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《伝教大師最澄1200年大遠忌記念》
比叡山 延暦寺“非公開”の秘密

2021.10.16
<small>《伝教大師最澄1200年大遠忌記念》</small><br>比叡山 延暦寺“非公開”の秘密
織田信長の焼き討ちで焼失し、1678年に再建された戒壇院。正式な僧侶として承認される授戒の場で、天台宗独自の戒壇院が許可されたのは、最澄が亡くなる前日だった

822(弘仁13)年に入滅後、1200回忌という気が遠くなるほどの時空を超えて執行される伝教大師最澄の大遠忌。未曾有のコロナ禍で世界が混沌に沈むいま、最澄にゆかりの深いふたつの御堂が公開されます。比叡山に秘められた唯一無二の聖域で、偉大な先達の足跡からきっと気づきが得られるはず。一度も開かれたことのない、“仏さまとの約束の場所”の先にあるものとは?


1980年に再建された法華総持院東塔。塔の上層部には、天台宗がよりどころする法華経と仏舎利(釈迦の遺骨)が納められている。参拝客による写経もこの中に安置

ユネスコの世界文化遺産に登録される天台宗の総本山・比叡山延暦寺。今年は天台宗の宗祖・伝教大師最澄の入滅後1200年の大遠忌を記念して、これまで非公開とされてきた宝塔と御堂の内部が特別に公開される。

天を衝く杉の木立と山の煙霧に包まれた法華総持院東塔。法華経の功徳をもって世の安寧を祈るため、最澄の発願で全国6カ所に建てられた宝塔のひとつだ。残念ながら関東・九州の宝塔は基礎石を残すのみだが、比叡山では織田信長の焼き討ち以来、実に400年ぶりに法華総持院東塔が再建された。

重厚な折上格天井の内部には金箔が張りめぐらされ、法華経と密教の世界観が表現されている。宇宙のすべてをつかさどる大日如来を中心に正面には胎蔵界、裏面には金剛界を仏像で表した立体的な曼荼羅だ。その両脇を法華経の教えを描いた壮麗な壁画が彩る。

世俗から離れた御仏の世界を表現した法華総持院東塔の内部。通常は非公開だが、3カ月間の特別拝観の期間のみ門戸が開かれている。法華経と密教の世界観を融合した天台宗独自の多面性を肌で感じられるだろう
法華経に登場する名場面を描いた壁画は、近代日本画の大家である広本進・諸藤英世両氏の手による。眩いばかりの豊かな色彩に圧倒される

そして、今回初公開されるのが、山上屈指の聖域とされる戒壇院。戒壇院とは一人前の僧侶となるために戒律を授かる場で、天台宗の僧侶も一生に一度しか入堂を許されない。最澄は、比叡山を拠点に天台宗を開き、天台僧育成のための戒壇設立を朝廷に上奏し、亡くなる前日に認められた。いわば戒壇院は最澄の願いが結実した場所なのだ。堂内では釈迦如来・文殊菩薩・弥勒菩薩が安置。一般公開されたことのない聖域の扉が、いま開かれる。

1200年の時を超え、最澄の想いに触れる特別拝観。コロナ禍の騒乱で迷えるいまこそ足を運ぶべきでしょう。

全国各地に建てられた祈りの宝塔
安総 近江宝塔院(比叡山東塔院/滋賀)

安中 山城宝塔院(比叡山西塔院/京都)
安東 上野宝塔院(藤岡市浄法寺/群馬)
安南 豊前宝塔院(宇佐神宮/大分)
安西 筑前宝塔院(大宰府竈門神社/福岡)
安北 下野宝塔院(大慈寺/栃木)

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text: Junko Nakao photo: Mariko Taya
Discover Japan 2021年10月号「秘密の京都?日本の新定番?」

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