滋賀県・草津市
《サカエヤ》近江牛のすき焼き肉
自宅で過ごす時間が増えた昨年から今年にかけて、美味しい贈り物は、さらに人気が増しています。年末年始にかけてのシーズンは、やはり究極に美味しく、贈った相手に食卓でそのストーリーに共感してもらえるのが理想です。日本各地に息づく貴重な食文化を伝えている「日本食文化会議」のメンバーに、この冬の一押しを語り尽くしていただきます。今回は全国の料理人垂涎の精肉店、「サカエヤ」が切り出した近江牛のすき焼き肉をご紹介します。
教えてくれたのは……
「日本食文化会議」の皆さん
料理人、茶人、菓子職人、伝承文化の継承者など食のプロフェッショナルが集い、日本の食文化を国内外に広く発信する団体。今回は魚、肉、野菜(漬物)それぞれを得意とするメンバーにご登場いただく。https://jfcf.or.jp
松浦達也(まつうら・たつや)
フードアクティビスト。ライター・編集者。調理の仕組みや科学、食文化史などを踏まえ、料理誌・一般誌・新聞・ウェブなど幅広く執筆・編集を手掛ける。各メディアでのレシピ提案ほか、食トレンドやニュース解説も行う。『大人の肉ドリル』(マガジンハウス)、『東京最高のレストラン』(ぴあ)ほか著書、共著多数。
次元の違う味わい。
箸を伸ばす手が止まらない
間違いのない贈り物として、肉を選ぶのは実はとても難しい。だがこの店の肉なら間違いない。全国の料理人垂涎の精肉店、「サカエヤ」が切り出した近江牛のすき焼き肉は誰もが歓喜する。
最上の肉を贈り物として選ぼうとすると、悩ましさが付きまといます。好きなレストランでの食事なら信頼するシェフが見事に焼き上げてくれるでしょうが、どんなにいいステーキ肉を贈ってもたいていの家庭ではどう調理してもらえるかがわかりません。
日本人にとって肉食は明治の文明開化まで、1000年以上にわたり禁忌とされていました。いまだに肉とのつき合いが血肉となっていない日本人にとって、薄切り肉を焼くすき焼きは唯一無二、誰もが美味しく調理できる継承された肉食文化でもあります。
だから僕は、大切な人への肉のギフトはすき焼き肉を選びます。それも自分にとって、とびきりのすき焼き体験をさせてくれた肉を。
滋賀県草津市にある精肉店「サカエヤ」。もはや肉好きに知らない者はいないであろう名店です。この店で、ステーキ肉、熟成肉、内蔵肉などさまざまな肉を求めてきましたが、近江牛のすき焼き肉をはじめて取り寄せて驚きました。サシは控えめなのに、味わいが極上。まさに次元が違うのです。
和牛、特にA5のような見た目に美しいサシの入った黒毛和牛は「すき焼きのための肉だ」といわれます。実はサシがビッシリ入った肉が苦手な僕もこれまですき焼き、しゃぶしゃぶなら美味しくいただいてきたつもりです。
しかしサシビッシリのロース肉は美味しさのピークは1枚目。対して、サカエヤの肉は1枚目の味わいも芳醇なのに、何枚食べても箸を伸ばす手が止まりません。赤身と小ザシと脂身のバランスが絶妙で、赤身部分の味は自然な濃厚さと軟らかさを備え、脂質はコクがあるのにさらさらと清らか。もたれる気配はみじんもありません。
このとき僕がいただいたのは、新保さんが信頼を寄せる藤井牧場のロース肉。自ら水田や牧草地を耕し、稲わらや飼料米など自家産の飼料で牛を育て、堆肥を耕作地に戻す循環型農法のベテランです。飼育頭数も100頭と少し。決して大きな牧場ではありません。
一度訪れたことがありますが、かたわらにあくびをする猫が寄り添うような、穏やかな空気が漂う牛舎でした。
