。のどかさと充実したインフラを兼ね備えた島でもあり、昨年の移住者は300人近くと近年増加中。

面積153.25㎢/人口2万5881人

青木野枝 空の玉/寒霞渓
直径4mの球体の見晴らし台。次第にさびて風合いを増す鉄は、金属と思えない不思議な温もりを感じさせ、周囲の自然と調和する。眺めても中に入っても楽しめる作品

会場の島々の中で、最大の面積を誇る小豆島。景観も変化に富み、作品をダイナミックに引き立てる。

島を代表する景勝地・寒霞渓にこの春誕生したのは、青木野枝さんによる『空の玉/寒霞渓』。鋼のリングを無数につなげて表現した大きな“玉”の中に入れば、空と渓谷、そして遠くに海と島々が広がる絶景。緑深い山道を10分ほど歩いたところで一気に視界が開ける、そのアプローチや展開もアートの一部。会期が終了した後も恒久作品として展示される予定で、小豆島の新たな名所となるだろう。

アーティストと地域とのコラボレーションも、瀬戸内国際芸術祭の大きな特色。台湾のワン・ウェンチーさんは初回の視察で訪れた中山地区で、千枚田の景観に魅了され、以来ずっとこの地で作品を制作している。「幼い頃から身近だった」という竹を素材にした作品は、直径約15mというスケール感。地元の人々とも、参加回数を重ねてすっかり親密に。有志が約4000本もの竹を山から伐採するという、重要な作業を担っている。「生え放題だった竹を定期的に伐採することで、メンテナンスになります。一度切った竹は、3年もあれば再生しますよ」と地区のイベント推進会会長・井口平治さん。さらに、展示終了後に解体された竹はチップに加工され、肥料として土に還る。循環やリセットへの思いを込めた『ゼロ』というタイトルにふさわしい作品といえる。夏会期に完成を迎え、千枚田の中に佇む姿が楽しみだ。

ワン・ウェンチーさんを魅了した千枚田の景観
イベント推進会会長の井口さん(左)とは、あうんの呼吸

三宅之功さんの『はじまりの刻』も夏会期からの目玉のひとつ。命をイメージした陶器の卵には、草花の種が植え付けられ、命を宿す。

ぜひ散策してみたいのが、土庄港にほど近い「迷路のまち」と呼ばれる地区。その名の通り、複雑に路地が入り組み、方向感覚が怪しくなる。だが、そこに点在するアートを探しながら歩けば、迷うのもまた楽しいもの。昔懐かしい街並みにこつぜんと現れる作品は、忘れ難い印象を与えてくれる。

最後に少し足を延ばして、島の南部に位置する三都半島へ。自然豊かな地で個性的な作品の数々が、海や山と一体となっていっそう輝く。醤油や素麺、オリーブなど、食の豊かさも魅力の小豆島。ぜひ宿泊して、アートや文化とじっくり向き合おう。

ワン・ウェンチー(王文志)『ゼロ』
直径約15mの球体の新作は、調和の精神空間がテーマ。「コロナ禍もあり、原点に戻ろうという思いを込めました」とワンさん
三宅之功『はじまりの刻』
土庄町屋形崎「屋形崎夕陽(ゆうひ)の丘」に誕生。高さ3.7m、幅2.4mの陶器でできた作品で、接合部分の土にいずれ草花が生える
迷路のまち
入り組んだ路地は、その昔、海賊や海風から暮らしを守るために意図的につくられたそう。小豆島八十八ヶ所札所・西光寺も街のシンボル
スタシス・エイドリゲヴィチウス『いっしょに』
一人の人間が、もう一人を助けている様子を表現。リトアニア/ポーランドのアーティストによる作品だが、迷路のまちにある「人」の漢字のよう
伊東敏光+広島市立大学芸術学部有志『ダイダラウルトラボウ』
ダイダラボッチ(巨人)のひと休みという伝承をイメージし、不要となった石垣の石や廃船、流木を組み合わせた。大宇宙や自然界と人間社会をつなぐアイコン的な存在

【2022秋の新作】
三宅之功『はじまりの刻』
ワン・ウェンチー『ゼロ』
シャン・ヤン『辿り着く向こう岸』
新建築社+SUNAKI『小豆島ハウスプロジェクト』
福武ハウス 「アジア・アート・プラットフォーム協同展2022『Communal Spirits/共に在る力』」
イ・スーキュン『そこにいた』
石田多朗、川村亘平斎『葺田夜祭り』

 

男木島をめぐる
 
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瀬戸内国際芸術祭2022
https://setouchi-artfest.jp/

text: Aya Honjo photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」

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