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明治創業、近江茶丸吉が
滋賀県土山でほうじ茶を追求する理由とは?
ほうじ茶の知られざる世界へ

2022.1.20
明治創業、近江茶丸吉が<br>滋賀県土山でほうじ茶を追求する理由とは?<br><small>ほうじ茶の知られざる世界へ</small>
遠方に鈴鹿山脈を望むなだらかな丘陵地に広がる頓宮大茶園は、滋賀県最大級の集団茶園であり、年間約550tの茶葉を生産する土山茶の中心。葉を黒布で覆い日光を遮って育てる「かぶせ茶」も多く生産される

大手コーヒーチェーンに登場したほうじ茶フラペチーノが話題になるなど、人気が高まりつつあるほうじ茶。その魅力を「近江茶丸吉」にたずねました。今回は、二番茶や三番茶でつくる日常使いのお茶といったイメージを覆す、茶師十段が手掛けるほうじ茶を探ります。

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選定技術を駆使した、葉脈が香るほうじ茶

煎り器を使えば、自宅で気軽にほうじ茶をつくることができるのも魅力のひとつ

古くは飛鳥時代より、天皇の代わりに伊勢神宮へ仕える斎宮として皇女が都から伊勢へ下る際、宿泊所になったといわれる頓宮。いまも旧跡のほか、地名にもその名を残すのが滋賀県甲賀市土山。この土山には、頓宮大茶園と呼ばれる約90haの茶畑があり、県内随一の茶処として知られる。栽培はやぶきたが中心で、近江の茶の名で出荷される。

頓宮大茶園のほど近くに立つのが、ほうじ茶専門店「近江茶丸吉」。この店の代表・吉永健治さんは、土山で100年以上茶商を営む「マルヨシ近江茶」の7代目であり、全国にたった15人という茶師十段の一人だ。

茶師とは、茶葉の選定や合組と呼ばれる茶葉のブレンドなどを行う日本茶のプロフェッショナル。中でも、お茶の香りや見た目、味わいで品種や産地を判定する全国茶審査技術競技大会において、最高位となるのが茶師十段。

約10年前から、苦みを嫌い香りが高いお茶を好む若い人が増えたと感じた吉永さんは、ほうじ茶に特化した商品づくりを決意。もともと販売比率は、煎茶とほうじ茶が半々であった同社には、お客からの焙煎に対するさまざまな要望に応えてきたノウハウがあった。

「美味しいほうじ茶をつくるには、原料の選定と焙煎が大切。多くの茶葉から上質なものを見抜き、長年培われた焙煎技術によって仕上げています」と吉永さん。もちろん同社のほうじ茶には、茶師十段の実力に裏打ちされた“目利き力”が存分に生かされる。

実はほうじ茶には、煎茶にはない特徴がある。ひとつ目は、焙煎温度や時間など、調整できる幅が広いため、多彩な香りや味わいの仕上げが可能なこと。ふたつ目は、茶葉の一部分である葉脈の香りを取り込めること。茎から葉へ水分を運ぶ管である葉脈は、焙煎すると膨らみ香りを放つ。その結果、香りに新たな深みをもたらすのだ。

「滋賀に最澄が茶種をもたらしてから約1200年。さらに1000年先へも、滋賀がお茶の産地として継続してほしい」。滋賀の茶師十段は、ほうじ茶から日本茶の行方を見据える。

試験室で農家から納められる荒茶をブレンドし、試験用のお茶をつくる吉永さん。最盛期には1日100回ほど審査を行うことも

そもそもほうじ茶って何ですか?

Q1|ほうじ茶の定義は?何種類ある?

右)緑茶 左)ほうじ茶

A.緑茶を焙煎することで、ほうじ茶になります。葉や茎といった使う茶葉の部位の違いや、一番茶や二番茶などの品質、焙煎方法でその風味は大きく変わりますが、どれも「ほうじ茶」と総称されます。

Q2|ルーツは?いつ頃から飲まれている?

A.諸説ありますが、昭和初期に京都府山城地方の茶商が考案した説も。売れ残った大量の茶葉に困った茶商が苦肉の策で煎ってみたところ、香り高く美味しくなったため、それを販売したのがはじまりともいわれます。

Q3|番茶とほうじ茶の違いは?

A.番茶は「晩茶」とも書き、遅い時期に摘んだ茶葉からつくるお茶を指します。ほうじ茶は焙煎したお茶のことをいい、茶葉の時期は問いません。

Q4|焙煎の種類はどれくらい?

A.焙煎方法は大きく分けて、高温焙煎、低温焙煎の2種類です。低温焙煎の場合は、さらに低温で長時間焙煎と、低温で短時間焙煎の2通りがあります。これらの焙煎を茶葉の特性に合わせ行います。

Q5|使用する品種は?何番茶?

A.かつては二番茶や三番茶などを使うことが多かったほうじ茶ですが、最近では高級煎茶に用いられる一番茶の葉や茎を使ったものも登場しています。

Q6|品種によって味はどう変化する?

A.やぶきた、ゆたかみどり、べにふうきなど、70種類ほどともいわれるお茶の品種。ただほうじ茶の場合は、焙煎されることで品種の特性が出にくいといわれています。

Q7|焙煎によって膨らむの?

A.焙煎することで、茶葉に含まれるカフェインをはじめ、苦みや渋みも少ない飲みやすいお茶に仕上がります。また茶葉に水を供給する管である葉脈は煎ることで膨らみ、独特の香りを放ちます。こうして葉や茎とは異なる新たな香りが加わります。

Q8|工程を教えて。

1.仕入れ
生茶に蒸す、もむなどの加工をした荒茶を農家が納品
2.仕分け/乾燥
仕入れた荒茶を振るい分けて選別し、乾燥させる
3.ブレンド
単一品種の荒茶を茶師がブレンドする
4.冷蔵保存
約5℃に保たれた冷蔵庫で4カ月ほど寝かせる
5.焙煎
寝かせることで水分量を均一にした茶葉を焙煎する
6.パッキング
さらに約2週間寝かせ、味を落ち着かせた葉を詰める
7.出荷
購入した茶葉は、密閉容器に入れ冷暗所で保存を

近江茶丸吉
住所|滋賀県甲賀市土山町大野2723
Tel|0748-67-1333
営業時間|9:30〜18:00(ショップ)、10:00〜18:00(茶房)
定休日|火曜(茶房のみ)
www.houjicha-maruyoshi.com

 

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text:MakikoShiraki(ArikaInc.)photo:AkaneYamakita
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