クリエイターたちに聞いた
愛用品と一生ものの出合い方
うなぎの寝床|白水 高広
コロナ禍を経て、ものへの価値観が変わってきたように思う昨今。あらためてもの選びのヒントにしたい、自身の愛用品とその出合い方について、「うなぎの寝床」代表、白水高広さんにお話をうかがってみました。
〈うかがった方〉
白水 高広(しらみず・たかひろ)
1985年、佐賀県生まれ。大分大学工学部卒業。2012年7月に福岡・八女にてアンテナショップ「うなぎの寝床」を立ち上げる。メーカー、コンサルティングなど活動の幅は広がり、地域文化商社と業態を変更させ活動を続ける
普段使いのものから伝わる地域文脈に惚れる
僕が店頭に置くものをセレクトする基準は、「つくり手がどういう人か」、「地域性があるか」、「現代生活に使えるか」の3つ。「つくり手がどういう人か」というのは、ものづくりに対する姿勢や考え方のこと。個人か企業かは問わず、ものが生まれた背景や歴史がきちんとくみ取られているかを重視しています。「地域性があるか」は素材や原料の産地ではなく、その土地で文化として育まれているかどうか。ブリヂストンやムーンスターを例に挙げると、タイヤや靴底に使われるゴムは外国産ですが、両社とも久留米市に根ざして成長した企業として魅力があります。そして「現代生活に使えるか」というのは、時代にマッチしたユーザビリティと、時代の変化に流されず使いたいと感じられるかです。
プライベートなものを買うときも同じ理由が多いですが、機能性を無視したアート作品やユーモアがあるものを選ぶこともあります。最近は民芸品をモチーフにする作家・中谷健一さんの作品が気になっています。アートやファッションなどノンジャンルで触れるのは、リサーチ的な意味合いも含むのかもしれません。今回、愛用品として茶器を紹介しましたが、ブランドで統一せずに手に馴染むものを使い続けています。茶器は数多く所有していますが、結局いつも同じものを使っています。
美しさとは、必要最低限なフォーマットだと思います。ズボンやコップはずっと昔からあるもので、「足を通して履く」、「飲み物を注ぐ」という根本的な機能はいまも変わりません。それを飽きさせないデザインに落とし込むことで、普遍的な美しさとなるのではないでしょうか。僕はものが地域で生まれるまでの背景と、現在まで歩んできた歴史というストーリーを大切にしたい。久留米絣のもんぺも伝統工芸だから価値があるのではなく、戦時中の活動衣として使用されていたものが、履き心地のよさや動きやすさ、丈夫さから、いまでは生活の衣服として使い続けられていることが価値の本質です。食品産地は気にするのに、もののルーツを知ろうとしない人は多いように感じます。だからこそ、地域文脈をもったものを通じて街や人の魅力も再発見されればいいなと思い、アンテナショップ「うなぎの寝床」を開業しました。そのことが理由で、自分たちの会社を“地域文化商社”とうたっています。
白水さんの愛用品
「阿部眞士/祐工窯」のポット、「副島園/肥前吉田焼」の急須、「ムスタキビ/Mustakivi」の砥部焼カップ
日々の食卓や来客時など幅広いシーンに活躍するシンプルさ。上品な曲線とマットな質感に温かみを感じる。「毎日お茶を飲む習慣があり、8年ほど使っています」(白水さん)
佐賀県嬉野市の茶農園「副島園」からの依頼で、白水さんがプロデュースに携わった品。底を広く平らにすることで、茶葉が広がりやすいように工夫したデザインが印象的。
マリメッコのテキスタイルデザイナー・石本藤雄さんと砥部焼のコラボ。「青色が主張し過ぎず爽やかで、内側は白くてお茶の色が映えるのが気に入っています」(白水さん)
店舗のおすすめ
「うなぎの寝床」の久留米絣のMONPE
もんぺを現代風に解釈して再構築したシリーズの中でも、久留米絣の可能性に挑戦した作品。括りと注染の伝統技術によって、より深みのある柄とグラデーションになっている。
Data
価格|2万5300円
サイズ|S、M、L
読了ライン
うなぎの寝床(旧丸林本家)
住所|福岡県八女市本町267
Tel|0943-22-3699
営業時間|11:00〜17:00
定休日|火・水曜(祝日は営業)
Instagram|@unaginonedoko_shop
1|MOGI Folk Art/テリー・エリス & 北村恵子
2|Swimsuit Department/郷古隆洋
3|米富繊維/大江 健
4|SyuRo/宇南山 加子
5|うなぎの寝床/白水 高広
text: Miyu Narita, Ryosuke Fujitani, Jun Yamauchi, Miyo Yoshinaga
photo: Kohei Omachi, Akio Nakamura, Kazuya Hayashi, Hiroshi Mizusaki
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」