FOOD

《三陸海岸》
断崖とリアス海岸が生んだ
東北の魚介の宝庫
|ニッポンの魚が美味しい理由

2024.12.31
《三陸海岸》<br>断崖とリアス海岸が生んだ<br>東北の魚介の宝庫<br><small>|ニッポンの魚が美味しい理由</small>

ニッポンの魚が美味しい理由は「プレート」にあり!? 日本の地形と和食の関係を探る、マグマ学の世界的権威の巽 好幸たつみ よしゆきさんに、日本の魚が美味しい秘密を教えてもらった。今回は、北と南で対象的な地形をもち、魚介の名産である三陸海岸をご紹介。

北と南で対照的な地形が
恵む東北の魚介

青森・八戸の鮫角(さめかど)から岩手県を経て、宮城県の牡鹿半島南端に至る全長約600㎞の三陸海岸。岩手県の宮古湾付近を境に、北部と南部で地形が異なる。北部は隆起海岸で海岸段丘が発達し、直線状の海食崖が連なる。南部は沈降海岸で、海岸線が複雑に入り組んだリアス海岸を呈する
産業技術総合研究所地質図Naviを基に作成

陸奥、陸中、陸前の三国にまたがる三陸海岸は、北と南で対照的な地形を呈し、それぞれ魚介の名産も異なるのが特徴だ。

三陸海岸の背後には南北に北上山地が走るが、いまも続くその隆起によって北部は断崖が続く隆起海岸となっている。海岸は岩の多い磯浜で、海底には海藻が茂り、ウニやアワビの好漁場に。この地域で生まれた郷土料理が、ウニとアワビの吸い物「いちご煮」だ。 一方、南部の海岸は沈降海岸で、狭い湾と入り江が入り組んだリアス海岸が発達。波が穏やかで北上山地からの栄養分が流れ込む内湾は養殖真牡蠣の名産地だ。

北三陸の郷土料理「いちご煮」
青森県南部の太平洋沿岸に伝わるウニとアワビの吸い物。漁師の浜料理が大正時代に料亭の料理に。乳白色の汁に浮かぶウニが露にかすむ野イチゴに見えたことからこの名前に
写真提供=青森県観光情報サイトアプティネット
南三陸の海岸で育つ「真牡蠣」
南三陸のリアス海岸は波が穏やかで真牡蠣養殖が盛ん。北上山地からの栄養分で大きく濃厚に育つ。2011年の東日本大震災を機に大量生産から持続可能な養殖へ転換した
写真提供=南三陸町観光協会

なぜ北と南で海岸の地形が異なるのか?

隆起と沈降の仕組み
海溝型巨大地震に伴う地殻変動の仕組み。沈み込む海洋プレートが引きずり込んでいた陸のプレートの跳ね返りに伴い、地盤深部の物質が海溝側へ。地下で質量欠損が起こって地盤沈下する。その後薄くなった地殻を補うようにマントルが上昇し隆起に転じる
ジオリブ研究所の図表を基に作成

なぜ北は隆起海岸、南は沈降海岸、と地形が異なっているのか。2011年の東北地方太平洋沖地震の発生時に三陸海岸で急激な沈降が起こったように、海洋プレートの沈み込みに伴う巨大な海溝型地震が起きると、震源域の陸のプレートはいったん急激に沈降する。

しかし時間の経過とともに、薄くなった地殻を補うようにマントルが上昇して、地盤は隆起し回復していく。南三陸海岸が沈降海岸となっているのは、たび重なった巨大地震による沈降量のほうが回復期の隆起量より大きかったためと考えられている。このことから、日本海溝沿いでこれまでに何度も発生してきた巨大地震の震源は南三陸沖に集中していたのでは、とも推測されている。

line

text: Miyo Yoshinaga photo: Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries “Uchino Kyodoryori
Discover Japan 2024年12月号「米と魚」

青森のオススメ記事

関連するテーマの人気記事