クリエイターたちに聞いた
愛用品と一生ものの出合い方
Swimsuit Department|郷古隆洋
コロナ禍を経て、ものへの価値観が変わってきたように思う昨今。あらためてもの選びのヒントにしたい、自身の愛用品とその出合い方について、「Swimsuit Department」代表、郷古隆洋さんにお話をうかがってみました。
〈うかがった方〉
郷古 隆洋(ごうこ・たかひろ)
1972年、東京都生まれ。ユナイテッドアローズ、ランドスケーププロダクツを経て、2010年にSwimsuit Departmentを設立。国内外で買い付けたヴィンテージ雑貨などを販売する「BATHHOUSE」を東京、名古屋、福岡で運営している
道具は、暮らしの中で使うからこそ美しい
僕はとにかくものが好き。中でも古いものが大好きです。なぜそんなに好きなのかよく聞かれるんですけど、自分でもよくわからなくて(笑)。あえて言うなら、いまとなってはつくれないものが存在していること、つまり存在そのものに惹かれると言えるかもしれません。
僕が愛用している土鍋のつくり手は、鳥取県・岩井窯の山本教行(のりゆき)さん。〝民藝のプロデューサー〟として知られる吉田璋也に民藝を学び、バーナード・リーチとの出会いから陶芸家を志された方です。山本さんも古いものが好きで、さまざまなものを収集しておられます。その共通点も含めて大好きなつくり手さんです。山本さんが生み出すものは機能的に優れているのはもちろん、山本さんならではの感覚を生かしたユニークなデザインが素晴らしいですね。土鍋もひと目惚れして購入しました。
山本さんが工房を構える鳥取には、民藝の精神が根づいていて、手仕事から生まれる魅力的なものがたくさんあります。僕が大好きな木工品もそのひとつ。今回、おすすめとして紹介しているのは、どれも吉田璋也がデザインしたヴィンテージ品。機能性とデザイン性を兼ね備えたかたちは、手仕事の高い技術力を物語ります。つくられてから時間が経つことで、同じものであっても色が変化したり、傷がついたりして、ひとつとして同じものが存在しないのも古いものの魅力ですね。
いまの世の中は、つくる側も買う側も情報が多過ぎて、頭でっかちになってしまっているように思います。足を運んで情報を集めるなんてこと、なかなかしないですもんね。一生ものと出合うには、そういう意味でのアグレッシブさが必要かもしれません。日本には、その土地ごとに個性的なものがたくさんあります。自分の足と目で、自分が本当にほしいものを探して、お金をかけて手に入れる。そしてそれを実際に使うことが大切。もの、特に道具は、使わないと本当のよさはわかりませんから。毎日使うことで愛着もわきますし、たとえば花瓶を使うために花を買いに行ったり、カップを使うためにコーヒー豆を挽いたりと、気に入った道具を使うことで、日々の暮らしまで変わります。自分の手から伝わってくるものを大切に、毎日の暮らしの中で使い続ける。その積み重ねが一生ものということなんだと思います。
郷古さんの愛用品
「岩井窯」の蓋付片手土鍋、両手付平土鍋
天然陶土でつくる土鍋は保温性に優れ、炊飯や煮込み料理に最適。「毎日、ご飯を炊いているうちに、自分好みの使い方がわかってくるのも楽しみのひとつです」(郷古さん)
岩井窯の定番土鍋に押紋で装飾を施したもの。「かたちがとても特徴的なハンドルの付け方にも、山本さんならではの感性が表れています」(郷古さん)
店舗のおすすめ
鳥取の木工品 運び盆
昭和初期、鳥取で民藝運動を広めた吉田璋也は自らがプロデューサーとなり、時代にふさわしい民芸品を生み出した。この運び盆もそのひとつで、1933年に璋也がデザインしたもの。
Data
価格|4万4000円
サイズ|W550×D335×H75㎜
読了ライン
BATHHOUSE
住所|東京都渋谷区神宮前3-36-26
ヴィラ内川201 Tel|03-6804-6288
営業時間|月〜水曜アポイントメントによる営業、木〜日曜13:00〜18:00
定休日|不定休
Instagram|@bathhouse_shop
1|MOGI Folk Art/テリー・エリス & 北村恵子
2|Swimsuit Department/郷古隆洋
3|米富繊維/大江 健
4|SyuRo/宇南山 加子
5|うなぎの寝床/白水 高広
text: Miyu Narita, Ryosuke Fujitani, Jun Yamauchi, Miyo Yoshinaga
photo: Kohei Omachi, Akio Nakamura, Kazuya Hayashi, Hiroshi Mizusaki
Discover Japan 2022年12月号「一生ものこそエシカル。」