「育て方がどれだけ肉の質に影響しているか僕にはわからんけど、しっかり仕事されているから、美味しいですよね。当たり前のことだと思います。僕は預かったお肉を切るだけ。ほっほっほ」と新保さんは笑いますが、その目利き力に加えて、空気を含ませるように肉をスライスする新保さんの技術は超一級品。その「切るだけ」にどれほどの技術が詰まっていることか。
薄切り肉そのものを味わう文化は、アジア圏独特のもので、すき焼きのように薄切り肉に繊細な加熱ムラを加える手法は日本でしか見聞きしません。
日本三大和牛にも数えられる近江牛。肉用牛としては本来禁忌だった江戸時代までさかのぼり、400年という圧倒的に長い歴史を史実に残しています。
一方で近江牛はその昔は但馬血統のみ、という縛りもありましたが、現在の条件は「滋賀県内で最も長く飼育された黒毛和牛」のみ。「近江牛」を名乗るのに、等級、経産・未経産、雌雄等その他の条件はありません。
だからこそ実直に仕事に取り組む生産者は、味や質とは無関係の条件を押し付けられない分、より美味しい和牛を育てることができる。どれがいい牛か、生産者を深く知る、目利きの存在がとても重要なのです。
新保さんは2001年のBSE禍の後、どの牧場がどんな血統の牛をどう育てているかを知るため、滋賀県内のすべての生産者の元を訪れました。
素性を知る牛をすべて骨付きの枝肉で仕入れ、店内に4つある条件違いの冷蔵庫に吊るして、届けるお客の顔を思い浮かべながら、仕上げていく。
そのときの新保さんの心情は、きっと僕ら消費者が大切な誰かに心を込めたギフトを贈るときの気持ちと同じ。
この肉は言葉の要らない手紙です。
世界最高の薄切り肉が焼かれ、
煮え立つ妖艶
美味しさのヒミツ
「足るを知る」仕事が最上の味を生む
肉の伸び代を五感で感じ取り、最適解に向けて誠実に仕事をする。フレッシュで美味しい肉には余計な手をかけず、熟成向きの肉は適正な熟成をかけて出荷する。過剰な仕事で自分を喧伝しない。「足るを知る」仕事が生む味だと思います。
松浦さん流!美味しい食べ方
僕は関西と関東の合わせ技。1枚目の肉はきっちり焼いて、香ばしく美味しく。でも家庭ですべての面倒は見られないので、他の具材を入れた2枚目以降は割り下を用意して鍋物として楽しみます。
つくり方
1. 鍋を温めたら牛脂を引き、ロース肉を広げる。
2. 肉の上からたまり醤油を一文字、上白糖を箸で散らし、昆布出汁で伸ばして肉をよい加減に焼く。
3. 他の具材を入れたら、割り下で調味。2枚目以降の肉は「煮」と「焼き」の中間くらい。
すき焼きギフト
価格|4428円(税込、送料別)〜
内容量|300g(2〜3人前)〜
原材料|近江牛
冷蔵|消費期限(出荷日を含み)5日
冷凍|賞味期限(出荷日を含み)30日
注文方法|Tel、Fax、インターネット
※Tel、Faxは銀行振込(前払い)のみ対応
滋賀県・草津市
将軍家も愛した牛肉産地の最古参
牛肉食が禁忌だった江戸時代から彦根藩は、幕府に献上する太鼓用の牛革確保のための畜産が許可され、独自の肉食文化が発展。干し肉や味噌漬けなどが将軍家へ献上される加工品の歴史も長い。現在、滋賀県産近江牛の出荷頭数は年間約7000頭。
サカエヤ
住所|滋賀県草津市追分南5-11-13
営業時間|10:00〜18:00
定休日|水曜、第4火曜
Tel|077-563-7829
Fax|077-563-8239
Mail|sakaeya@omi-gyu.com
https://www.omi-gyu.com/
text: Yukie Masumoto, Tatsuya Matsuura photo: Kenji Itano
Discover Japan 2021年12月号「ストーリーのある贈り物」