海の復権《瀬戸内国際芸術祭 2022》
男木島のアートが地域を元気にする
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今年で通算5回目の開催を迎える瀬戸内国際芸術祭。2010年から3年に一度開かれている、日本最大規模のアートイベントだ。人々の営みや島の風土と共鳴した作品は、ここにしかない感動を呼び起こし「海の復権」というテーマをめぐる気づきを与えてくれる。
《男木島》
移住者増!小中学校や保育所が再開
高松市の最北に位置する。坂が多い地形ゆえ、かつては牛を育てて四国の農村に貸す「借耕牛」の習慣があった。庵治石(御影石)づくりの男木島灯台は「日本の灯台50選」。芸術祭をきっかけに移住者が増えている島でもある。
面積1.34㎢/人口132人
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芸術祭を入り口とした移住が盛んな島のひとつ、男木島。立役者となったのは、男木島出身で2014年にUターン移住した福井大和さん。2013年の芸術祭に参加したのがきっかけだった。「島の人口減少が想像以上で。移住は老後のことと思っていたけど、前倒ししないと島がなくなるという危機感がありました」。当時小学4年生だった長女の「(島に)帰ってもいいんじゃない?」という言葉に後押しされたものの、ただひとつの小中学校は2011年の卒業生を最後に休校になっていた。「再開には10年はかかる」と言われたが、「未来を担う子どもがいなければ、『海の復権』はあり得ない」と行政に猛烈にアプローチ。翌年の2014年春には小中学校が再開。福井さん一家を含む3世帯の子どもが転入学を果たした。2016年には保育所も14年ぶりに再開された。
2014年から現在までに47世帯、83人が転入。転出などもあり、全体的には微増となるそう。「島のために何かしたい、と気負って移住してくる人は、実はうまくいかないことも多い。まずは自分の暮らしのために仕事をしたほうがいいし、ライフステージに合わせて島を離れる選択肢があってもいい。ある程度入れ替わりがあることで、風通しもよくなりますから」と福井さんは話す。
「自分の手で何かつくる生活がしてみたくて」と、2016年に京都から移住を果たした「象と太陽社」の山口さん夫妻は、島で唯一のヘアサロンとバールを営む。「サロンを開く予定はなかったのですが、美容師とわかると地域の人に『髪切って』と言われるようになって。島の文化的な価値が上げられるし、ここでやる意義があるなと思いました」。この春からは、隣に建つ古民家のリビルドに着手。1年半後を目安に宿泊施設を開く計画だ。建材は極力外から持ち込まず、島内の廃材をリユース。離島の環境にかなった、サーキュラーエコノミーを実践している。
コロナ禍でテレワークが進んだことも、移住に弾みをつけた。東京で生まれ育った碓井真理子さんは、初回の芸術祭時に来島。昨年、約10年ぶりの再訪をきっかけに、この春移住に踏み切った。東京の勤務先の仕事は完全リモートで続けている。夫婦とも美術大学出身で、子どもたちを対象に自宅でアートのワークショップも手掛けている。
男木島では、活気あるコミュニティと健やかな循環が肌で感じられる。その魅力が、移住者をまた惹きつけるに違いない。
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ニューヨークの青空の下でダンスする人々を表現した「Blue and White」シリーズのパネルを、古民家に展示。あえて無音で、観る人それぞれの音楽を想像させる試み
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コロナ時代を象徴するアクリル板に、作家やワークショップの参加者が思い思いの「海の色」を彩色し、倉庫の壁面に。夏会期中にもワークショップを開催し作品は変化する
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築90年の元商家の内壁を壁画で埋め尽くしたプロジェクト(2019年)をアップデート。植物や貝や人が異なる時間軸で同居するさまを描く。床の間古材を用いた新作の展示も
【2022秋の新作】
大岩オスカール+坂 茂『男木島パビリオン』
エカテリーナ・ムロムツェワ『学校の先生』
ワン・テユ『No.105』
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つきうみバール
自家栽培の野菜やハーブなどを生かしたランチのブッダボウル1000円は事前予約がベター。畑のモヒート700円(ノンアルコール500円)は摘みたてのミントたっぷり。海を見下ろす絶景のテラスでぜひ
住所|香川県高松市男木町1896-1
※営業時間、定休日はHP(http://elephant-sun.com)参照
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ogijimaゆくる
大正12年築の古民家を活用したゲストハウス兼カフェ。おまかせランチ1500円(ドリンク付き)は、オーナーがルーツをもつ沖縄のメニューの小皿がちりばめられ、食べ応えも大満足の内容
住所|香川県高松市男木町194ー1
Tel|070-4228-8483
営業時間|11:00頃〜16:30(L.O.15:45)
定休日|不定休(HPで要確認)
https://ogijima-yukulu.com
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瀬戸内国際芸術祭2022
https://setouchi-artfest.jp/
text: Aya Honjo photo: Kenta Yoshizawa
Discover Japan 2022年9月号「ワクワクさせるミュージアム!/完全保存版ミュージアムガイド55」