海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
小豆島のアートが地域を元気にする
今年で通算5回目の開催を迎える瀬戸内国際芸術祭。2010年から3年に一度開かれている、日本最大規模のアートイベントだ。人々の営みや島の風土と共鳴した作品は、ここにしかない感動を呼び起こし「海の復権」というテーマをめぐる気づきを与えてくれる。
《小豆島》
移住者は右肩上がり!豊かな食文化を誇る
海上の要所だったことから醤油や素麺の製造技術が伝来し、固有の文化として定着した。オリーブなど青果の栽培、漁業も盛ん。のどかさと充実したインフラを兼ね備えた島でもあり、昨年の移住者は300人近くと近年増加中。
面積153.25㎢/人口2万5881人
会場の島々の中で、最大の面積を誇る小豆島。景観も変化に富み、作品をダイナミックに引き立てる。
島を代表する景勝地・寒霞渓にこの春誕生したのは、青木野枝さんによる『空の玉/寒霞渓』。鋼のリングを無数につなげて表現した大きな“玉”の中に入れば、空と渓谷、そして遠くに海と島々が広がる絶景。緑深い山道を10分ほど歩いたところで一気に視界が開ける、そのアプローチや展開もアートの一部。会期が終了した後も恒久作品として展示される予定で、小豆島の新たな名所となるだろう。
アーティストと地域とのコラボレーションも、瀬戸内国際芸術祭の大きな特色。台湾のワン・ウェンチーさんは初回の視察で訪れた中山地区で、千枚田の景観に魅了され、以来ずっとこの地で作品を制作している。「幼い頃から身近だった」という竹を素材にした作品は、直径約15mというスケール感。地元の人々とも、参加回数を重ねてすっかり親密に。有志が約4000本もの竹を山から伐採するという、重要な作業を担っている。「生え放題だった竹を定期的に伐採することで、メンテナンスになります。一度切った竹は、3年もあれば再生しますよ」と地区のイベント推進会会長・井口平治さん。さらに、展示終了後に解体された竹はチップに加工され、肥料として土に還る。循環やリセットへの思いを込めた『ゼロ』というタイトルにふさわしい作品といえる。夏会期に完成を迎え、千枚田の中に佇む姿が楽しみだ。
三宅之功さんの『はじまりの刻』も夏会期からの目玉のひとつ。命をイメージした陶器の卵には、草花の種が植え付けられ、命を宿す。
ぜひ散策してみたいのが、土庄港にほど近い「迷路のまち」と呼ばれる地区。その名の通り、複雑に路地が入り組み、方向感覚が怪しくなる。だが、そこに点在するアートを探しながら歩けば、迷うのもまた楽しいもの。昔懐かしい街並みにこつぜんと現れる作品は、忘れ難い印象を与えてくれる。
最後に少し足を延ばして、島の南部に位置する三都半島へ。自然豊かな地で個性的な作品の数々が、海や山と一体となっていっそう輝く。醤油や素麺、オリーブなど、食の豊かさも魅力の小豆島。ぜひ宿泊して、アートや文化とじっくり向き合おう。
【2022秋の新作】
三宅之功『はじまりの刻』
ワン・ウェンチー『ゼロ』
シャン・ヤン『辿り着く向こう岸』
新建築社+SUNAKI『小豆島ハウスプロジェクト』
福武ハウス 「アジア・アート・プラットフォーム協同展2022『Communal Spirits/共に在る力』」
イ・スーキュン『そこにいた』
石田多朗、川村亘平斎『葺田夜祭り』
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瀬戸内国際芸術祭2022
https://setouchi-artfest.jp/
text: Aya Honjo photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」